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⚠️ 死ネタ
嘔吐 あり
ウェンが死んだと知ったのは俺が任務から帰ったときだった。アジトに帰ったとき、そこに東の連中がいた。うるせーのが来たな、なんて思ったがいつもいの一番に飛び出すピンク髪が見当たらない。そして気付いた、マナの目元が赤く腫れていること。心臓がうるさくなる。想像なんて安易に出来た、だって俺たちはヒーロー、最前線で命をかけて戦う仕事だから。だというのに何も言えず立ち尽くしてしまった。マナは泣きそうな声で俺に告げた。
「 ウェンが … ッ 、 ウェンが死んだ … 。 」
想像が現実に変わる瞬間ほど絶望的にも希望的にもなれるものはないと思った。泣き崩れるマナを支えるライ、静かに涙を流すイッテツとリト、大声で泣くカゲツとマナ。悔しそうな顔をして、涙を流す星導。アイツが、ウェンがもういないなんて信じられなかった。いつものおちゃらけた顔が見たいと心底思った。こんなお別れは嫌だとずっとそう思っていたのに。神様は意外と残酷なことをするらしい。
そんな日から1週間後、ウェンのことは東西どちらにも広まり葬儀も終わった。俺は葬儀に行きたくなくてしばらくどこにも顔を出さなかった。アイツの死体なんて見たくなかった、あの鮮やかな顔色が真っ白になって、いつものはっちゃけた笑顔が消えている顔なんてみたくなかった。それにあの場に涙も流せない俺が行くのは違う気がした。皆が泣いていて俺だけ何も感じていないみたいな顔をしながらウェンの死体を眺める、そんな状況になりたくなかった。ウェンを悲しませることになるだろうから。東の奴らは1ヶ月程休暇をもらったらしい。正直、アイツら3人の中で一番心配なのはマナだ。ライが見に行っているとはいえ、飯も食わずに寝ていることがあるらしい。沢山泣いて、疲れて寝る。そんな生活。でも最近はライのおかげで回復してきている。イッテツとリトはいつもの調子とまでは言わないがだいぶ回復してきたらしい。西のアイツらも元気になっているし、意外と日常が戻りつつある。そんな中、俺だけが引き摺っている。アイツのことを手放せないまま日々を過ごしている。墓にもまだ行っていない、怖い。葬儀も墓も、アイツがいる気がして、怖くてたまらない。見せる顔なんてない、俺は泣けなかった。それに会ってしまったら離したくなくなってしまうから。そんなことをしたらダメだろう。幽霊を現世に置いておくのはよろしくない。だから会いに行きたくない。けれど時々、悔しさにかられる。なんでアイツを護ってやれなかった、なんでアイツのことをもっと知ろうと思わなかった。なんで、アイツのことをもっと愛してやれなかったんだろう。
「 クソッ … 。 」
そんな言葉が口から溢れる。こういうときアイツならなんて言う?笑ってからかってくるか、はたまた隣で静かに座っててくれるのか。こんなことも知らない、わからない。頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。わからない。項垂れながら和室で寝転がっていたところ、いつもの声が聞こえる。
「 小柳くん 、 探したよ 。 」
「 なんだよ星導 、 任務 ? 」
「 いや、俺たちにも休暇が来たよって報告に。 」
「 あ~~ … そう 、 」
休暇を取らせるくらいならもっとウェンを護るような技術を開発しろよ、もっと強いヒーローを出せよ。そんなことばかり考える。起き上がって星導を見ればいつも通りの顔だった。元気になったんだ。
「 … カゲツが心配してますよ 、 小柳くんどこにも顔を出さないし 、 連絡だってほぼ無視だしって 。ねえ 、 ウェンが死んで悲しいのはわかるけど … カゲツたちのことも考えてあげなよ 」
「 うるせーよ … 、 お前に関係ないし 。 」
「 あるから 。 君の同期だし 、 心配してるんだからね 俺も 。案外話してみたほうが楽に ___ 」
