テラーノベル
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黄ばんだ大学ノートをパタンと閉じる。 どうにも胸がザワザワとなる俺は回転椅子より立ち上がり、部屋を右往左往と無駄に歩き回っていく。
部屋を見渡せば、俺より背の高い本棚が二つ並んでおり、そこには国語の教材や小説の文体本などがずらりと並んでいる。
生活必需品は端に追いやり、パソコンが置いてある勉強机は部屋を圧迫しているアンバランスな部屋の配置。
生活より執筆を優先した偏った部屋に、どこか笑ってしまう。
「ふぅー」
隣の部屋で寝ている父さんに迷惑だと無駄な運動を終わらせた俺は、また回転椅子に腰を掛けて、机に置いてあるスマホをタップする。
映し出されるのは、ハロウィンをモチーフにした飾り付けをスマホで撮影した画像。待ち受け画面のみだった。
待ち人からの返信は、まだこない。
気持ちを落ち着かせようと顔を上げると目の前には木製の写真立てがあり、薄紅色の桜を背景に写っているのは二人の男女だった。
眉を顰め、不機嫌なオーラをまとっている男子高校生。でもよくよく目を凝らすと、ニヤケそうな頬を必死に抑えていると分かり、あの頃の青さに思わず笑いが込み上げてしまう。
その横に笑顔で写っているのは、車椅子に座った少女。当時はもう髪の毛はなく痩せ細っていたが、彼女は出会った時と同じく美しい。
……この十ヶ月後、彼女は静かに息を引き取り、もう桜を見ることが出来なかった。
「綺麗だろう?」
写真立ての横には、小さな透明花瓶に入っている一輪の花。彼女が好きだった薄紅色の花。
十八歳の春を迎えられなかった彼女。せめて綺麗な花を見てもらおうと、この日に必ず写真横に供えるようになった。
雪が降る極寒の冬、季節外れとは重々承知して。
あれから大学生になった俺は文学について学び、勉強とバイトの合間を縫って執筆活動を始めた。
未来に散々ダメ出ししてたくせに、自分といえばすっかり腕は鈍り、初心者レベルに戻ってしまっていた。
彼女に教えた時と同様に、俺も短編から練習を始め、調子が戻ってきたところで中編や長編にも挑戦した。
しかし中学生の頃に持ち合わせていた、尖りと煌めきは褪せており、残っていたのは臆病な自分だけ。
それも武器になればと大学二年の冬。ずっと書きたかった未来の人生を綴った。
書き始めての自己評価としては、悪くないと思っていた。
あいつの人生を物語として落とし込めているし、聞いていた心情もしっかり書いたつもりだった。これを未来の母親に見せられる自信すらあった。
……ただ、この物語は未完成で、ある場面で止まっている。クライマックスの、主人公が生涯を終える場面だ。
あいつが小説を書き、学校生活を満喫している場面なんかいくらでも書けるが、どんどんと弱っていき、呼吸が止まった場面なんて書けるわけないだろう。
未来の死を書くなんて。
それが出来なかった、大学四年の冬。
就職を理由に、二度目の断筆をしてしまった。
俺が完結させなければ未来は物語の中で生き続ける。そんな思いで。
窓から見えるのは降り続ける雪で、あの年もそうだったなと目を逸らした俺は、あえて本棚に目をやる。
そこには国語総合やら古典やらの教材が敷き詰められてあり、教科書を手にとってペラペラと捲っては、さあ期末テストはどこを出題するかと考えることにより不安を回避していた。
元・素行不良生徒が、高校教師になる。そんな物語みたいなことをやった俺は、就職前に集まった地元メンバーグループで、「藤城も冗談上手くなったな」と、笑われた。
相談に乗ってくれていたもう一人の親友、大輝だけは「直樹くんに向いてると思うよねー」と拍手してくれて、ようやく全員に信じてもらえたという、笑えないオチまでついてきた。
そう言うアイツは医者になり、元々より医者を目指していたらしいけど、癌専門医になったということは、そうゆうことなんだろうな。
自分が教師になって分かる、あの頃の青さ。
常に何かに苛ついて、癇に障って、傷付かないように牽制を張る。
そうしないと、自分を保つことなんて出来なかったから。
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