コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
snjn,shjn
『もう、俺のこと嫌いになったの?』
最近脳内を埋めつくしていたその言葉は、彼の背中を見た途端口をついて出ていたらしい。
俺の声に彼は振り返って、ぽかんとした表情を浮かべながらこちらを見ている。
こんなこと、言うつもりなんてもちろん無かった。
言えばもっと嫌われてしまうことくらい目に見えて分かっていたから。
けれどもう、抑えが効かないくらい限界だった。
「なんて?」
あぁ、ほら。
その瞳はもう、とっくのとうに俺のことなんか 映しちゃいない。
俺の一挙手一投足を見逃さなかった、一言一句を拾い逃さなかった、あの頃の彼はもういないんだ。
「あー…ううん、なんもない」
「ん、」
彼に聞かれていなかったことに安堵すると同時に、もう俺に向けられていた気持ちは無くなっているのだろうと思うとやはり少し、いやかなり悲しい。
彼は今誰かと話しているのだろうか。スマホに向けられた視線がやけに優しい。
俺よりも愛しい人ができたのだろうか。
やばい、と思った時にはもう遅く、視界はどんどん滲んでいく。
彼の目の前で泣くわけにはいかないと、俯きながら逃げるように楽屋を出た。
一人になれる場所を求めてずんずんと廊下を進んでいると、前を見ていなかったせいでどん、と誰かと肩がぶつかってしまった。
「すみませ…っ」
既に涙でぐちゃぐちゃになった顔を人様に向ける訳にもいかず、俯いたままその場から去ろうとすると、相手に腕を掴まれてそれを阻止された。
驚いて顔を上げると、とても見知った顔が目の前にあった。
「仁ちゃん」
「しゅ、んた…」
俺の顔を見た舜太は何かを察したのか、何を言うでもなくただ俺の腕を引いて近くの空いている部屋に入った。
後ろ手に扉を閉め鍵をかけたかと思えば、掴んでいた俺の腕を引き寄せてそのまま抱きしめた。
「なんも言わんでいいから、気済むまで泣いていいよ」
誰も見てないから、と付け足して、大きな手で優しく頭を撫でられる。
何も話してないのになとか、俺の方が年上なのにとか、色々頭をよぎったけど、その優しさは今のボロボロな俺には痛いほど沁みてしまって。
いつぶりだろうか。俺は大人げなく、声を上げて泣いた。