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「お待ちしていましたよ!佐原議長」
鬼龍院はセラミック最短技巧で差し替えた、便器の様な白い歯を見せびらかしながら、笑って立ち上がった
目の前の佐原議長の警戒の色が、濃くなるのもお構いなしに、綺麗に手入れされた手を差し出し、握手を求める
淡路でも創業40年の風俗営業店、楊貴館(別名SM館)の主賓を迎える、プライベートな応接室
ここのソファーは革は少々くたびれてはいるが、本物のチェスターフィールドで佇まいが美しく
創業以来内装を変えていないことを、自慢にしているマダムが選んだ家具は、風俗店にしてはケバケバしさが無く、天板が大理石で作られたテーブルがキチンと置かれている
「さぁさぁ座ってください、マダムが素晴らしいポートワインを用意してくださったんですよ、それともビールの方がよろしいですかな、ここには地元産の良いビールがわんさかありますからね」
鬼龍院が上等の仕立てのスーツを着て、目の前にいる佐原議長に座るように促す
「紅茶をいただけるとありがたいね」
佐原は無表情でそう答えた、鬼龍院は微笑んで頷いて、指をパチンッと鳴らした
「ご家族様はお元気ですか?最近何かと物騒ですからね」
「・・・本当に刑務所に入っている、ワシの息子を釈放してくれるんだろうな」
佐原は苦々しい顔でソファーに腰掛けながら、鬼龍院を睨む
「おやおや・・・率直なお方ですね、まずは隣のお部屋でお食事でもしてから、リラックスした所で私はそのお話を、持ち出そうと思っていたのですがね」
ホッホッホッと鬼龍院は笑った
「あいにく、お前さんを目の前にして、リラックスは一生できないと思ってね、胸糞悪いことはさっさと終わらせたい主義なんだ」
佐原修三(79歳)の人生は30年間周防町の人間のためにあくせく働いた割には、家族から見放された惨めな人生だ
自分の二人の子供の内、長男はこの島を嫌って上京し東京の金融業の、エリートまで駆け上がった結果、横領に手を出し今は刑務所に送られている
長女は上流階級にこび入りたいセレブになりたくて、現在夫は3人目、それも離婚寸前で、三人とも父親が違う子供を連れて出戻ってくるのも時間の問題だ
佐原自身の妻は彼には愛想をつかせ、家では夫婦の会話はまったくないが、町会議員長の妻の座にはずっと居座りたいらしい
「もちろんですよ、このままあなたが引退してくださって、私が当選できるように陰で糸を引いてくださるとお約束したのですからね」
鬼龍院はこの憐れな老人に微笑んだ
佐原が家族を犠牲にして培ってきたものは、結局は自分の虚栄心のしわ寄せとなって、戻って来たのだ
政治家とは最後の最後まで私欲は捨てられないもの、そして鬼龍院も言うに及ばず、欲は生きるエネルギーだ
静かにドアが開きここ、SM館のオーナーマダム鶴子が入って来た
マダムは決して絶世の美女という訳ではなかったが、年齢不詳の肌はなめらかで皺もなく、背の高い妖艶な体つきをしていた
和柄の鶴のシルクのガウンを纏って、綺麗に結い上げた髪は顔周りだけ、カールして垂らしている
その髪を揺らし静かに腰を振って、金のトレーに乗せたワインと紅茶を持ってきた
彼女の下で約30人の風俗嬢がここで働いている
「・・・一つだけ教えてくれ・・・お前さんはここの町議会議長になって、あの成宮牧場をどうするつもりなんだ?」
佐原議長が低い声で鬼龍院に言う、鬼龍院の隣に座っているマダムの完璧に、整えられた弓形の眉毛が少し上がり、チラリと佐原を盗み見る
マダムのことはまったく無視している佐原だが、小指がピクリと動いたのを鬼龍院は見逃さなかった
当然だ、この島の男でSM館、ここの世話になっていない男などいない、たとえそれが世間にクリーンなイメージの議長殿でも
「聞きたいですか?」
鬼龍院は剃刀の刃みたいにピシッと立てた、ジョルジオ・アルマーニのズボンの折り目を、つまんで少し座り直し、佐原をじっと見つめた
今や議長は蛇に睨まれたカエルのように、ダラダラ汗をかいている
社会的に落ちぶれたヤツらは、元の社会的地位に戻ろうと必死で、こちらの言うことに従順だ
そもそもそんなろくでなしの息子など、永遠に刑務所に入れておけば済むことなのに
犯罪者の息子は返してほしい、社会的地位は今まで通り欲しいなんて、このジジイもなかなかの強欲だ、だが鬼龍院ほどでもないだろう
「あそこの牧場にあ・る・施・設・を、建設する計画が中国との間で、進んでいるんですよ 」
このSM館で起きたことは外の世界へは絶対、持ち出されることはない
マダムは毎週盗聴器が仕掛けられないか、最先端の技術で館の部屋中にチェックを行う
だからこそ闇のビジネスや裏政権の会合など、エリート階級の者たちは安全に私腹を肥やせる、商談ができるここを使いたがる
「あ・・・ある施設とは・・・・何だ?」
佐原の表情が段々不安しかない色に変わっていく、愚直な田舎町の町議長がいったいそれを知った所で、何ができるもう計画は遂行しているのだ
「ワクチン製造工場ですよ・・・・いま日本は悪質なウィルスのワクチンは全て、海外製品に頼っている、自国でウイルスワクチンを製造できるようになったら、馬を売る利益の千倍はもうかるでしょうな、あそこはワクチン製造にぴったりな環境ですからね」
鬼龍院はにやりと笑った、おそらく初めて聞いたであろう横にいるマダムもハッと息を呑んで、鬼龍院の話を聞いている
他の人が貧しくなっていく中で、自分一人が金持ちなのはとても良い気分だ
金には権力がともなう、貧しい人というのは従順で、命令を素直に受け入れ、こちらの思い通りに働いてくれる
議長の鬼龍院の言葉は、政府の言葉だと信じ込むのだ