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夜も深まった頃、シンはレーナの元を訪れていた。 眠るレーナの横に、静かに腰を下ろし目を閉じた。




俺と彼女は、有色種と白系種で、指揮官と

エイティシックス。 差別される側の俺たちと

差別する側の彼女、そんな俺たちは出会ってしまった。


前任の指揮官の後釜として彼女は、俺が率いるスピアヘッド隊に配属された。

齢17で少佐まで上り詰めた彼女は生真面目だ。

今までの指揮官は、報告書など読みもしなかった。だから俺も適当にしか書かなかった。けれど、彼女だけは違った。きちんと読んでいたのだ。

その日から、決まって定時に知覚同調を繋げる彼女。俺の目には、それが酷く滑稽に見えた。

エイティシックスに心を砕けば、その分だけ共和国市民から白い目で見られるというのに。


そんなある日、彼女の指揮した作戦で仲間の1人が死んだ。死はいつも俺たちの日常にある。けれど、悲しまない訳がないのだ。そして、俺たち同様に悲しんだ彼女に、誰かが怒声を浴びせた。

名前も聞かなかった彼女に、偽善者だと罵ったのだ。

彼女は小さく謝罪し、知覚同調を切る。

きっともう彼女は連絡してこないだろうなと俺も、仲間も思っていた。

でも予想に反して、彼女は知覚同調を繋げた。そして、1人1人の名前を聞いていった。


彼女は俺の兄を知っている事を知った。

この首はスカーフで隠しているがその下には、兄によって付けられた傷が首を一周している。

彼女は兄に助けられたのだという。その時に彼女の父親は死んでしまったのだけれど。

彼女は、俺に兄はどうしたのかと聞いてきた。


兄は生きている。正確には、脳を奪われ、羊飼いとして生きている…だけど。

そして、俺は兄を休ませるために、兄を追いかけている事を彼女に話した。

俺には死者の声が聞こえる。脳を奪われた者の最後の声だ。

この声は知覚同調を繋げれば、誰にでも聞こえる。だから、今までの指揮官はすぐに辞退するのだ。


2年後には、戦争が終わる。そう信じている

彼女は、俺たちに、終戦したら何がしたいか考えろと言った。そんな日が訪れる訳がないのに。

激戦区で生き残れば、晴れて自由の身。なんて事はなくて、俺たちは他国に知られないように殺されるのだ。

倫理観の欠片もない行いとわかっているのに、これを続ける共和国には呆れる。


兄を殺し、生き残った5人で激戦区へと赴く俺たちに彼女は、「置いていかないで」と言った。

俺はいつも置いていかれる側だ。家族や仲間は俺を残して死んでいった。せめて、名前だけは覚えておこう。そして、俺が行き着く先まで連れていく。仲間と交わした約束を、今度は彼女に託した。

「先に行きます」と。


けれど、俺たちは死ぬことは無かった。

ギアーデ連邦により、保護された俺たちは、そこで人間としての生活を送らせてもらうことになったが、今更、戦場以外の場所でなど生きていけない。だから、俺たち5人は、戦場に立つ事を選択した。

2年後、共和国が崩壊した事を知らされた。

共和国に何の思い入れもない。けれど、彼女が気がかりだった。きっと彼女も俺を置いていく側の人間だったのだろう。彼女を思うと胸が締め付けられるのを感じた。


しかし、その数ヶ月後、彼女と再開した。

今度は知覚同調越しではなく、生身で。

彼女は青い軍服を黒く染め、髪を人束、赤く染めていた。彼女なりの弔いなのだろう。けれどそれは、あまり似合っていなかった。

その近くには彼女の部下なのだろう エイティシックスの女が立っていた。彼女を守るような立ち振る舞いは酷く俺をイラつかせた。

そのせいもあって、あの女…シデンとは何度か衝突をした。その度に彼女に注意をされたのだが。


ある日、ふと俺は気づいてしまった。

俺は彼女の事をもっと知りたいと思っている事に。思えば、「先に行きます」と伝えた時にはもう、彼女は俺の中で特別になっていたのだろう。俺はそれを胸に秘めて、彼女と接した。


休暇中のパーティで想いを彼女に告げた。

返事はなかったが、キスをしてきた彼女は、突然顔を赤く染めて逃げてしまった。

その後は仲間にも笑われた。

暫く時間を空けて、彼女から承諾の言葉を聞かされた。

俺たちは漸く、恋人という間柄になった訳だ。


俺たちは指揮官とエイティシックスという事実には変わりないけれど、恋人だった。


休暇が合えば、デートに出かけ、深く交わった事もある。

永遠なんてある訳がないのに、こんな日が続けばいいのにと願ってしまった。


それがいけなかったのだろうか。そんな日常は音を立てて崩れた。


その日の作戦は、上手くいっていた。いや、出来すぎていたのだ。

知覚同調越しに伝わる衝撃音。レギオンが、彼女のいる司令塔まで進行しているのが分かった。すぐさま向かうが数キロ先の司令塔は遠い。俺は彼女に必死で逃げるように言った。

けれど彼女は、自分の命より他人の命を優先してしまった。彼女の良いところで、俺の嫌いなところ。


「レーナッ!!ダメだ!頼む逃げてくれッ!!!」


俺の悲痛な叫びを聞いた彼女は笑った。


必死で多脚機甲兵器を走らせる。

どうか間に合ってくれと願う俺はやはり死神だったのだろう。


俺が司令塔に着いた時、彼女がレギオンに腹を貫かれた直後だった。


目の前が真っ黒になり、気付けばレギオンは活動を停止していた。


彼女に近づき止血を試みるも効果は無い。


「ダメだッ!あなたまで俺を置いていくのか!?」


俺は必死に彼女に縋り付き泣いた。


「シン…ごめん…な…さい。あなたと海が見たかった…!あなたを置いて行く私を許してください…」


彼女は血の付いた小さな手で俺の涙を拭った。


「シン…私はあなたを愛していますッ…!!だからどうか…生きてくださいッ!生きて幸せになって… 」

彼女は俺に残酷な言葉を突き付けて来た。

彼女のいない世界で、どうやって生きていけばいいのか。どうやって幸せになればいいのか俺には分からなかった。


「レーナッ!俺もあなたを愛していますッ…!後にも先にもあなただけだ!!」


その言葉を聞くと彼女は静かに目を閉じた。

彼女に海を見せたかった。隣で歩いて欲しかった。

彼女にだけは置いていかれたくなかったのに。




シンは静かに目を開く。

その手には彼女がもしもの為に持ち歩いていた銃が握られていた。


「レーナ…俺は十分生きました。だから、今からあなたの元に向かいます。」


シンは墓石に刻まれた彼女の名前に指をなぞらせて不格好に笑った。


温かな風がシンの頬を撫でた。


振り返ればそこには彼女が微笑みながら立っていた。


「漸く、あなたの元に行ける」


引き金に手をかけ、銃口を顎の下に持っていく。

恐怖は無い。だって彼女に会えたから。



静寂の中で乾いた銃声が鳴り響いた。


血の海の中で横たわるシンの顔はとても穏やかだった。


かつて死神と呼ばれた少年は、もう居ない。

今まで抱えてきた全ての物から開放された少年は、愛する少女の元へと帰って行く。


願わくば、来世で2人に幸があらんことを。





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