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放課後、教室では次の行事で使うための装飾作業が行われていた。
拓実はクラスのムードメーカーである男子・佐藤に声をかけられ、一緒にポスターを作ることに。
「川西、お前デザイン考えるん上手いな。こっちの部分も頼んでええ?」
「ええけど、別にそんな上手くないし」
「いやいや、お前のセンスに助けられてるわ!」
そんな風に楽しそうに話す二人を、教室の隅で作業をしている純喜はちらちらと見ていた。
(佐藤、めっちゃ嬉しそうに話しかけてんな……)
普段はどっしりと構えている純喜も、今日はどうにも落ち着かない。
特に、佐藤が拓実にやたらと距離を詰めているのが気に入らなかった。
「……俺、やっぱポスターの方行けば良かった」
純喜はそう言って、立ち上がりながらわざと大きな声を出す。
「なあ拓実、手ぇ空いてるなら俺の方手伝ってや!」
佐藤と話していた拓実が顔を上げる。
「純喜くん、何言うてんの。そっちめっちゃ人おるやん」
「いやいや、拓実がおらんとアカンねん!」
無理やり言い張る純喜に、拓実はため息をつきながら答える。
「ちょっと待ってな。これ終わったら行くし」
(なんやねん、それ……)
純喜は心の中で拗ねながら、結局飾り付けに戻った。
その日の帰り道。
拓実と純喜はいつものように並んで歩いていたが、純喜の表情はどこか不機嫌そうだった。
「……純喜くん、何か機嫌悪いん?」
「別に」
「はあ?絶対『別に』ちゃうやん」
拓実がじっと見つめると、純喜は観念したように口を開いた。
「やって今日、佐藤とばっかり話してたやん。俺のこと全然気にせえへんかったやろ」
「……なんや、それ」
「なんやそれ、ちゃうわ!俺は拓実とおりたかったのに!」
珍しく本気で拗ねている純喜に、拓実は少し驚く。
「純喜くん、あのな……ただの作業やし、別に特別なことちゃうで」
「でも俺、佐藤のあの楽しそうな顔見て、めっちゃ嫌やった」
「……」
拓実はしばらく無言だったが、ふいに純喜の腕を引いて立ち止まらせた。
「純喜くん、アホちゃう?」
「は?」
「俺が誰とおったって、俺が一番落ち着くんは純喜くんの隣やねん」
その言葉に、純喜は目を丸くする。
「だから、そんな顔せんといて。……純喜くんの嫉妬とか、こっちが恥ずかしいわ」
「俺の嫉妬……?」
「そうやで。純喜くん、嫉妬したんやろ?」
拓実がそう言いながら笑うと、純喜は顔を赤くしながら反論する。
「別に嫉妬とかちゃうし!ただ、俺が拓実とおりたかっただけで──」
「それを嫉妬言うねん」
拓実は嬉しそうに純喜の手を握り、小さな声で続けた。
「……ありがとな、純喜くん。純喜くんが俺のことそんな風に思ってくれて、ちょっと嬉しい」
その後、二人はまた並んで歩き出す。
純喜はまだ少し照れくさそうにしていたが、手を握られたまま歩くその感覚が心地よくて、自然と笑みがこぼれた。
「なあ、拓実。これからもずっと、俺だけ見てくれる?」
「……純喜くん、それめっちゃ重い」
「ええやん。俺は重たいぐらいがちょうどええと思うけど?」
そう言ってふざけながら笑い合う二人の背中を、夕日が優しく照らしていた。