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end1 番外編
限界全員でしばらく泣き続けたあと、らっだぁがゆっくりと声を発した。
「…そろそろ…今後のこと、考えよう。」
泣き腫らした目を擦りながら、みんながぐちつぼの周りに集まった。
動きもどこか重たくて、顔にはまだ疲れの色が滲んでいる。
「ぐちつぼ……今、どんな状況かわかる?」
らっだぁが優しく、できるだけ怯えさせないように問いかけた。
ぐちつぼはうつむいたまま、弱々しい声で答える。
「……リスナーに暴言吐いたっていう、切り抜きが……流れて……あと、リスナーを殴ったって……偽の写真も……」
声が途切れ途切れになった。
「そんなわけねぇだろ……」
原人が低く呟いた。
でも、怒鳴ったりはしない。ただただ、静かに怒りを滲ませる。
「……俺、必死に説明したけど、”言い訳するな”って、全部、否定された……」
ぐちつぼの肩が小さく震える。
たらこが隣でぎゅっと拳を握りしめた。
「ぐちさん、もう無理しないで……」
らっだぁが、ゆっくりとぐちつぼの肩を支える。
「ぐちつぼ、お前がなにも悪くないのは、俺らが一番わかってる。」
その言葉に、ぐちつぼはほんの少しだけ顔を上げた。
「今、出回ってる動画とか、写真とか、どっちも加工されてるもんだから。」
らっだぁは、それでも冷静に言った。
「だからまず、それを証明する。」
「……どうすやって?」
かねごんが尋ねる。
らっだぁは一度深呼吸してから続けた。
「専門の人に頼る。映像解析とか、写真の加工解析できる人に見てもらおう。」
「……僕、当たってみる。zetaの知り合いのスタッフさんに、確かいたから。」
焼きパンが、かすれた声で名乗り出た。
「ありがとう、焼きパン。」
らっだぁは軽く頷く。
「それと限界としても、ちゃんと声明出そう。」
「それは大賛成。」
こんそめが頷いた。
「俺たちで、ぐちつぼを支えるしかないからな。」
「でも、喧嘩腰になったら……逆に拗れる。」
たらこがポツリと漏らすと、みんな黙った。
そうだ。下手に騒げば、余計に炎上の火に油を注ぐ。
「落ち着いて、正しい言葉で伝えよう。」
らっだぁが言う。
「ぐちつぼが悪くないってこと。俺らが信じてるってこと。それだけを。」
「……おう。」
原人が低く答えた。
ぐちつぼが、少し怯えた目でらっだぁを見上げた。
「……俺、何もできない」
「全然それでいいんだよ。」
らっだぁは、ぐちつぼの頭をぐしゃっと撫でた。
「生きて、そばにいてくれればそれでいい。」
その一言で、ぐちつぼの目からまた涙があふれた。
誰も、無理に笑わなかった。
誰も、元気なフリをしなかった。
ただ、静かに。
それでも確かに、みんなの心は一つだった。
限界は、ぐちつぼを守る。
どんなにボロボロでも、一緒に立ち上がる。
ぐちつぼの小さな声が、震えながら部屋に響いた。
「……みんな、ありがとう……」
それは、とても小さいけれど、ちゃんと前を向こうとする声だった。
「……まず、落ち着こうな。」
らっだぁが柔らかく言って、ぐちつぼの背中をそっと支えた。
みんなも、少し深呼吸するみたいに空気を整える。
「これから、ちゃんとぐちつぼ守るために動こう。」
たらこがぐちつぼの隣にぺたんと座って、ぐちつぼの肩に頭を軽く預けた。
「ねぇぐっち、俺らがついてるんだからさ、心配しないでよ。」
かねごんの少し冗談めいた声に、ぐちつぼが小さく笑いそうになる。
その隣で、焼きパンがそっと手を伸ばす。
「ぐっち、辛かったら、何でも言って。僕たち、全部聞くから。」
原人も前に出て、ぐちつぼの手を軽く叩いた。
「これから面倒なことあるかもだけどさ、俺ら一緒に面倒くさがってやっから。」
ぐちつぼは、顔を伏せたまま、震えた声で答える。
「……みんな、俺なんかのために……」
「お前なんかじゃねぇよ。」
こんそめがすかさず言葉をかぶせる。
「ぐちつぼだからだろ。」
