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龍人の操る五体の龍による爆撃。
現代兵器とは異なる。
龍によって運べるのは、せいぜい人間が二人。一人が操舵手として背にまたがれば、あとは一人分の重さの爆弾を運べるにすぎない。
しかし、龍はレーダーに映らず、飛来音もほとんどない。
そこがスーサリアの盲点だった。
平和を愛するスーサリアも、小規模ながら近代的な自衛軍は持っている。
国境からの無法な侵入に対してなら、戦闘機による警戒など、最低限の対処はできたはずだ。
しかしレーダーに映らない龍たちに、いきなり首都の王宮が爆撃されては、軍はなすすべもなかった。
王宮の何カ所もが、爆弾の直撃を受け、塔や、広間が破壊され、石壁が崩れ落ちた。
それでも王宮常駐の兵員たちが、ライフルで応戦すると、龍は簡単に被弾し、次々と落下していった。
スーサリアの象徴たる美しい王宮が爆撃を受けたことは、ただちに映像付きで世界ニュースとなった。
人々はその衝撃的なニュースに釘付けになりながらも、なぜこのようなことになったのかと疑問を抱いた。
報道においても「詳しいことがわかるにはもう少し時間が必要です」とくり返されるばかりだった。
タクヤとユリがいた祈りの間、そのガラスの破片の散乱した部屋に、足音が聞こえてきた。
同じ建物の診療所にいる女性タッフやドクターとは明らかに異なるキビキビした音。
タクヤとユリは抱きあったまま身を堅くした。
城を強襲した目的が、王子の誘拐である可能性は?
敵の襲撃かもしれない。
今さら隠れて身を隠す場所もない。
すぐに足音が近づき、部屋の扉が開いた。
「ここにいたのか」
「誰ですか、あなたは」
ユリは厳しく叫んだ。
痩せた髪の長い男は動じなかった。
「タクヤ、おまえはここにいてよかった」
「え?」
タクヤは耳鳴りが残っていてまだ十分に言葉を聞き取れない。しかしそれ以上に黒服の男の言葉が信じられなかった。
「いい、なんてことは何もないと思うが」
「王宮にいたら死んでいた」
ユリは、男をにらみつけた。
「誰ですかあなたは」
「ああ」
と侵入者は一瞬考えのち、肩をすくめた。
「警戒してるのか? オレは見方。王子の守護騎士だ。心配するな」
「守護騎士?」
「いや、今さらそんなたいそうなもんじゃないが、仕事だからな。本当はどちらかというと、ただの学友だ」
音楽学校の学友、いっしょにフイッシュフライサンドやシャーベットを食べた相手。
タクヤは思い出した。
「おまえ、ゼンに似てないか?」
「バカ、本人だ」
「はあ? じゃあなんでここに?」
「昔から、王子ってやつには、秘密の裏方がいるもんなのさ」
「いやいやいや、ゼンってゲームばっかしていつも眠そうな……」
「そんなことはいい。とにかく、王宮はだいぶ破壊されちまった。で、ここは王宮のなかの貴重な医療施設だ。この意味、わかるな?」
「怪我人の手当か?」
「そう。オレは運ぶのを手伝ってくる。おまえたちは急いで準備しろ」
立ち去ろうとする男に、タクヤはあわてて声をかけた。
「こんなの、誰がやったの?」
「あとでおしえてやる。いろいろややこしい。今はとにかく準備を」
男が去る。
ユリはタクヤを見て首を傾げた。
「お知り合いですか?」
「まあね。あいつ、いろいろ知ってやがったのかよ」
「いい方ですか?」
「いい方かどうかは知らないけど、春まで一番の親友だった」
「では、信用できますね」
「どうかな。なんか、いろいろかくしてるみたいだったけど、こんどすべて聞き出してやる。それより、たしかにここは診療所だし、怪我した人の対応をしなくちゃ。急いでガラス、かたづけよう」
みなぎって立ち上がったタクヤは、服を着て行動を始めた。
ユリはつぶやいた。
「タクヤ様が、そ、そのような……」
「なにいってんの。こうなったら王子とか関係ないよ。ここにいる以上、できる限り手伝う」
「ありがとうございます」
しかしタクヤは、まだ「手伝う」ことの本当の意味を知らなかった。
ユリがふと窓の外を見ると、崩れた王宮の瓦礫の中から、血にまみれた人がはい出していた……