「 黙れよ 。 お前にはわかんねえよ 、 関係ねえよ 。 そうやってお前ら全員ウェンのことを忘れて前に進むんだろ ? そんな薄情な奴らなのか?お前らは 。 ウェンのことそんな蔑ろに出来るほど、薄っぺらい関係だったのか? 俺はアイツのことを簡単に忘れられるわけじゃねえんだよ 。 お前はそうやって “ また ” 忘れてくのか ? 星導 。 」
ぐちゃぐちゃとした言葉が口から漏れ出す。こんなことをしたってなんの意味もない、わかってる。星導を傷付けることだってわかっているのに怒ってしまった。ハッ、として星導を見れば気まずそうに微笑んでいた。
「 ッ、ごめ ___ 」
「 俺 、 帰りますね 。 1ヶ月後 、 また 。カゲツには連絡してあげてください 。あと 、 これ置いとくから 。 」
謝り損ねた、それに訂正も出来なかった。逃げるように帰る星導に胸がいたくなる。こうやってひとりぼっちになったのに、また俺は同じ過ちを繰り返す。記憶がないのはアイツのせいじゃないってわかっているのに。自己嫌悪というものは案外、酷い気分にさせてくる。気持ち悪いほどに、今は自分が憎い。星導が去る前に置いていったモノを見詰める。分厚い資料だった、何だろうと中を覗いてみるとウェンの顔写真を見つけた。この資料はウェンが死んだときの任務の資料だった。ペラペラと紙をめくって中身を読む。大型のヴィランが出現してその場にいたOriensの三人、マナとイッテツとリトが遠くまで飛ばされてウェンだけが残ったこと、ウェンはソイツに光線銃をぶっぱなして利き腕を失くしてしまったこと、ヴィランに吹き飛ばされた衝撃での内臓へのダメージと出血量が尋常ではなかったこと、それで死んだこと。そのヴィランはウェンがぶっぱなした光線銃で弱体化していて自然消滅したこと、民間人への被害はゼロだったこと。色んなことが事細かに書いてある。流石ウェンだった、被害ゼロでのヴィラン討伐。利き腕を失くしても尚、立ち向かう勇気と体力、怖いほどにアイツは最期までヒーローだった。でも、それでも、俺は
「 ふざけんなよ … 自分を犠牲にしてまで救いたいヤツなんて居なかったくせに 。 」
苦しい、どうしてアイツは俺らが悲しむとわかっていながら民間人の為に命をかけて戦ったのだろう。つくづく思う、俺はヒーローをやっていい生き物ではない。俺はもし仲間の誰かと民間人を天秤にかけられたら仲間を選ぶ、真っ先に、俺が民間人を殺すことになっても、躊躇うことなく仲間を救う。そういう環境で育ったのだから仕方ない、俺は何よりも仲間が好きだ。だからウェンの行動には正直腹が立った。俺たちより大切なヤツなんているはずない、俺たちのことをあんなにも愛していたウェンが俺たちを優先しないのは何でだ。そんなことばかりを考えて苛立ちを抑えきれず和室から飛び出しウェンが死んだ場所へ向かう。向かったって何もないし誰もいない。行く意味も必要もないのに何故か飛び出してしまった。きっとそこ行けば幽霊のウェンに会えると、心のどこかで思ったのだろう。幽霊なんているはずないのに。
意外にも静かな場所だった。あの日の血痕はパッと見では見当たらない、流血したのはアイツだけだから。走ってきたから息が上がっている、ゆっくり深呼吸をすればウェンの残り香を探して歩き回る。ふと、倒壊した建物を眺めれば誰かが飛ばされた跡と少量の血痕が残っていた。彼処で内臓に傷が入ったんだろう。此処は今立ち入り禁止になっているのだろうか、献花なんてひとつも見当たらないし、誰もいない。誰も来てやらないんだ、アイツの命と引き換えに手に入れた平和の中で何も考えずに生きているんだ。許せなかった、生き残った人間たちも勝手に死んでいったアイツも、アイツが死んだことを受け入れられずに他の奴らと壁を作っている俺も。守ってやりたかった、あの時俺がいれば良かったのに。ウェンの代わりに俺があの場にいたなら良かったのに。俯き、溢れ出す吐き気と憎悪、後悔に押し潰されていく。もっとはやく俺がアイツの死を受け入れるべきだったのに。もっと、もっとアイツに優しくしてやれば良かった。もっと仲良くすればよかった、もっと知ればよかった。同じようなことをずっと考えて、抑えきれなくなった吐き気が吐瀉物となって口から溢れ出す。
