私は今まで父と、母の子として。
そして、何よりも尊き祖国の民として恥じないように必死に生きてきた。
どんなに苦汁を舐めようと、例え地に這いつくばって誰のものかも分からない血の混じった泥水を啜ろうとも己を奮い立たせ何度も立ち上がってきた。死に物狂いで生きてきた。
誰よりも厳しくも私を誇りに思って下さっていた父のために。
誰よりも私を愛し、時に誰よりも厳しくあった母のために。
どんな国々よりも誉れ高く、気高くそ美しい御国様のために。
そして、私の帰りを誰よりも真摯に願い乞い、待っていてくれるあの人の為に。
桜の花が誰よりも似合う私が今まで会ってきた中で一等に美しい人。
風にたなびく真っ黒な髪。未来を憂うようにいつも何処か遠くを見つめている瞳。私と目が合うと花が綻ぶように笑ってくれる。
誰よりも、何よりも、愛おしいと思った。
例え何に変えても守りたいと思った。
幸せにしたいと願った、唯一の人。
唯一にして、一生の_______________
「___祖国さま……ッッ!!、!」
薄暗い部屋に人影がふたつ。
一つは、じっと立ち尽くす大きな影でもう一つはそれとな対照的に畳に座り込んだ小さな影。
そのうちの小さな影から漏れたのは、もう一つの影を指すだろう言葉と叫び声にも似た悲痛な劈いた声だった。
________ぽたり、ぽたり、、と真新しい畳に紅が滴りそのシミを広げてゆく、
「どうか…ッ!!どうかお許しくださいッ!!_____どうかこの気持ちだけは……っ!!!」
___そう必死に祖国に追いすがるわたしはさぞかし無様な姿をしていることだろう。
あたまではわかっていてもそれを繕う余裕は今の私には微塵もなかった。
ぐしゃり、と無礼にも祖国の御召し物を離さんとばかりにつよく握りしめ、必死に懇願する。
薄暗くてその顔を窺い知ることはできないが少なくともいいものではないことは間違いないだろう。
いくら無様でも、無礼であっても、いくら折檻されようとこれだけは何があっても譲ることはできなかった。
「____祖国さま…ッッ!!!」
刹那
「______ッッッ!!!、!!!!」
ぱちり、と瞬くと天井の木目が目に入った。
数秒遅れて自分が蹴り飛ばされ、倒した襖の上に寝転がっていることに気がついた。
それと同時にけほっ、!けほっ!!と呼吸を正常に戻すように何度か咳き込む。
まともに受け身も取らなかったため軽い脳震盪を起こしたのかくらりと頭が揺れるがそんなこと今は気にしている余裕などない。
ふらつく体にムチを打って、襖の上から這い出て平伏する。
「__祖国さま…祖国様…っ!!どうか…っ!!どうか御慈悲をっ!!?!」
言葉が言い終わるが早いか、髪を掴み上げられた。
ぐい…っ!と引っ張り上げられ半強制的に顔を持ち上げさせられる。
そこでようやっと祖国と目が合った。
しかしその目にひゅっと息が止まった。
背筋に冷水を浴びせられたようにぞくりと冷たいものが走った。
そしてぴくりとも体を動かすことが出来なくなった。
「____日本」
その声に反射的にぴくりと体が震える。
きゅっと喉が締め付けられるように委縮した。
だが祖国はそれに不快げにぴくりと眉を動かした。
「__なんだ?自分の名前すらわからなくなったか?」
その言葉に遅れて『それ』が自分を指していることに螻ア逕ー螟ェ驛は気がついた。
「っ!___い、いえ、勿論、覚えております…」
そう言うと祖国は真紅の目を細めて問うた。
「私が誰か言ってみろ」
それに、日本は答える。
「我らが大日本帝国の、祖国様で_____」
パチン___ッ!!!
それを言い終えるが前にまるで子の間違いを咎める“親”のように頬を打たれた。
「もう一度だけ問う。私は、誰だ」
最後のチャンスだ、と。それは言外にそう言われていた。
そこでようやく、日本はその質問の意味を理解した。
そして同時に自分が何者であるかも、理解した。
それとともに今まで確かな光を持っていた目が揺らいだ。
はくり、と口が音もなく何回か開閉し、やがて振り絞るようにかすれた声音で言った。
「………誉れ高き、大日本帝国の、化身であらせし…、わたしの、……父、……です。」
それに、____父は肯定するように目を細めて髪を離した。
その重力に従って、畳に手を付いた私を見下ろして父は言い聞かせるように冷淡な口調でのたまった。
「いいか、私の御子であるお前も何れ時が来れば久遠の命を手に入れ、役目を全うしなければならない。ましてや想い人など言語道断だ。あまりにもお前が駄々を捏ねるのならば私も然るべき処遇を取らねばならん。賢いお前ならば、わかるな?」
その言葉に日本は息を呑んだ。
”然るべき処遇“それは、つまり______
それを理解するが先に日本は叫んでいた。
「っ……!!!いや……イヤです…っ!!父上っ!私、何でもやります…っ!!お望みとあらば、もっと、もっと精進致しますから…ッ!!ですから…ッ!!ですからどうかあの人だけはっ!!!」
必死に懇願する日本の頬を包み込み、大日本帝国は微笑んでやる。
それは親が子を安心させるようなそれだった。
「いいこだ。___ならば、どうしたらいいのか…わかるな?」
父は、私にそう言った。
その答えは勿論、決まりきっている。
父からの期待に応えない息子が一体どこにいようか?
