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「重たい魔力の感覚は覚えたわね。イツキ」
「う、うん。お腹の中にあるやつ……だよね」
「そう。この重たい魔力はより位相いそーが高いの」
位相ってなんだよ。
しかし、なんだか高ければ高いほど良い感じっぽいので、俺は黙って重い魔力に意識を向ける。
そうやって意識を向けてみれば不思議なのだが、今まで知らなかっただけで、その重たい魔力と軽い魔力は俺の身体の中にあったことが分かるのだ。
それはまるで俺が『魔喰い』に襲われた後に、魔力の熱を知覚したのと全く同じ。
知るまでは分からないが、知ったらもう戻れないのだ。
こう言うとあれだが、要は自転車の乗り方と一緒なんだよな。
あれも覚えるまでが大変だが、覚えてしまえば忘れない。
一気に言葉がチープになった気もするが、カッコいい方が俺のテンションが上がるので前者で行こう。そっち方が絶対に良い。
「いま、イツキが精錬せーれんした魔力は第二位相レベル2。強い祓魔師えくそしすとは、この重い魔力をもっともっと重くするんだけど……それはまだ私もできないから教えられないわ」
「……第二位相」
なるほど。ちょっとずつだが、分かりかけてきた。
普通の魔力が第一位相レベル1で、いま重たくしたものが第二位相レベル2。
なるほどね?
「昔、私たちの国の魔術師えくそしすとは、魔力をずっとずっと精錬せーれんし続ければ、それが世の中のあらゆるものの素・になるって考えたの。それが超純粋魔力プラマ・マテリア。そして、それを探しだすのが錬金術あるけみあ!」
「錬金術!? それ聞いたことあるよ!」
あ、錬金術ってそうだったの?
なんかポーションとか作ってる印象だったわ。
……まぁ、俺の印象は色々ネットに毒されているから当てにならないんだけど。
「そのやり方を取り入れて、重たい魔力だけを抽出ちゅーしゅつし、身体の外・に出すまでが『錬術エレメンス』っ! 歴史ある由緒ただしい魔法なんだから!」
そういってニーナちゃんは胸を張った。
く、詳しいな。ニーナちゃん。
俺は全然、日本の魔法に詳しくないのに……と、ちょっと落ち込んでいると、ニーナちゃんの言葉に気になるところがあった。
「え? 魔力を外に出すの??」
「そうよ。魔力を外に出せないと、『錬術エレメンス』は完成しないもの」
「え、えぇ!? 3歳から魔力を身体の外に出す練習してるの?」
「日本だとしないの?」
「うん。しないよ。日本だと、魔力を身体の外に出すのは『絲術シジュツ』って言うんだけど、練習するのは5歳から」
「ふうん? 国によって変わるのね」
言ってから、思った。
それも当然なのだろう、と。
レンジさんも、父親も『廻術カイジュツ』のことを『魔力操作に慣れるため』と言っていたが……あれはきっと、半分だけ正解だ。
もう半分は魔力のム・ラ・を・無・く・す・ため、というのが答えだろう。
魔力は身体の中にある力で、重い、軽いというのもあくまで体感の話でしかないのだが……ここにムラがあると、魔法の成功率や威力が安定しない。それが、分かる。直感で理解できる。
そしてそれは祓魔師として、戦っていく上で、不利にしかならないということも。
俺だって雷公童子と戦った時は、『朧月』の威力が安定するからこそ、それを信じて最後まで諦めずに戦うことができたのだ。
もしあれの威力が使うたびにブレるのであれば、そんなの切り札として持っておけるはずがない。
そして、その安定性を実現したのは『廻術カイジュツ』によって、まるでカレールーを溶かすかのように身体の中にある魔力の質を均等にしていたからである。
あぁ、だから『廻術カイジュツ』って大事だったんだ。
俺の脳を突き刺す閃き。
アハ体験である。
……今の小学生にアハ体験って伝わるのかな。
俺のつまらない考えがニーナちゃんに伝わっているはずもなく、彼女は淡々と続けた。
「ま、今はどうだって良いわ。イツキ。練習の続きするわよ」
「……うん。分かった」
俺はそう言いながら、身体の中にある位相の高い魔力――重い魔力に意識を向ける。
「それを動かすのよ。できる?」
「……う」
小さく声を漏らす。
意識して動かそうとするのだが……ダメだ。外に出せない。
試しにちょっと動かしてみたのだが、丹田から重い魔力を身体の中に出した瞬間に身体の中にあった軽い魔力と混じり合って、中途半端な魔力になってしまった。
「難しいでしょ」
「……うん。混ざっちゃう」
「こればっかりは慣れるしかないわ」
「……ん」
慣れるしかない、と言われてしまえば俺も唸らざるを得ない。
そう言われれば後は本当に慣れるしか無いのだから。
前世の俺はそういう話をされると『根性論とか今どき流行はやんねーよ』と、心の中で悪態を付いていたのだが……世の中、最終的には努力と根性を積み重ねるしかないラインというものが存在するのだと現世で知った。
そしてやる気でやれば人間、案外なんとか出来るようになるということも。
そんなわけで、俺は重たい魔力だけを外に出そうとするのだが……出ない。試しに大福のように、軽い魔力で重たい魔力の周囲をコーティングしてみたのだが、そしたらコーティングされるまでもなく、互いに混じり合ってしまった。
残念ながら魔力は大福にならなかった。
他になにか手段はあるか……と、思った瞬間、俺の腹を痛みが貫いた。
あ、ダメじゃん。
さっきのやつ気のせいじゃなかったじゃん。
「あ、ニーナちゃん。ごめん」
「何? もう降参ギブアップ?」
「ちょっと、トイレ……」
「さっさと行ってきなさいよ」
俺はニーナちゃんに呆れられながらも、誰もいない1年生エリアを歩いてトイレに向かった。
それにしても、みんな帰ってて良かった。
小学校でするものをしようものなら、うんこマンなんてあだ名を付けられるからな!
俺はスリッパに履き替えて、洋式の方に入った。
今どきの小学校はトイレが洋式なのだ。
良いなぁ。
俺の時は和式だったもんなぁ……。
そんなことを思いながら腹痛に意識を向けていると……とある考えが鎌首をもたげてきた。
「…………」
いや、俺だってこんなこと考えたくなかった。
流石に1歳とか2歳だから許される行為であって、6歳になってまでこんな方法を試してみるのはいかがなものかと思う。本当に思っている。でも、気になるのだ。
さっきの重たい魔力、このまま出せるんじゃないのかって。
いや! いやいや! 流石にダメだろ!!
何がダメなのか具体的には言えないが、ダメなものはダメだろう。
「……うーん」
でもトイレでしてるしな……。
おむつの時は母親の変える手間があったのだが、トイレでする分には誰にも迷惑がかからないといえばかからないのだ。なら、別に良いのか?
思えば『絲術シジュツ』の時も最初に出たのは尻からだったしな。
……やってみるか。
思うだけ思って、力んだ。
俺はうんこマンだった。
「遅いわよ」
「ごめん」
教室に戻った俺はニーナちゃんと向かい合う。
「ちゃんと手洗ったの?」
「うん。ちゃんと洗ったよ」
「じゃあ、続きやるわよ」
そういってニーナちゃんは俺のお腹に手を当てた。
実は重たい魔力を外に出せたという話は流石に黙っておいた。
ニーナちゃんに話せないというよりも、俺のプライド的に話せなかった。
言えるか、こんな話。