「 ぅ゙ 、 お゙ぇ … ッ 、 」
自然と瞳から液体が溢れる。違う、流したい涙はこんなのじゃない。もっと、悲しさと悔しさにまみれた涙がほしい。自然現象の涙なんて入らない。瓦礫の山を殴る。思い切り殴っては拳から血が流れる。
そんなとき、遠くから足音が聞こえた。誰だろうと少し顔を上げれば煙草の煙を揺らしながら歩いてくる、イッテツを見つけた。イッテツは俺に気付いて驚いた顔をしてから駆け寄ってきた。
「 ロウくん !? 大丈夫 ? 」
「 っ 、平気 … すまん 、 勝手に入って 」
いやいいんだけど、なんて小声で言って、少しだけ眉を下げて笑うイッテツ。俺はなんだか気まずくて帰ろうと立ち上がった。歩き出そうと足を踏み出したその時、イッテツがいきなり土下座をしてきた。
「 … は? なにして __ 」
「 ゴメン 、 俺がもっとウェンくんを見てればよかった。あのときの報告書、るべくんから貰ったと思うけど 、あの時は俺たち4人は2組に別れてヴィランを討伐してた。リトくんとマナくん、俺とウェンくん。だから本当は俺が残機を使ってでもウェンくんを守るべきだったんだ。なのに俺はできなかった、俺は … 僕はダメなやつだ。ロウくんに怒られたってなにも言い返せない、だから気が済むまで卑下していい 、 最悪だって、お前が死ぬべきだったんだって罵ってもいい 。 君にはその権利があるんだから。最近、何処にも顔出してないんだろう?ゴメン、本当にゴメン。僕のせいでウェンくんは死んだ。 」
口を開いた、のになにも声は出せない。なにも言えない。罵ることも卑下することもできない。言えない、だってあれはウェンの選択だから。俺がとやかく言う権利なんてあるわけがない。それにウェンじゃなくても俺は、こうなっていたと思う。誰がかけても俺は、こうやって皆を遠ざけて一人受け入れられないまま、項垂れて、悪態をついて、一人になっていく。
「 顔、あげろよ。イッテツのせいだとは思ってない、思わねえし、思えねえよ。それにウェンだからこんなに悲しんでるんじゃないから。お前が死んでも、誰が死んでも俺はこんな風になってたと思う。だからお前のことは罵倒しない、そんな権利誰にもねえよ。お前のせいじゃない、Oriensのせいじゃない。誰のせいでもねえよ、これは。ウェンの、正義の末路だ。 」
「 … ゴメン 、 」
「 謝るな 、 どうせ俺たちはこれからこんなのを経験してくことが増えてくから。マナ、リト、ライ、カゲツ … アイツらが死んで星導と3人になるんだから 、 ウェンはそれがちょっとはやかっただけだ。 」
自分に言い聞かせるかのようにそう口にする。そうだ、俺たちはこれから別れを経験する。人生で感じたことのないような苦しい別れが待っている。だから、こんなところで立ち止まるわけには行かない。
ウェン、ごめん。俺はこれから前に進むよ。どんなことがあっても前に進まなきゃいけないから。だから、もしお前がいいなら俺を許してくれ。お前の死を受け入れずに前に進む俺を許してほしい。泣けなかった俺は恨んでいていい、寧ろ恨んでいてほしい。これから先、もしお前が寂しくなったら俺のところに来てほしい。俺のところに来て、俺に恨み言を連ねて殺してくれたって構わない。だから、さ笑っててくれ。天国で。俺は天国にはいけないから、天国で俺たち7人を、10人を見守っててくれ。そしてもし俺が地獄に落ちたときは、また笑ってくれ。
「 ロウきゅんったらワガママだなあ~~ … 、 お前が地獄に落ちたときは僕も一緒に行ったげるよ 。長生きしろよ! 」