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【メチャクチャ人せい】
Episode.9 君のせいだよ
《🎼🍵side》
居酒屋のバックヤード。
店が少し賑わい始めた頃。
店長に呼ばれた。
なんでだろ。
シフト変更かな、とか。
そんな軽い予想をしてた。
椅子に座る。
店長、目を合わせない。
「あのな」
声が、低い。
「君の家庭が大変なのは分かってる」
その言葉で、胸がざわつく。
「でも、こっちも商売だ」
間。
「ミスをされても、困るんだ」
頭が、真っ白になる。
🎼🍵「……」
「今日から、来なくて大丈夫だから」
来なくていい。
つまり。
クビ。
え?
なんで?
俺、そんなに?
言葉が出ない。
🎼🍵「……すみません」
それしか言えなかった。
◇
外に出る。
夜風が冷たい。
……どうしよう。
頭の中が、ぐちゃぐちゃ。
バイト探さなきゃ。
生活費、稼がなきゃ。
この間、父さんに金取られたばっかだ。
財布を確認する。
千円札、一枚。
五百円玉。
小銭。
……1800円。
少なすぎる。
桁が、足りない。
働かなくちゃ。
でも。
カフェ。
クビ。
ミス多量。
コンビニ。
クビ。
ミス多量。
ファストフード店。
クビ。
ミス多量。
今日で、居酒屋も。
クビ。
四回目。
ここ二週間で、全部。
全部、なくなった。
みことさんが、店長と何か話してる。
俺のこと、かな。
でも、聞こえない。
音が遠い。
ただ、「クビ」って言葉だけが、頭の中で反響してる。
クビ。
クビ。
クビ。
嘘でしょ。
そんなの、嘘。
お金、どうしよう。
父さん、どうしよう。
赤ちゃん、どうしよう。
俺、どうするべきかな。
分からない。
考えられない。
脳死で、足を動かす。
帰り道が、やけに遠い。
まだ22時。
本当なら、働いてる時間。
レジ打って。
皿運んで。
怒られて。
謝って。
それが、ない。
空白。
空っぽ。
アパートの前に立つ。
息が、浅い。
鍵を回す。
扉を開ける。
父さんがいる。
珍しい。
でも。
空気で分かる。
機嫌、悪すぎる。
「あ?」
低い声。
「金は」
席を乱暴に立つ。
足音が近づく。
息が荒い。
俺は、無意識に震えてる。
手が、自分の服を掴む。
ぎゅっと。
🎼🍵「……ない」
喉が、詰まる。
「働け。稼げ」
🎼🍵「……全部、クビになった」
その瞬間。
視界が、揺れた。
打撃。
一発。
二発。
三発。
何度も。
何度も。
なんども。
痛い、とか。
そんな言葉、出てこない。
ただ、衝撃。
床に叩きつけられる。
赤ちゃんが、泣き出す。
甲高い声。
父さんの顔が歪む。
「うるせぇ!」
さらに、苛立ちが増す。
打撃が、止まらない。
腕で庇う。
でも、意味ない。
蹴られる。
殴られる。
息が、できない。
赤ちゃんの泣き声が、部屋を満たす。
俺の耳鳴りと、混ざる。
夜が、長い。
終わらない。
やめて、って言えばよかったのか。
ごめん、って言い続ければよかったのか。
分からない。
分からない。
◇
朝焼け。
カーテンの隙間が、うっすら明るくなる。
ようやく、静かになる。
父さんは、俺のバックを漁る。
最後の給料。
見つかる。
持っていく。
終わった。
完全に。
部屋が、静まり返る。
赤ちゃん、ずっと泣いてる。
俺は、動かない。
触らない。
起き上がれない。
何かが、壊れた。
胸の奥で、音がした気がする。
ぱきん、って。
赤ちゃんの泣き声が、頭を刺す。
うるさい。
うるさい。
うるさい。
でも。
抱き上げない。
立ち上がらない。
目も、合わせない。
床に倒れたまま。
天井を見る。
ぼそっと。
自分でも気づかないくらい小さい声で。
🎼🍵「……君のせいだよ」
何も、おかしいと思わなかった。
それが、異常だって。
その時の俺は。
分からなかった。
next.♡900
コメント
5件

色々我慢してたのが 壊れちゃったのかもね、… 最後にいろんなことが重なって 壊れちゃったんだね…