テラーノベル
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オレから見たクロムは、気味が悪いほど落ち着いていた。
博士に殴られたり、理不尽に怒鳴られている時も、被験者の遺体を抱えて歩いている時も、ほとんど表情を変えることはなかった。あいつが怒ったり、泣いたりしているところを、オレもコバルトも一度も見たことがない。
しかし、決して何も感じていない訳ではないようだった。暴力を振るわれれば、呻き声や強制呼吸が漏れていたし、自分の復讐計画を話す時はどこか嬉々としていて、微かに声が上擦っていた。
─ただ、あいつはどこか”遠かった”。
自分のことをまるで他人事のように話し、目の前で起こっていることを画面越しの出来事のように眺めている。いつもそうだった。自分を苦しい世界から切り離して、守っていたのだろうか。それとも、諦念から人間に期待しなくなり、神のような視点で世界を観察していたのだろうか。真相はあいつにしか分からない。
それから、あいつはあれだけ徹底した復讐計画を立てておきながら、博士を憎んでいる様子がなかった。博士が何故自分を虐げるのかも、どうしてあそこまで壊れてしまったのかも、何を一番大切に思っているかも、理解していた。
その上で、博士のことは『馬鹿』『愚か』『呪われてる』としか言わず、自分の命は捨て駒として扱えてしまうのを見るに、寧ろ自己評価の方が遥かに酷かったのではないかと思う。
恐らく、あの復讐計画の根底にあったのは、憎悪ではなく、ただ苦痛の根元を絶つという目的だったのだろう。
オレがあいつを気味が悪いと感じた理由は、正にそこにあった。
感情だけが、あまりにも綺麗に切り離されて過ぎている。その人間味の無さが、恐ろしく、不気味だった。
─ただ、それと同時に、あの歪さは自己防衛から来るものだったのではないかとも思う。
あいつは、オレに頭を撫でられた時、一瞬だけ焦ったような表情をした。あの顔は、 警戒していたとも怯えていたとも言い表せない。「これはまずい 」とでも言うような顔だった。 ─きっと、あの時、あいつの世界が少しだけ壊れかけたのだろう。
それを目にした時、オレは感じ取ってしまった。
─クロムは、救いを求めていない訳では ない。正確には、救いを受け取るための回路そのものが最初から封鎖されてしまっているのだと。
あいつは、自分が誰からも必要とされない存在だという前提で、世界を組み立てていたのだろう。
そうでもしないと、自分の中の均衡が保てなかったのかもしれない。
必要とされていないから、愛されなくてもいい。
虐げられるのも当然だ。
そうやって納得しているように見えた。
─いや、本当に納得していたのか?
それとも、そう思い込むことでしか立っていられなかったのか。
もし、あいつが幸せになってしまえば、その前提は壊れる。
「誰からも必要とされない存在だ」という、あいつの世界の土台が崩れる。
そうなった時、あいつは何を支えに自分を保つのだろう。
だから、オレはどうしてもあいつを連れ出せなかった。
あいつを救うことで、これ以上あいつを壊してしまうのが、怖くて堪らなかった。
─あれが正しい判断だったのかは、今でも分からない。
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西条景哉
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コメント
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読了したよ〜!これ第2話でしょ!?クロムの内面描写が深すぎて泣ける😭💕 「救いを受け取る回路が封鎖されてる」って表現、天才か!!自己防衛で自分を切り離してるけど、でも本当は誰かに気づいてほしいって矛盾、めっちゃエモい…。語り手の「救うことで壊すのが怖い」って逡巡も生々しくて、もっと読みたくなったよ! 続きが待ち遠しすぎるから、はよ更新してね!!🌸✨