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わたし、要らない子なのかもしれない。
小さい頃から、何度も何度も頭をよぎった。
私は暗くてじめじめしてて、クラスのスカートが短い子たちの正反対。
お母さんやお父さんは優しい。だけど、聞いてしまった。夜中に水を飲みに降りたとき、お父さんとお母さんが話していた。
「雫、あれで本当にいいのか?外でも中でもまともに喋らないし。人見知りって言っても激しすぎるだろう」
いまのわたしじゃ、だめなの?
冷たいフローリングの上の足が凍りついた。
「しぃちゃんははしぃちゃんなんだから、今のままでいいじゃない。別に変わる必要なんてないわよ」
お母さんの声がした。
お父さんはまだなにか言ってたけど、冷たい足を無理やり動かして自分の部屋に戻った。
ベッドの上で膝を抱え、顔を埋める。
カラカラに乾いた喉が痛い。
私はそのまま横に倒れ、目を閉じた。
翌日、私はベッドから落ちていた。
寝相、悪かったんだな。
朝ごはんを食べようとリビングに降りた。だけど、誰もいない。お母さんとお父さんは仕事に行ったんだ。月に一回、お母さんとお父さんは早く出勤しなきゃいけない日がある。今日はたまたま日が被ってたんだ。
朝ごはんを食べずに学校へ行った。
7時半。時間が早いせいか、教室には誰も居ない。
明日の時間割を写して課題を出して…今日やらなきゃいけないことを全部やったけど、暇だったから手帳を取り出した。
鍵も磁石もないそれは、秘密を書くのに相応しくないものだ。だけどわたしにはそんな高価なものは用意できない。
開いた手帳には、昨日書いた遺書モドキが書いてあった。一年生、二年生、そして三年生。
わたしは毎日毎日偽物の遺書をこっそり書き続けている。どうして?死にたいから。理由なんてない。理由を見つけるために、わたしは偽遺書を書いている。
シャーペンを手帳に当て、書き始める。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
最初の文は一緒。この三年間、これだけは揃えて書いていた。
わたしは少しだけ息を止め、昨日のお父さんの言葉を思い出す。うん、理由はこれだ。
まともに喋れなくてごめんなさい。
予想通りの娘じゃなくてごめんなさい。
お父さんとお母さんは悪くありません。全部全部わたしが悪いんです__
書きながら、滑稽だと思った。こんな悲劇のヒロインが書いてるみたいな遺書なんて、もしネットに上げたら、きっと笑いものだ。
わたしが死んでも悲しまないでください。
自分を責めないでください。
追い死にもしないでください__
追い死にはしないか。きっと2人で仲良く暮らすよね。わたしはノートに消しゴムを擦り付けた。そのとき。
「あぁーっ、佐倉さんおはよぉーっ!」
クラスの女子たちだ。彼女たちはいかにも陽キャって感じの挨拶をする。
わたしが発したおはようの声は、彼女たちの笑い声に溶けてしまった。
彼女たちがやってきたことで、わたしの遺書タイムは終了。
本を読むだけの朝の時間が始まる。
憧れてる人がいる。
相浦くん。管弦楽部でティンパニをやっていて、誰にでも優しいお話の中に住んでるみたいな人。
恋心とかじゃない。ただの憧れ。わたしもあんな風になれたらなーって、何度思ったことか。
学校での1日が始まる頃、掃除の時間がやってきた。バケツの中に溜めた水は、あっという間に真っ黒になる。髪の毛、消しかす、シャーペンの芯、ワックス。いろいろなものが入ったそれは、悪臭を漂わせている。だから雑巾係はやりたくないって人が多い。というか全員そうだ。わたしはそういう時、自分から声をあげる。手が震えて、小さい声しか出せないけど、何もしないよりはマシだろう。
みんながやりたくない役を買って出ることで、人に好かれようとしている。わたしはどうしようもない人間だ。
バシャンッ
水の流れる音ともに、わたしの身体に冷たい液体が降り注いだ。と同時に、悪臭がした。
クスクスと笑う声が一瞬聞こえ、わたしはクラスの男子にバケツの汚水をかけられたのだと気がついた。
ちょっとおー男子ぃーっ、流石にそれは酷くなーいっ?しぃちゃんが暗いからってさぁっ!
わたしを庇うような声。わたしの味方みたいなフリする人の声。……うんざりだ。
幸い、髪は濡れてない。わたしはブレザーを脱ぎ、重くなったスカートを引き摺りながらトイレに入った。
ジャージに着替え、身体を拭いてスカートを流水で洗い流す。洗面台を使うのは気持ち悪かったから、トイレの床の排水溝の上でやった。
ここはわたしのお気に入りの場所。旧校舎にある女子トイレ。そこには誰も来ないし、人気もない。好きなことをすることができる。授業をサボるのに使ったって、見つかりっこない。
そのまま外に出て、体育館裏の花壇の横に座った。
ぽつり、と頬に冷たい液体が落ちた。
ぽつり、ぽつりとそれは灰色の空から降り注いでくる。
人の気配を感じて顔を上げる。
するとそこには、女の子が立っていた。
黒髪ロングの気が強そうな女の子。わたしを傘に入れてくれていた。
「風邪、引くよ」
そう言って傘を残して体育館に入って行った。
体育の授業前だったんだ。わざわざわたしに話しかけてくれたのはどうしてだろう。
……お礼、言いたいなぁ
傘も返さなきゃ。
わたしは時間割の写真を見つめる。一校時、体育の授業があるのは5組。彼女は5組の人なんだ。
明日、傘が乾いたら届けに行こう。