その言葉に、ぐちつぼは堪えきれずまた涙を零したけど、さっきとは違う、少し温かい涙だった。
「……じゃあ、俺、頑張る。」
弱々しくても、ぐちつぼがそう言うと、原人がパッと顔を上げた。
「よっしゃ、ぐっち復活!」
その声を聞いてぐちつぼがフッと吹き出し、みんなで顔を見合わせて笑い合う。
「まず、俺らで今出回ってるデマ調べてさ。」
「それまとめたら、どこから潰していくか決めよう。」
「動きながらでも、ぐちつぼの心が楽になること、一緒に考えてこ。」
みんなの声が重なって、部屋に少しずつ活気が戻っていく。
疲れは、確かにある。
けど、それ以上に、ぐちつぼを守りたいって気持ちが、全員を動かしていた。
「……ありがと、ほんとに……」
ぐちつぼが、みんなをぐるっと見渡して、涙ぐみながら笑った。
「これからも、よろしくな。」
らっだぁがぐちつぼの頭をわしゃわしゃっと撫でる。
みんなも、それに続くようにぐちつぼに触れて、笑った。
これから戦うことになるかもしれない。
でも――今だけは、みんなの温もりに包まれて、大丈夫だって思えた。
夜も更けた部屋の中、
小さなテーブルにみんなで集まって、簡単な作戦会議が始まった。
「まず、今広まってる情報を全部集めないとな。」
らっだぁがスマホを手にしながら言う。
「SNSと、まとめサイトも見るか。」
こんそめが隣で頷く。
「俺、検索得意だから手分けしてやろ。」
かねごんが小さく手を挙げると、
「じゃあ、俺も。ぐっち、スマホ貸してくれね?」
原人がぐちつぼに手を差し出す。
ぐちつぼは少し迷ったあと、自分のスマホをぎゅっと握りしめて渡した。
「……ありがと。」
弱々しいけど、ちゃんと前を向いた声だった。
「ぐちさんは、そんで、ちょっと休んでな。」
たらこが優しく笑う。
そしてそれに原人も続ける。
「マジで、今すぐ元気出せなんて言わねぇから。
俺らが動いてる間に、少しでも楽になってくれよ。」
焼きパンもにこっと笑った。
「ぐっちは、僕たちのリーダーなんだからね。」
その言葉に、ぐちつぼはほんの少しだけ照れた顔をした。
テーブルの上には、散らばったメモ帳とスマホ。
それぞれが慣れない手つきで情報をまとめ始める。
「お、早速怪しいスクショあったわ。」
原人が画面を見せる。
「これ、加工してるっぽいな。光の反射おかしい。」
らっだぁが鋭く指摘する。
「加工とか偽造っぽいのはまとめてリスト作っとこ。」
「あと、ぐっちの昔の配信とかで、こんな発言してないか確認する?」
「それもいいな。ぐちつぼ、昔の切り抜き動画とかある?」
「……ある。けど、探すの手伝ってほしい……」
「よっしゃ、任せろ!」
たらこが元気に答えて、
ぐちつぼにぐっと親指を立てた。
少しずつ、部屋の空気が明るくなっていく。
疲れはある。眠気だってある。
それでも、「一緒に乗り越えよう」っていうあったかい気持ちだけは、どんどん強くなっていた。
ぐちつぼは、みんなの輪の中で、小さく深呼吸する。
――大丈夫だ。
俺、一人じゃない。
そんな風に思えた。
そして、
ちいさな決意がぐちつぼの胸に灯った。
絶対に、みんなと一緒に戻ってくる。
もう一度、ちゃんと笑える場所に。
「……これ、見て。」
焼きパンがスマホをそっと差し出した。
画面には、ぐちつぼを擁護してくれているファンのコメントが並んでいた。
『ぐちつぼさん、絶対こんなことしないって信じてる』
『証拠とか言ってるけど、どう考えてもおかしい。みんな騙されないで』
「……っ」
ぐちつぼは思わず口元を押さえた。
嬉しくて、苦しくて、胸がいっぱいになる。
「な、ちゃんと見てるやつ、いるだろ。」
たらこがぐっと拳を握る。
「全部が敵ってわけじゃない。味方もいる。」
こんそめが、優しくぐちつぼの背中を叩いた。
「……ありがと……」
震える声で、ぐちつぼが呟く。
「ぐちつぼ、これだけじゃないよ。」
らっだぁがパソコンの画面を指さした。
そこには、有志のリスナーが独自に検証しているスレッドが立ち上がっていた。
