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月夜、逍遙する影を追っても。
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登場人物:星導 叢雲 小柳 伊波
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「お前らって、どういう関係なん?」
「えっ?」
その瞬間、時が止まった。
カゲツがソファから上半身を捻ってこちらをじっと見てくる。
まるで俺の心を見透かしたみたいに。
「どういう関係って何ですか。」
隣で星導が笑った。
「いやだって結構いちゃついとるから。ワンチャン付き合っとるんじゃないかって思ってさ。」
「いやいやいや!そしたら俺とカゲツ気まずいからマジやめてね⁈」
伊波がカゲツに抱きつく。
「ないから、ないから安心して〜。」
ヘラヘラと笑う星導を見て、また時の流れが戻ってきた。
そうだよな、ないよな。
星導の言葉が何故かチクチク胸に刺さる。
何故かって、理由くらいほんとは分かってる。
「星導とか、絶対無いし。」
俺は料理をする手を再び動かし始めた。
最近、俺と星導は料理にハマっている。
今日はそれをディティカに振舞おうと俺の家に集まったのだ。
「てかさ、ガチで料理してるるべとか初めて見たんだけど!」
伊波が叫ぶのにカゲツが乱入する。
「俺は前にバイト組でケーキデコレーション配信一緒にしたから。」
「あれは料理って言わないだろ!」
「いやちゃんとした料理やで?デコレーションは。」
「まあ料理しない人からしたらそうなのかもしれないけど…。るべは?料理するようになったるべからしたら、もうデコレーションは料理じゃない?」
「料理やんな⁈」
伊波とカゲツが俺が正しいだろと睨みに近い熱い眼差しを星導に向ける。
それに狼狽えもせず、星導は言い放った。
「あれは、料理ですね。」
「えーーー!」
「よっしゃー!」
伊波は倒れ、カゲツはガッツポーズをとる。
「マジかよ?」
「あれは、料理の入門です。」
「マジかー。」
項垂れる伊波に星導は続けて言った。
「実際、俺が料理に目覚めたのもあれがきっかけだしね。」
「えっ、ウェンじゃなかったの。」
伊波が不思議そうな声を上げる。
「んーまぁ、あの場にウェンも居たから、ウェンだって言っても過言ではないかも。」
「過言だろ。」
変な論理を展開する星導にすかさずカゲツが突っ込んだ。
「そうなんだ。そんなに楽しかったの?」
「楽しかったぞ、あれは。なんせ俺が居たんだからな。」
「その謎い自信、俺も欲しいわー。」
とテキトーなことを言ってやる。
「ロウは?ロウはあの配信居なかったよね。」
今度は伊波が俺に問いかけた。
「え?俺は、まあ、星導の影響かな。」
料理にハマった星導は、徹底的に俺を呼び出した。
まあその前からそんなことは何度もあって、俺はその度に星導に会いに行った。
夜中だろうが平日だろうが構わず。
「えー何それ、もうカップルじゃん。」
「だから違いますってー。」
「だってこの家だって、るべが言ったら開けてくれたんでしょ?」
「そうなんですよ、いつもありがとうございます。」
星導が俺にぺこりと頭を下げた。
いつも
「まあ別に何にも予定なかったし、家も散らかってなかったしな。」
本当は違う。
予定は入れなかったし部屋も片付けている。
「ロウって部屋散らかってることあるの。急に予定入れてもこんな綺麗なのに?」
カゲツが辺りを見渡す。
「最近はちゃんと片付けるようにしてるんだよ。」
俺は星導に習った手順でキャベツを鍋に全て入れた。
「彼は用意周到なんですよ。」
「用意周到か…。俺には無縁の言葉だな…。」
用意周到。彼が使った意味とは違えどその言葉通りなのかもしれない。
実際、俺はいつだって星導に会えるように用意はしてある。
でも、星導はそれに気づかない。
気づかせない。
それに気づかれて仕舞えば、この気持ちがバレて仕舞えば、この関係はお終いだから。
「無縁で良いんじゃないか…?」
毎日会えるかもって期待して、毎朝連絡がきてるか確認して。
一応って準備したヘアメイクが無駄になった土曜日がいくつあっても、
急に会えるってなって急いで準備した平日がいくつあっても、
俺はいつだって、お前の為じゃないって顔して生きてきた。