昔の夢を見た。
それはまだ、大国となった国をおさめている時の記憶。
暖炉の中で、燃やされた薪の弾け飛ぶ音が聞こえ、目が覚める。
布団の中に隠された胴体に、気持ち悪くじわじわと汗が伝っていくのがわかる。
見覚えのある天井に薄暗い部屋、季節は夏のはずなのに、冷たく冷え切った石畳の床。
いつから水が通っているのだろうか、どこからか雫の落ちる音がする。
「おぉ、起きたか」
知らない、声がする。
声のする方へと視線を向ければ、鉄製の柵が目の前にあった。
その先の暗闇から顔を出した人物を見たことは無かった。
「この俺が様子を見に来てやったというのに、何だその目は」
柵を開け、僕の体を蹴飛ばす始末。
これぐらいの扱いが、今の僕にはちょうどいいのかもしれないと思ってしまうのもまた、病んでいるのだろうか。
痛くて痛くて逃げ出したくなるのは、折れたあばら骨が聞かせる自身の幻聴なのだろうか。
この体はどうも、脆すぎるらしい。
「駄目ですよ「総統様」。乱暴しちゃ」
また知らない声が一つ増える。
口の中に酸っぱい味がこみ上げてくる。
「ふん。こいつが反抗的な目を向けるから悪いんだ」
「相手は一般人ですよ?死んでしまいますから」
「俺の意思を無視するのか?」
腹の底から出たような、威嚇ともなんとも言えない幼いフレーズが聞こえてくる。
二人目が口を開く。
「いえ。私はこちらに助けの視線を向けるそこの彼の意思を尊重したまでですよ」
「ふむ。ならこいつが悪いと?」
「そうなりますかね」
次々と飛んでくる攻撃に顔を顰めることしか出来なかった。
酸素濃度が薄い場所に長時間いたせいもあってか、脳が麻痺を起こしているらしく何も解決策が思い浮かばない。
また転生してしまうのか…__
転生とは、そう何度もするものではない。
死ぬことで新たな人生が切り開かれることが『転生』なのだ。
これまで幾度となく死んでしまったせいで、幾度となく転生を繰り返してきていた。
死ぬことは初めてじゃない、むしろ慣れている。
けれど今回、同じ世界に転生することは、僕にとって初めての経験だった。
今度は違う世界に転生したい。
過去に犯してしまった過ちを捨て、来世ではまたのんびりとした暮らしをしたいと願った。
だが、いつも僕の味方をしてくれる神様はいないようだ。
暗闇からこちらに向かって走ってくる音が聞こえる。
「何しとんやお前ぇ‼」
今度は聞き覚えのある…、いや、聞きたくなかった声が聞こえた。
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