コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
2年後…
今夜も月が綺麗に見える。
全て計画通り。
今まで長年大切にしてきた全てから僕は逃げた。
今は養護施設で働いている。今夜は施設の子ども達と星空観測会をしている。「お月様キレイ!お星様もすっごいキラキラしてるね!」無邪気な子ども達と星空を眺めていると、千景と一緒に見た夜景を思い出して懐かしい気持ちになった。
「僕、月が好きなんだ。」
そう子ども達に話すと「先生と同じ名前だもんね。僕も好きー!みんなを見守ってるみたいだね。」と、子ども達楽しそうに話してくれていた。
・・・・
僕は千景が何で怒っていたのかずっと気になっていた。乱暴に抱くくせに怒りだけじゃ無い何かもあって、でもそれが何なのか分からなかった。
本当は僕も脅された事にムカついていたし、今すぐにでもあんな面倒な奴切りたかった。
ある夜、無理やり抱かれてる時に千景が泣いている様に見えた。実際は泣いてなかったけど、そう見えた途端、急に可哀想に思った。
体力と気力の限界になった時、僕は千景を切ろうとした。でもそこで素直に謝られるとは思っていなかった。正直、どうでも良かったけど、やっぱり何か理由がある気がして何故か許してしまっていた。
やっぱり千景はどこか不思議な存在だった。
部屋の匂いは尚人と同じ香水。置いてあった写真。ごめん、探ってたから見ちゃったんだ。地元の駅で君と偶然会った事。僕が体調を崩していた時に傍に居てくれた君の笑顔。あと、後から気付いたんだけど、君の普段の私服は尚人の好きな組み合わせだよ…。バカ千景。気付いた途端にどんだけ尚人が好きなんだよ!って突っ込みを入れてやりたくもなったけど、でも言えなかった。離れてみて思ったけど、千景っておっちょこちょいだよね。隠しきれてないところが逆に千景らしくてそこも好きだと思った。
会いたいけど、もう会えない。弱虫でごめん。
◆◆◆◆
都希くんが居なくなってから二年も経ってしまった…。毎日、都希くんの行方を気にする日が続いている。それでも仕事はしなくちゃいけなくて、空いた時間で探す方法や行きそうな場所を思い付いては探しに行っている。都希くんと行ったあの夜景の場所へも何度も足を運んだ。
本当にあいつは唐突に関係のあった人達の前から消えた。訳が分からない。バーにはちょこちょこ顔を出す様にしているけど、マスターも連絡がつかないと心配している。俺には都希くんを探す術が無い…。
・・・・
実家へ行く用事があって俺も顔を出した。今日は同じタイミングで兄貴夫婦も遊びに来ている。両親の離婚後は兄貴は父親の方へ行ったけど、結婚してからは母親の方へもよく来ているみたいだ。相変わらず、周りに気を配れる優しい兄貴だと思う。
都希くんが好きになるのはこんな感じなんだもんな…俺じゃ到底兄貴に敵わない。別れた人、しかもトラウマの原因の弟なんて立ち位置は死に確だ。
俺は都希くんの実家の場所を知らない。兄貴に都希くんの話しをするべきなのか…。もう既にニ年も経ってしまった。どんだけ逃げるのが上手いんだよ!もう兄貴しか聞ける相手が残っていない。知ってるとは思えないけど、もうそこしか無い。
拓真と遊び、兄貴と二人きりになるタイミングがなかなか無いまま夜になってしまった…。
「兄貴、今日って何時に帰るんだ?」
「今日は泊まるよ。お前は?」
「じゃあ、俺もまだ拓真と遊びたいから泊まろうかな。」
「夜、飲もうか。」
「おう。」
これで兄貴と二人になる口実が出来た。ここまで引っ張ってでも俺は諦めきれない。もしかしたら兄貴は嫌な顔をするかも。何で今更?!って怒り出すかもしれない。だけど大好きな兄貴に嫌われても良いと思うくらい、俺は都希くんに辿り着く為だったら、嫌われる方の道を選ぶ。
夜になって、拓真と千里さんは先に布団へ行った。やっと兄貴と二人きりだ。
「ほら千景。お前もこれで良いだろ?」
「うん。ありがと。」
「はい、お疲れー。」
兄貴との晩酌の時間が好きだ。でも今は緊張する。何から話して良いのかわからない。勇気を出す為に一気に酒を飲み干した。