『この証拠画像、よく見ると加工ミスがある』
『言ってることが時間軸と矛盾してる』
「第三者が、俺らが動かなくても動いてくれてる。」
原人がふっと笑う。
「そのためにも、俺らでまとめ作るぞ。」
「疑われたままじゃ悔しいしな。」
「絶対、ぐちさんの無実証明してやろうぜ。」
かねごんが拳を小さく突き出して、みんなもそれに拳を重ねた。
ぐちつぼも、おずおずと拳を重ねる。
その小さな輪に、確かなぬくもりを感じた。
「俺……頑張る。もう、逃げない。」
ぐちつぼの声は、さっきよりもずっと強かった。
「よっしゃ、それでこそ俺らのリーダー!」
たらこが笑って、
焼きパンも「うん、ぐっち、かっこいい!」って笑った。
らっだぁが最後に一言。
「全部取り戻そうぜ、ぐちつぼ。」
その言葉に、ぐちつぼはこくんと大きく頷いた。
夜はまだ明けない。
でも――遠くで、確かに光が見えた気がした。
ぐちつぼたちは、手分けして動き始めた。
こんそめとかねごんは、集めた情報をわかりやすくまとめる役。
たらこと原人は、ぐちつぼの過去配信から”無実を証明できる発言”を探す役。
焼きパンは、有志ファンが作った検証スレッドをさらに裏付けして、信憑性を高める役。
そしてらっだぁは、全体の流れを指揮する役に回った。
「よし……とりあえず、反論できる材料はこれだけ揃ったな。」
夜明けが近づいてきた頃、みんなの目は少し赤くなっていたけど、どこか晴れやかだった。
「ぐちつぼ、配信できそうか?」
らっだぁが静かに訊く。
ぐちつぼは、一瞬だけ迷った。
でも、すぐに顔を上げる。
「……うん。やる。みんなが……ここまでしてくれたから。」
小さな声だけど、迷いはなかった。
「よっしゃ。じゃあ、まずは落ち着いてな?」
「ぐっち、深呼吸、深呼吸!」
たらこと焼きパンが慌てて手振りをする。
「ぐっちなら大丈夫だよ!」
「俺らも見守ってるからな!」
「なにかあったらすぐ駆けつける!」
原人もこんそめも、かねごんも口々に言う。
ぐちつぼは、思わずぷっと小さく笑った。
「……うん。ありがとう。」
パソコンを起動し、Twitchを開く。
震える指先。
でも、心はしっかり前を向いていた。
配信開始のボタンを押す。
『配信を開始しました』
その文字が画面に映った瞬間、
ぐちつぼは、マイクに向かって深呼吸した。
「少し話をさせてください。」
まだ少し声は震えてた。
けど、その声には、力があった。
らっだぁと、限界メンバーのみんなが見守る中――
ぐちつぼの、反撃が始まった。
配信が始まった。
ぐちつぼは一度だけ深呼吸して、マイクに向かって口を開いた。
「……まず最初に、話をさせてください。」
声がかすれている。
けれど、それを振り払うように、ぐちつぼは言葉を続けた。
「俺……、今広まってる噂。全部、やってません。」
ぐっと喉に力を込める。
手は膝の上でぎゅっと握りしめたままだ。
背中越しに、らっだぁたちの存在を感じる。
声にこそ出さないけれど、みんながしっかり見守ってくれているのがわかる。
「証拠って言われてるものも……ちゃんと見直して。
不自然な点がいっぱいあることも、確認できました。」
震える指先で、事前に用意していた画像を切り替えていく。
無理やり作られた証拠たち――
細かい違和感や矛盾を、一つずつ説明していく。
途中、ぐっと喉が詰まりそうになった。
けれど、ぐちつぼは止まらなかった。
後ろでたらこが、小さく両手を握って応援するジェスチャーをしていた。
焼きパンも、そっと胸に手を当てて頷いている。
かねごん、こんそめ、原人も、それぞれに黙ってぐちつぼを支えていた。
そして、らっだぁは、腕を組んでぐちつぼをじっと見ていた。
大丈夫だ。
大丈夫だ。
心の中で繰り返しながら、ぐちつぼは言葉を紡いでいく。
「……怖かったです。正直、逃げたかったし、声を上げるのも、配信を開くのも、全部……怖かったです。」
自然と、目に涙が滲む。
「でも、俺には――信じてくれる人がいて。支えてくれる仲間がいて。だから、こうして、またここに立ててます。」
