今日の空はやけに白かった。晴れているのに、どこかぼんやりしていて、現実味がない。
それでも僕の足は、もう勝手にあいつのところへ向かっていた。
仏「(習慣って、こわいな、)」
いつもの場所に、やっぱりいた。
英「……来ましたね。」
仏「なんだよ、また律儀に花か。……もしかして今月の家計、削ってない?」
英「心配されるほど貧乏ではありません。多少、生命力は削ってますけど」
仏「おい。」
英「冗談ですよ……多分」
イギリスの声は冗談めいていたけど、目の奥は全然笑ってなかった。
ほんの数週間前までは、あいつの皮肉には温度があったのに――今のは、どこか冷たい。
仏「……今日の花、見せて?」
英「はい。これです」
差し出されたのは、真っ赤なポピーだった。
軽くて、柔らかくて、触ったら壊れそうなほど儚い。
風にそよぐその姿は、まるで“夢”みたいだった。
仏「……これの花言葉、知ってる?」
英「“慰め”、あと、“眠り”……でしたっけ」
仏「それ、どっちの意味で選んだ?」
英「さあ。忘れたくて選んだのか、救われたくて選んだのか、自分でもよくわかりません」
仏「……」
英「でも一つだけはっきりしてます。“今の私は、起きてるのが少し面倒”ってことです。」
仏「……バーカ」
英「はいはい。」
仏「…そういうの、軽く言うなよ」
英「じゃあ、重く言いましょうか? “私は、そろそろ夢の中に逃げたいんです。できれば二度と起きたくない”」
仏「やめろよッッ!!」
つい声を荒げた僕に、イギリスは少しだけ驚いた顔をした。
でもすぐに、ふっと目を細める。
英「……驚きました。フランスが、こんな大きな声出すなんて。」
仏「当たり前だろ。……お前、そんな顔で笑うなよ」
英「どんな顔ですか」
仏「……壊れかけてる顔」
英「……」
イギリスが目をそらす
仏「そんなの、慰められねぇよ」
もう一度イギリスが僕の目を見つめ直して言った
英「だからポピーなんですよ。“慰められない人に、せめて花を”。そういう意味です。」
仏「……もう、渡さなくていい」
英「……どうして?」
仏「渡されるたびに、僕の方が壊れそうになる」
英「……ずるいですね、そういう言い方。」
仏「お前に言われたくないよ、」
言葉が途切れたあと、ふたりとも黙った。
ふと風が吹いて、ポピーが揺れる。その度に、赤い花びらがふわりと浮かび、まるで夢の破片みたいに見えた。
英「……でも、明日も持ってきますよ」
仏「……だから、やめろって」
英「そう言うなら、貴方が先に止めてください」
仏「……は?」
英「貴方が私に“必要だ”って言ってくれたら、花なんて渡しません」
仏「……っ」
英「言えないくせに、心配ばっかりする。ずるいですよ、ほんと」
仏「……」
そのまま、イギリスは何も言わずに歩いていった。
風の中に残ったのは、赤いポピーと、
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