テラーノベル
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翌日、朝食の席で祖母がにこにこと話し始めた。
「今日は隣の町でお祭りがあるから、みんなで行こうね」
祖父もにっこり笑いながら
「涼架くんも一緒に来るかい?」
涼架は少し照れながらも、「はい!ぜひ!!」と僕の隣に座った。
-夕方、町は提灯の灯りと太鼓の音でにぎやかに彩られていた。僕たちは肩を並べて屋台の通りを歩き始める。「どの屋台から回る?!」
涼架が目を輝かせて聞いた。
「じゃあまずはチョコバナナかな」僕が答えると涼架は「いいね!」と笑顔を見せた。
屋台のチョコバナナを買って一緒に食べながら「涼ちゃん、祭りは楽しい?」と尋ねると、涼架は口いっぱいにチョコバナナを頬張りながら、「すごく楽しい!屋台の匂いとか音とか、全部わくわくするよね!」
僕はその無邪気な笑顔に自然と笑みがこぼれるのと同時に、細長く、少し曲がった形状のチョコバナナを口いっぱいに頬張る涼架の姿を見て少し良くないことが頭に浮かんでくる。逆に高校2年生だから仕方ないという考えにまで至りそうだった。
次に射的に挑戦したり、金魚すくいをして盛りあがったり。時折、涼架が僕の肩にちょっとだけ寄りかかる瞬間があって、そのたびに胸が熱くなった。
「ねぇ、元貴くん」
涼架が手を伸ばして、僕の手を軽く握った。
「今日は僕たちにとって特別な日になったかなぁ、、、」
僕はドキドキしながらも、きっと貴方には特別な意味はなく言った言葉なのだろうと寂しくなる。
ぎゅっとその手を握り返した。
「きっと何年、何十年先も覚えてるよ」
夜空に花火があがり、祭りの喧騒の中で僕たちは確かに近づいていった。
屋台の通りを歩きながら、僕は焼きそばを買った。湯気が立ちのぼり、香ばしい匂いが食欲を唆る。「涼ちゃん、はい、あーん」
焼きそばを小さく箸でつまみ、涼架の口元に運んだ。涼架は目を輝かせて、嬉しそうに「あーん」と口を開ける。「どう?」と聞くと、涼架は満足そうに頷いた。「おいしい!元貴くんありがとう!」その瞬間、涼架の口の周りにわたあめの甘いベタベタがついているのに気がついた。先程買ったわたあめを夢中で食べすぎたらしい。そんな所もかわいいなと思う。
「ちょっと待って、口拭くね」僕はハンカチを取り出し、涼架の口元をそっと拭いた。
僕がハンカチで涼架の口元をそっと吹いているとき、ふと彼の体の硬さに気がついた。
涼架の瞳が少し大きくなって、頬がほんのり赤く染っている。普段は天然で無邪気な彼の、少し違う、一面が見えた気がした。
拭く手が一瞬止まったけれど、気づかなかったふりをしてもう一度丁寧に拭いた。
涼架は照れくさそうに目を逸らし、でも何処か嬉しそうに息を吐いた。その瞬間、もう何度目か分からないくらいきゅんとした。
彼の胸の鼓動が聞こえるような気がして、僕もドキドキが止まらなかった。
「あ、ありがとう、、、元貴くん」
小さく消え入りそうに囁かれたその言葉に、僕はまた胸が熱くなった。
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