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翌日。 午前中のうちに旅支度を整えた俺たちは、混み合う町中を辛くも抜けて、見通しの良い街道へ出た。

いまだ祭りの最中とあって、幾分にも後ろ髪を引かれる思いはしたが、こうした運びとなっては仕方がない。

いつ何どき、再び急襲を食うハメになるか分からない以上、ひと所に留(とど)まっておくのはマズい。

てめえで撒いた種なのは言うまでもないが、その迸(とばっち)りで、同行人に面倒をかけるのは不本意だ。

『俺だけ先に行くわ。 オメーらは適当に』

そのように提案したところ、これは速攻で却下される運びとなった。

アイツらのお節介も、ここまで来るとありがた迷惑とまでは言わないが、何となく手綱を握られてるようで決まりが悪い。


「ホントにバス停あんの?」

「あるよ! ほら、マップに出てる。 もうすぐ!」

町を発(た)って、およそ小半時が過ぎようとしていた。

思い切って電車を利用すれば良かったか。 いや、さすがにあの人混みでは。

駅の周りには、祭りの見物に訪れた連中が黒山の人だかりをなしており、あれを掻き分けて進む度量が俺たちには無かった。

ゆえに、こうしてせっせと手広い街道を歩んでいる最中なワケだ。

「そういやユキちんさ? あ、スノウルさんの方がいい?」

「いえ、お好きなほうで」

あの女の相棒の名は、たしか霙(みぞれ)といった。

精神年齢が近いせいかも知れない、小娘とすっかり打ち解けたようで、仲良く手をつなぎ、互いにご満悦だ。

その模様に瞳を細めたアイツが、横合いに声をかけた。

怖いもの知らずと無神経は紙一重というが、コイツの場合は一種のビョーキみてぇなもんか。

あの女も同行すると言い出した時は、いったいどうなる事かと危ぶんだが、冷静に考えれば、これは意外と得策かも知れない。

胸ん中に一物も二物も秘めてるような奴だ。

気晴らしと呼べるか定かではないが、この道々で何かしら、心の氷凝(ひこ)りに変化でも生じれば、それは本人にも、小せぇ相棒にとっても喜ばしいことだろう。

「まだちゃんとお礼言ってなかったかも」

「あん?」

そんな時、アイツが何やら上目遣いで物を言った。

昨日のことを指してるんだろうが、礼を言われる筋合いは無い。

むしろ、詫びを入れなきゃならねぇのは

「別に。 荷物持って帰んのは当たり前だろうがよ?」

この時ばかりは、手前(てめえ)のへそ曲がりにほとほと嫌気が差した。

けど、これはもう持って生まれた性分なのでしょうがない。

それにしても誰だ? 余計なこと垂れ込みやがって。

「気にしない! 背中(せな)の感触楽しんでただけだからね? こいつ」

相棒(こいつ)か……。

こっちもこっちで、ざっくばらんな性格は生来のものだろうし、今さらそこを突っつく気にもならない。

この後はどうするつもりかと訊けば、愛想もへったくれもありゃしねぇ、次の町で別れるという。

まぁ、奔放な生き様を象徴するような足取りは、こちらとしても変わらないものを見る安心感と言うか、これはこれで快(こころよ)くはあるんだろう。

ふと気を向けると、アイツが柄(がら)にもなく身体の前面を守(も)るような仕草を演じている。

その模様に少なからずイラッとしたが、先頃の反省もあって、赤心を口に出すのにそう苦労は無かった。

「借りは作りたくねぇからな」

「む?」

「試合ん時……、まぁいいや」

この道草で得たものとは、何だろうな?

動物の生存本能が、曲がりくねって結実した剣呑な技芸、それを派手な催しに活用するイカれた町は、案の定(じょう)ひと筋縄ではいかなかった。

あの町長は、次回もまた遣(や)らかすのだろうか。

いや、ヘタをすると来年度の準備が、縁の下では早々と始まっているのかも知れない。

それについては、もう仕様がない。

大部分の町衆は、年に一度の大々的なイベントを、心の底から楽しみにしている。

実際に出てみて分かったが、選手間にはそこまで胡乱(うろん)なものが蔓延(はびこ)る余地はなく。

大部分がバカ正直なほど爽やかで、そんな連中と殴り合うのは、気晴らしには持ってこいだった。

つまりは立派な娯楽である以上、これに無闇な難癖をつけるのは憚(はばか)られる。

しかし、大会の裏で節操なく動き回る金銭であったり、強欲の類(たぐい)については……。

それはまぁ、おエラいお天道さまにでも任しときゃいいか。

少なくとも、人間(オレ)たちが口を出す筋じゃねぇ。

「………………」

たしか扇屋っつったか。 ゴタゴタに紛れて行方を眩ましたあの野郎は、これからどうするつもりだろう?

組織に戻ることは、もちろんまかり成らねぇはずだ。

件(くだん)の黒幕は、あいつにも追っ手を差し向けるのだろうか。

同僚に対する特別な感情なんざ持ち合わせちゃいないが、ほんの少しだけ気の毒に思うのは、おなじ逃亡者(のがれもん)としては当然の心持ちか。

ただ、あいつと俺とでは、多少なりと境遇が違う。

『やっぱり虫が良すぎやしませんか? 無罪放免ってのは、あまりに』

騒動が終わった後、おもむろに踵(きびす)を返すボスの背中を、俺は慌てて呼び止めた。

かける言葉は何でも良かった。

肩を落として歩むうしろ姿が、どうにも哀れで、このまま行かせるのは余りに忍びなかったのだ。

『……お前さん、楽しいかい? いま』

『え?』

こちらを返り見た彼女は、いまだ潤みがちな瞳をやんわりと曲げて、そんな質問をよこした。

「………………」

空を見る。

いい日和(ひより)だ。

働きアリとして、言われるがままに血腥(ちなまぐさ)い道々を必死に駆けたあの頃。

風の吹くままに、錆び付いた世の中をぶらぶらと渡る現在。

どっちが楽しいかと訊(き)かれれば、答えは決まってる。

今はとにかく、諸々の埋め合わせとして、次の町でうまい物をたらふく食わせてやると連中に約束した手前、果たして懐具合がどうなるか。 それが目下、最大の気掛かりだった。

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