声が少し震えた。
だけどもう、後ろ向きじゃなかった。
「……俺は、これからも配信を続けます。」
「自分のこと、信じてくれるみんなを、絶対に裏切りません。」
最後の一言を、強く、はっきりと言い切った。
配信の向こう側は、静まり返っている。
何も聞こえないけれど、それでも確かに、何かが伝わった気がした。
配信を閉じると、ぐちつぼはそっとパソコンを閉じた。
「……やったな。」
背後から、らっだぁの声がした。
振り返ると、みんながそこにいた。
疲れた顔も、涙の跡も、そのままに。
でも、誰もが、ぐちつぼを誇らしげに見ていた。
そして、たらこがぽつりと笑った。
「ぐっち、……めっちゃかっこよかったよ。」
ぐちつぼは、涙を拭う間もなく、顔をくしゃくしゃにして笑った。
ぐちつぼは、まだ熱を持った頬を両手で押さえながら、深呼吸を一つした。
涙が出てしまったことに少し照れ臭そうにしながらも、確かに、心は軽くなっていた。
「……ありがとう、みんな。」
震える声じゃなかった。
自分でも驚くくらい、ちゃんとした声だった。
たらこがニカッと笑い、焼きパンが小さく拍手を送る。
原人とかねごんは「やっぱぐっち、やる時やるな」と目を細め、
こんそめは、安心したように小さく息をついて、そっとぐっちの肩に手を置いた。
「これで……少しは、変わるかな。」
ぽつりと呟くぐっちに、らっだぁが静かに答えた。
「変わるよ。……絶対に。」
その言葉が、ぐっちの胸にじんわりと染みた。
そこへ、たらこがスマホをいじりながら顔を上げた。
「…ほら、ぐちさん。ちょっと、見てみ?」
たらこが画面を見せてきた。
そこには、ぐちつぼの配信を見たリスナーたちが
『ちゃんと見た。ぐちつぼ信じてるよ』
『証拠とかじゃなくて、ぐちつぼがそんなことするわけないって思ってた』
『これからも応援してる』
そんなコメントが、少しずつ、だけど確かに増え始めていた。
ぐっちの瞳が大きく見開かれる。
呼吸が、少しだけ早くなる。
「……俺、ほんとに……」
言葉にならなかった。
ただ、胸の中が温かくなっていくのがわかった。
「ね?言ったでしょ、ぐちつぼ。」
らっだぁが、ゆっくりと、でも力強くぐちつぼの背中を叩いた。
「お前を見てるやつは、ちゃんと見てる。」
ぐっちは、目の端に浮かんだ涙を拭いながら、小さく、でも確かな声で応えた。
「……うん。」
これで全部が解決したわけじゃない。
まだ、デマを信じている人もいるかもしれない。
でも、それでも――
希望は確かに、ここにあった。
ぐちつぼは、拳をぎゅっと握った。
「……よし。」
ぐっちのその小さな声に、メンバーたちも頷く。
「そんじゃ、次の作戦、行くか。」
かねごんが冗談めかして笑い、
たらこが「次は俺らがもっと動く番だろ」とニヤリと笑う。
焼きパンも原人もこんそめも、それぞれの方法でぐちつぼを支えようと、そっとスマホやPCを手に取った。
らっだぁは、いつも通りの調子で肩を組んできて、にやっと笑った。
「俺らで、全部、取り戻すぞ。」
ぐちつぼは、その言葉に力強く頷いた。
少しずつ――
だけど、確かに、前へ進んでいく。
ぐちつぼたちは、それからも配信やSNSで少しずつ声を届け続けた。
らっだぁや限界メンバーは勿論、日常組やワイテルズ、MSSPなども協力して、ぐちつぼに寄せられた応援コメントや、過去の配信でのぐちつぼの人柄が伝わるシーンをまとめて投稿したり、
ぐちつぼの誠実さをリスナーに向けて言葉にして発信した。
「ぐちさんは、そんなこと絶対しない人です」
「俺、ぐっちをずっと見てきたから分かる」
「ぐちつぼを信じてる。これからも」
そんな仲間たちの言葉は、ぐちつぼの手を通して、リスナーたちの心にちゃんと届いていった。
誤解していた一部の人たちも、時間が経つにつれて冷静になり、証拠写真の不自然さや矛盾点が検証されるようになった。
それと同時に、捏造を行った人物の正体も特定され、
ぐちつぼを陥れようとした悪意が明るみに出た。
