ギルド『レイス』で1番強く人気だったのは、自身の倍くらいの長さの大剣をどっしり構え、敵を叩き斬ってゆくギルドマスター“ミレ“でした。
ミレは、あまり馴れ合いを好まない女性で、人付き合いも悪く、友人と呼べる人は殆どいませんでしたが、彼女の実力と人柄に惹かれてか、レイスの団員とは皆友情がありました。
今日も、自身と比べて何倍も大きい“レジェンドクラス“の魔物を叩き斬り、帰ったあと、王国からは感謝の声と報酬が送られてきます。
そんな毎日を送っていたある日、レイスの副ギルドマスターである魔法士のシーラが、声をかけてきました。
「君は本当に凄いよ!何倍もデカい魔物を涼しい顔して叩き斬るなんて…!」
ミレは言います。
「いや、それ程凄くもない。あんなモノ、強くなれば誰だって倒せるさ。」
すると、シーラは少しムッとした表情を浮かべながら言い返します。
「またそうやって謙遜する……まぁいいけどね。でも、その強さに僕は憧れてるんだ!」
「そうか。だが、他のギルドが私と同じ様にレジェンドクラスの魔物を倒したらどうするんだ?私はすぐに人気が落ちてギルドから追放されてしまうぞ?」
「ふっ……大丈夫だよ。君以外にそんな事が出来る人がいる訳ないじゃない。」
「なら良いが…」
「それに、もし倒されても、国王が言っていた様に、それより強い魔物を倒せばいいだけじゃないか」
シーラの言葉を聞いたとき、ミレは少し驚いた顔をして、
「えっ」
と言いました。
「ん?何かおかしな事言ったかな僕……。あ、そうだ、今度一緒にご飯食べようよ!美味しいお店見つけたんだよ!」
「そ、それは構わないが……」
こうして、その日はシーラと食事をしに居酒屋に移動しました。
そして、食事をしているとき、ミレが言います。
「なぁ、シーラ」
「ん?」
ミレは少し顔を下げながら言います。
「その…私が1番じゃなくなってしまったら、このギルドは…」
「…人気、落ちるだろうね」
「そうだよな…。いつか私は、国王の言うとおり、“それより強い魔物“を倒さなければならないのか…」
「うん。でも、ミレならいけるんじゃない?」
ミレは声を張り上げます。
「馬鹿を言うな…!!キングオークでやっとなんだ!!涼しい顔するのも、アレっきり!キングオークより強い魔物なんて、私には…無理だ…」
シーラは少しの沈黙の後、口を開きました。
「そっか…国王はああ言ってるけど、でも、ボクは…別に良いんじゃないって思うけどね」
「え?」
ミレは顔を上げました。
「第一、そんなに人気に固執しなくても良いとおもうんだ。死んじゃったら元も子もないからね、嫌ならギルド休みにしたっていいし、好きなことしたらいいと思うよ」
「そうか……でも、人気が無くなるって、死ぬより辛いと思うんだよ。新しい依頼は来ないわ、王国の人には白い目で見られるわ……何より、仲間に迷惑をかけてしまう」
「そうかもしれないけど……でもさ、もしそうなっても、僕はずっと友達だからさ!」
シーラは笑顔で言いました。
しかし、ミレの顔はくぐもったままでした。
「そうか… あ、もう食い終わったし、会計済まして帰ろうぜ」
ミレとシーラは会計を済ませ、別れた後。ミレは1人王国の近くの草原に行きました。
ミレは黙り込んだまま、愛用の武器である大剣『アロンダイト』を振り回し始めました。
いつも通りの華麗な動きです。
しばらくした後、ミレは手を休め、呟きました。
「人気なんてどうでもいい……ただ、私の居場所が欲しいだけだ」
そうして、ミレは再び剣を振るいはじめました。
数分後、見回りをしていた王国兵士がやってきました。
「こんにちは」
「あぁ、こんにちは」
「…あっ」
兵士はミレに言います。
「ついこの前の事ですが、別の王国で、レジェンドクラスであるストームウルフを倒したギルドがあるそうですよ。」
「…そうですか」
「明日にはこの王国にもやってくるようです」
「⁉」
ミレは驚いた顔で言います。
「それ、本当ですか⁉」
「はい」
「でも、大丈夫ですよ。レジェンドクラスを倒せるギルドはまだ2つですから」
ミレは声を張り上げます。
「大丈夫じゃないんですよ!!!だって2つってことは、強くなれば誰だって倒せるって事が証明されたことになるんです!このままでは……私は……」
「落ち着いてください。……でも安心してください。今度の人達は、きっとあなたが倒したレジェンドクラスの魔物よりも強いでしょうね」
「えっ……」
「それじゃ、失礼します。また会いましょうね」
「……はい」
翌日、ミレはギルドの団員を呼び草原へ向かいました。
(…リーフドラゴン…王国から出された討伐依頼。それにあのギルドもドラゴンは倒せていない。)
「大丈夫……私は勝てる……!」
そして、数分後、凄まじい轟音が響いたとともに、リーフドラゴンが現れました。
「グォオオオオ!!!」
咆哮は凄まじい暴風を呼び、ミレ達の身体を吹き飛ばします。
「うぉおお!」
「くっ……!」
「これは……!」
3人は吹き飛ばされながらも、体勢を立て直しました。
「皆、大丈夫か!」
「はい!」
「なんとか……」
「問題無いです!」
「よし……行くぞ!!」
ミレ達は戦いますが、どんどん仲間が倒れ、ついにはミレとシーラの二人だけになりました。
「ぐッ…」
ミレはよろけながら言います。
「あと…一撃…あと…」
「ッ!!」
ミレはリーフドラゴンの方へ飛び上がり、アロンダイトを振り下ろそうとします。
「!ボクもなにか手助けを…!」
シーラは咄嗟の判断で杖を突き出し、魔力を込めます。すると、シーラの周りに光の輪が出現し、そこから光弾が発射されます。
その光弾は、リーフドラゴンに命中しました。
「グァアァア!!!」
リーフドラゴンは叫び声をあげ、地面に落下しました。
「今だぁああ!!」
ミレはリーフドラゴンの頭上にアロンダイトを振り下ろそうとしましたが、間一髪で逃し、ミレはそのまま地面にアロンダイトを振り下ろし、地面は大きな亀裂が出来ました。
「クソッ、逃が…し…」
ミレはその場で気絶してしまいました。シーラも疲労困ぱいでその場に座り込みます。
「⁉ミレ⁉…なんだ、気絶してるだけか」シーラは安堵のため息をつきました。
「ボクも疲れたな…転送魔法使って帰ろうかな…」
シーラは自身とミレ達を転送魔法で王国へ送りました。
国王はミレ達を褒め称え、報酬としてかなりの金額を渡しました。
しかしミレは、あまり嬉しくなさそうでした。
ミレとシーラは、ミレの家に戻りました。
「はあぁあ……」
ミレはため息を吐き、ベッドの上に寝転びました。
「どうしたの」
「倒せなかった…逃した…」
「良いじゃない。いっぱいお金貰えたし」
「…そうか。そうだな…」
「ありがとう」
ミレは起き上がり、笑顔で言いました。