「はい、この身は父上の為に」
_肌を刺すような冷気が身体を軋ませる。
何処かから一定の間隔で落ちる水滴の音が反響して地下牢によく響く。
最も、それ以前に己の体は今は自らの意思では動かすことが出来ないのだが。
少しでも身じろごうものなら両手両足の肌を摩擦する麻縄が今は私の体の自由を奪っていた。
何故、そんな目に合っているのか、って?
そんなこと少し考えてみればわかりきったことだろう。
わたしに、こんな事ができるヒトなんて限られている。
その理由もまた然り、だ。
我ながら馬鹿なことをした自覚はあった。
今回は、暫く此処から出ることはおろか喉を潤わせることすら叶わないだろう。
______じりっ……
行灯の油が燃える音が地下の静寂をかすめて消えた。
いっその事明かりなんか消してくれたら良かったのに。
それすらもあの人は見透かしているというのだろうか。
ちらり、と着物の裾のしたから見える血の跡と赤黒い痣がより一層惨めな気持ちを掻き立てた。
少しでも気を紛らわせようと軋む体にムチを打ち、なんとか身体を起き上がらせた。
少し息を荒げながら木格子に寄りかかる。
するとふっ、と着物に縫い付けられた家紋が目に入った。
一目で彼の家紋であるということがわかるそれ。
彼の一族の人間のみが身に纏うことを許される、彼の一族の人間であることの証。
「………………………」
_______嗚呼、なんて✕✕✕✕✕✕…………っ!!!
それにすっと目を細め、噛み締めるようにしばらく眺めてから目を逸らした。
今日から譌・繝取悽の子だと迎え入れられたあの日のことは今でも鮮明に思い出すことができる。
あの日、✕✕年間生きてきた名前を捨てて私は生まれ変わった。
文字通り譌・繝取悽の家紋を背負い、家族を背負ってその誇りに恥じない人間になることを誓ったのだ。
全ては今まで愛し、見守り育んできてくれたたくさんの守るべき人々の為に。
大日本帝国の御子 日本さん
敬愛する大日本帝国の目に留まり、幸運にも大日本帝国の次期後継者として養子として迎えられた。
人情深く、義理深い子なので時に深入りし過ぎてしまう悪癖があるが、色々な人々の期待と恩を背負って御国の為に日々邁進してる。
祖国様はとても厳しい方だけれども、自分への期待ゆえのことだとちゃんと知っているためその期待に応えて、譌・繝取悽の一族の末席として相応しくなれるように日々奮闘している。
【真名】螻ア逕ー螟ェ驛
普通の幸せを享受して、幸せに生涯を終えるはずだった普通だった青年。
しかし、帝国に目をつけられ周囲の人々を人質に取られて譌・繝取悽の家に無理矢理養子入りさせられた。
一族入りする際に一族の人間としてその家紋を背負って生きることを誓わされ、その際に背中に家紋の焼印を焼かれて文字通り家紋を背負わされたり、帝国様の血を飲まされて親子の契約を結ばされたり、真名を取られ親縁の契約とは名ばかりの隷属契約を結ばされたりした。
契約のせいで逆らえないのもあるが、契約を破れば大切な人らに危害が及ぶので表面上は従順な帝国の跡取り息子として振る舞っている。
しかし、想い人のことは忘れられなくて契約に違反し密かに逢瀬をしていたがそれがバレて想い人を目の前で殺された。
その後凄惨な折檻を受け、罰として地下牢に幽閉される。
本当は誰よりも何よりも帝国や、譌・繝取悽の一族を諞弱¥、諱ィ繧薙〒る。
ゆくゆくは父帝国の後を継ぎ、一族の末席として立派に役目を果たす国の化身となる。
【国の一族】
当代頭首が血を与え、親子の契約を交わすことで後継を定める。
尚、後継となる人間の決定にはは歴代化身らの総意が必要なので実際のところ当代頭首だけの決定で決めることはできない。
【親縁の契約】
真名を取り上げ、名を与えることによって成り立つ契約。
個人差はあるが、日本のような徹底的に押さえつけて従属を強いるような束縛の強いものではない。
また、女関係を禁ずるようなものも日本特有のもので歴代化身は女遊びも行っていた。
彼の場合、化身になる事への強い反発や生(寿命)への強い執着があった為の措置。
………というのはあくまで体裁であり、愛する者の為に自分たちに服従を強いられる殊勝な子孫への嗜虐行為
コメント
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キャー!!!!!祖國様かっくうい!!!!そこに痺れる憧れるゥッ!!!!! 私のような低脳では、らぎ様の物語を深掘りしたり考察したりできないのですが、これだけはわかります。 らぎ様ダイスキー!!!!!!!個性と言いますか。他の作家様では読めないようなシリアスで不気味な展開がもう神です。本当に。私が真に求めていたものは此処に在る。らぎ様万歳🙌🙌🙌🙌