1988年6月17日 東鶫治海軍航空基地
3番格納庫
梅雨の雨の中格納庫から2人の話し声が聞こえる。 機体の整備中のようである。
「あとどれくらい掛かる?」
覗きに来た喜多が尋ねる。
「うーん、最低でも1、2日はかかりそうだなぁ」
そう言いながら整備を続ける。
整備しているのはF/A-14「朱焉」、可変翼の大型戦闘機で、ドッグファイトには有利な機体である反面、ある体勢になるとエンジンが停止するという欠点もある。
2日前の訓練で期待の性能ギリギリまで運動を行い、危うく空中分解しそうになっていた。
「第一、無理な運動するあんたがダメなんじゃないのかい」
そう言い聞かせるのは整備士の磯貝である。
「そうしないと勝てないんだよ教官達には」
喜多は、少し怒り気味に言った。
そんな中、1台の車に乗ってある人物が出てきた。雨に濡れた軍服を身に纏う男、恐らく指揮官の部下なのだろう。彼が忙しそうに言った。
「指揮官殿から喜多中尉に任務があるので本部へ来いとの事であります」
「私が?」
「はい。」
突然来た初めての任務であるため驚くのも無理は無い
「喜多、行ってきな。」
「機体は?」
「大急ぎで直しておくから、ほら。」
「ありがとう、あとは頼んだよ。」
そう言い、荷物をまとめ車に乗る。
「でもなんで私なんかが選ばれたの? 」
「喜多殿は他のパイロットよりも優れていることがいくつかあります、ですので今回抜擢されたと思っております。」
「優れているって……普通に飛んでいるだけさ」
「でも、あのコブラ機動を成し遂げられるのはこの基地だとあなただけですよ。」
そうしてある程度会話を続けると本部がある庁舎が見えてきた。30年ほど前に建てられた、少し古い庁舎である。
中に入ると5人のパイロットと指揮官、その部下が何名か居た。
「急ぎの要件であるから、手短に言う。」
深刻な顔をした指揮官が内容を説明する。
「昨日未明、偵察をしていた潜水艦が主機の故障により航行不能となった。それだけならまだいいが場所が敵国領海の中だ。そこで君たちには潜水母艦の護衛をしてもらいたい。
そのため君たちは今日付で空母瑞鶴のVFA-203(第203戦闘攻撃飛行隊)に転属とする。」そうして指揮官が説明をし終えると質問が飛び交った。
「以上と言ったら以上だ、さっさと準備をしろ」
そうして共に搭乗する里山と一緒に荷物をまとめて輸送機に搭乗した。
「私が君たちの隊の隊長である熊谷だ。 機体は瑞鶴に載せてあるものを使ってくれ、君たちの愛機とは少し違うかもしれないが乗り心地は海軍一だぞ」
そうして海軍航空基地を飛び立った輸送機は空母瑞鶴に向かっていった。
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