「お前、ペース速いぞ。大丈夫か?」
「大丈夫。」
短時間で4本飲んで5本目を空けるタイミングで兄貴に止められた。
「千景、飲み過ぎだぞ!」
「…わかってるよ。飲んでるんだから。」
「マジで何かあったのか?」
「……。都希くんが…。」
「え?都希?なんで今都希?」
「都希くんが…どこにもいないんだ…。」
「お前さぁ〜…、はぁぁ。やっぱりあれから都希と関わってたのかよ。昔、都希の名前を急に出すから何かあったのかと思ってたんだよ。俺には何にも言わなかったくせに。」
「兄貴には言えなかった…。」
「で?どこにもいないってどう言う意味?ってか、お前達付き合ってたの?」
「付き合ってない…。セフレだから。」
ブーー!!勢い良く尚人が酒を吹いた。
「ゲホっゲホっ!セ、セフレ?!!お前、何やってんの?!よりにもよって都希とセフレかよ!」
「たまたま接待で行った店で都希くんが働いてたんだよ。俺には気付いてくれなかったけど、俺は気付いて…。なんか腹が立って無理矢理セフレになったんだ。」
「無理矢理?!本っ当お前って単純バカ!!」
「知ってる…。」
「で?お前、自分が千景だって言ったのか?」
「言ってない…。」
また尚人が咳き込んでいる。
「ゲホゲホっ!マジでバカか!!嘘付いてどうすんだよ!!都希に殴られるぞ!あいつの拳、地味に痛いんだから!ってか殴られちまえ!」
「もう何回か殴られた。痛かった。」
「何で言わなかったんだよ。」
「…無理矢理セフレになったから、言わなかった。でも後から何度も言おうと思ったんだけど言えなかった。」
「で、都希が居なくなった事と、ただのセフレのお前は何か関係あんの?」
「分からない。分からないけど、知りたいから探してる。」
「都希はいついなくなったんだ?」
「2年前。」
バシッ!急に兄貴に肩を殴られた。
「二年も何やってたんだよ!!!どうして俺に言わなかったんだ!?」
「言える訳無いだろ!!!だって都希くんはまだ兄貴の事が好きなんだ!!!」
その言葉を口にした途端に涙が出て来た。
「好き?んな訳無い。もう何年経ったと思ってるんだよ…。」
「寝てる時、夢で兄貴の名前呼んでた。」
「……。」
「兄貴の事を傷付けちゃいそうで、だからずっと兄貴には話せなかった。」
「都希もお前もバカだな。いつまで昔引きずってんだよ…。」
「じゃあ、なんで兄貴泣いてんだよ!!」
久しぶりに兄貴の涙を見た。
「…いや、なんか嬉しくて。あいつ俺の事大好きだったからなー。痛っ!」
兄貴の肩に肩パンをした。
「兄貴、マジむかつく。やっぱ話さなきゃ良かった。」
「ごめん。嬉しいのは本当だけど、お前が思ってるのとは違うよ。驚いたけど、懐かしいだけ。千景、お前さ、都希の事どう思ってんの?」
「…めちゃくちゃ好きだ。」
「そっか。お前昔っから都希くん、都希くんって懐いてたからなー。あ、実はヒヤヒヤしてたの今思い出したわ。ははっ。」
「…クソヤロー。兄貴が好きな人だから俺だって好きになるのは普通だろ。」
「お前、安定のブラコンだな。」
「うるせー。」
「そんなクソ馬鹿な可愛い弟へ朗報だ。俺は今の都希の実家を知っている。」
????
まさに灯台下暗しとはこの言葉だと思った。
「何で知ってるんだよ!!!」
「お前も知ってると思うけど、千里ってさコミュ力すごいから、こっちに来てる時たまたま困ってる人を助けたら都希のお母さんだったんだ。それで俺と一緒に自宅まで送ってったんだよ。」
「そんな話し知らなかった!!」
「チラッと話してたけど、お前その時、拓真と遊ぶのに夢中だったし。」
「それいつの話し?!」
「あー。一年くらい前かな…。」
「俺、マジばかぁ…。最悪。」
「で、お前、行くんだろ?」
「行く!!明日、連れてってよ!!」
「仕方ねぇーなー。貸し10な。」
「わかった!」
ほんの少しの希望かもしれない。もし会えても冷めた目で睨まれてしまうかも。そうなったら俺、すぐに泣いちゃうと思う。都希くんには本当に弱いんだ。本当は怖いけど、でも嬉しい。
たとえ君に拒絶される未来だったとしても、それでも君へ続く道をやっと見つけた。