SNSでは、いつの間にか空気が変わっていた。
『ぐちつぼさんに酷いことしてた人たち、謝った方がいい』
『やっぱりぐちつぼは何も悪くなかったじゃん』
『これからも応援する!負けないで!』
目に映る言葉が、少しずつ、温かくなっていく。
限界メンバーのグループ通話も、どこか明るい空気になった。
「……これ、マジで勝ったな」
「ぐっち、ビッツとサブスク読み地獄頑張ってな!」
「ぐちつぼ、俺もお祝い凸行くから覚悟しといてよね!」
みんなが笑う中、ぐちつぼは画面越しに小さく笑った。
――ちゃんと、笑えている自分に気づいた。
「……ありがとう、みんな。」
心の底から、そう思った。
そして。
らっだぁが、ゆったりとした声で言った。
「じゃ、ぐちつぼ。〝おかえり〟配信、するか。」
ぐちつぼは、涙ぐみそうになるのを必死で堪えて、大きく頷いた。
「……うん!」
数時間後。
ぐちつぼは、自室のPCの前に座っていた。
画面に映る配信画面。
手は少し震えていたけれど、心はもう決まっていた。
そっと、配信開始ボタンを押す。
瞬間、待っていたかのように視聴者数が跳ね上がった。
コメント欄は、あっという間に流れ始める。
『おかえり!!!』
『ぐちつぼー!!待ってた!!』
『ずっと信じてたよ!!』
ぐちつぼは、震える声でマイクに向かって言った。
「……ただいま。」
コメント欄が、さらに温かい言葉で溢れかえる。
『おかえり!!!』
『おかえり!!!』
『おかえり!!!』
繰り返し、繰り返し、画面いっぱいに『おかえり』が並んだ。
ぐちつぼは、もう涙を我慢しなかった。
ぼろぼろと涙を流しながら、
ひとつひとつ、コメントに目を向け、口元を何度も震わせながら笑った。
「俺……本当に、何もやってなくて。」
「でも、それでも俺のこと信じて、待っててくれた人がいて……」
「今、こうして、ちゃんと戻ってこれて……」
「ほんとに、ほんとに、ありがとう。」
心からの言葉だった。
「これからも、俺、みんなに笑ってもらえるように頑張るから。」
「限界メンバーと、らっだぁとも、他の活動者さんともまたいっぱい楽しいことするから。」
「だから……」
泣きながら笑って、ぐちつぼは続けた。
「これからも、俺と一緒に、いてください!」
コメント欄は、さらに激しく流れた。
『もちろん!!!』
『ずっと応援する!!!』
『大好きだぞぐちつぼ!!!』
ビッツも鳴り止まなかった。
「おかえり!」「大好き!」「待ってたよ!」
サブスクとビッツがコメントを埋めつくしていた。
すると――。
「ぐちさん!!」
VCに入ってきたのは、たらこだった。
「おかえり配信で泣いてんじゃねーよ!!」
「俺らがすぐ横にいるからな!!!」
原人、かねごん、焼きパン、こんそめ、そしてらっだぁも次々にVCに駆けつけた」
「やっとか、ぐちつぼ!」
「やっと帰ってきたな、俺らのリーダー!」
「ぐっち、ずっと寂しかったんだからね!!」
次々に浴びせられる温かい言葉に、ぐちつぼはまた涙が止まらなくなる。
だけど、今度の涙は、悲しみじゃない。
――嬉しくて、温かくて、幸せで。
胸いっぱいの涙だった。
「……俺、幸せ者だなぁ……」
ぼそっと呟いたその声は、配信を見ていたみんなにも、ちゃんと届いていた。
『幸せになれ!!!』
『ぐちつぼはみんなの自慢の配信者だぞ!!!』
『これからもっともっと楽しいことしような!!!』
コメントも、ビッツも、限界メンバーの声も、らっだぁの優しい笑い声も。
ぐちつぼの世界を、もう一度明るく照らしてくれた。
――こうして。
ぐちつぼは、大好きなみんなのもとへ帰ってきた。
何も失ってなんかいなかった。
むしろ、前よりもっと強く、絆を感じることができた。
「これからも、俺、頑張るからさ。」
泣き笑いの顔で、ぐちつぼは画面の向こうのリスナーたちに、改めて誓った。
「よろしくな!!」
――
画面いっぱいに溢れる『おかえり』と『だいすき』に包まれて、
ぐちつぼの夜は、最高に幸せなものになった。