テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,316
293
773
Episode 53「宝物」
朝。
「結姉ーーー!!」
勢いよく扉が開いた。
「奈央姉もいる!?」
水瀬が飛び起きる。
「リサちゃん!? 朝から元気ですねぇ〜!」
奈央も苦笑しながら起き上がった。
「どうしたの?」
リサは満面の笑みだった。
「見せたい物あるの!」
「早く!」
そのまま半ば強引に連れて行かれる。
三上が眠そうな顔で呟いた。
「朝から騒がしいな……」
黒瀬は静かに目を開ける。
「……行きますか」
アデルの家。
リサは待ちきれない様子だった。
「これ!」
机の上へ、大事そうに何かを置く。
木で作られた写真立てだった。
少し手作り感がある。
けれど、とても丁寧に作られている。
そこに飾られていたのは――
六人の集合写真だった。
黒瀬。
三上。
水瀬。
奈央。
アデル。
そしてリサ。
全員笑っている。
水瀬が固まった。
「……え」
奈央も少し目を丸くする。
「写真立て……作ったの?」
「うん!」
リサが嬉しそうに頷く。
「町の人にお願いしたの!」
「この写真お気に入りだから!」
水瀬が顔を押さえた。
「リサちゃんが可愛過ぎます〜……」
「もう本当に妹です〜……」
「まだ言ってんのか」
三上が呆れる。
その時だった。
「あとね!」
リサが更に机の下から何かを取り出した。
分厚い冊子。
奈央が目を丸くする。
「アルバム?」
「自分で作ったの!」
リサは誇らしそうだった。
アルバムを開く。
そこには、奈央が撮った大量の写真が丁寧に並べられていた。
村での何気ない日常。
笑っている村人達。
料理しているアデル。
子供達と遊ぶ三上。
食べ物を頬張る水瀬。
珍しく笑っている奈央。
そして。
少し困った顔をしている黒瀬。
「これね!」
リサが楽しそうに指差す。
「結姉、この時ずっと食べてた!」
「そんな事ないですよ〜!」
「食べてましたね」
奈央が即答する。
「奈央姉も笑ってる!」
「えっ」
奈央が少し固まる。
確かに写真の中の奈央は、かなり自然に笑っていた。
「あとこれ!」
ページがめくられる。
今度は三上だった。
子供達に囲まれている。
「三上先輩って子供達に人気ありますよね〜」
三上が少し笑う。
「まぁ、ガキの相手慣れてるしな」
「あとこれも好き!」
今度は黒瀬。
リサが木に登ろうとして、黒瀬が静かに止めている写真だった。
「黒瀬、この時困ってた!」
「……止めただけです」
水瀬が笑う。
「ちゃんと止めてる辺り黒瀬さんですねぇ〜」
リサはページをめくる度、楽しそうに説明していた。
「これはね!」
「この時ね!」
「あとこれも!」
本当に嬉しそうだった。
奈央は、静かにその様子を見る。
写真の中には。
何気ない日常しか無かった。
けれど。
だからこそ、大切なのだと分かる。
その時だった。
リサが写真立てを抱える。
そして。
満面の笑みで言った。
「これが私の宝物なの!」
部屋が少し静かになる。
アデルが、少しだけ目を細めていた。
水瀬は完全に限界だった。
「無理です〜……」
「可愛過ぎます〜……」
奈央も小さく笑う。
黒瀬は静かに写真立てを見る。
そこには。
六人の笑顔が映っていた。
まるで。
今のこの時間を、閉じ込めるみたいに。
コメント
1件
うわあ、読み終えた直後から胸がじんわりしてます……。リサちゃんが「宝物」って言ったあの瞬間、もう完全にやられました。手作りの写真立てとかアルバムとか、自分で町の人にお願いしてまで作ったっていうのが、彼女にとって本当に大切な時間なんだなって伝わってきて。奈央姉が自然に笑ってる写真、めっちゃグッときました。日々の積み重ねが宝物になるって、このお話のテーマだと思う。黒星さん、こんなに温かいエピソードありがとうございます。