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着ぐるみを着る彼の姿
分厚い布で覆われた彼の姿を私は知っている
冷たそうに見えて暖かくて
突き放してる様で面倒見がよくて
猫が大好き
ただ、そんな彼を覚えているのは多分私だけで
高校生の頃、遠くの街へ引っ越した私は
中学生からずっと彼が好きだった
そんな淡い恋心の為だけに私は
ママンとドュギャザーに入った
「 はーい!今から休憩入ります 」
新入りの私の仕事は出演者の顔を整える事
所謂、ヘアメイクというやつだ
オシャレには元々興味があったので資格を取ることは
そこまで苦ではなかった
『 あ〜っ!新しいメイクさんっスか? 』
「 はい、今日からここの担当の 」
「 桜田桃と云います、よろしくお願いします 」
兎原くんはいつの間にか金髪になっていた
チャラそうに見えるがなんだかんだ優しいのだろう
兎原くんも同級生だったが
流石に私の事は覚えていないだろう
『 あんま敬語とか使わなくていいっすよ 』
『 ここのスタッフ気ぃ使わないヤツ多いんで笑 』
「 そーなんですか、笑 」
「 まぁ、慣れたら考えますね 」
会話のキャッチボールをしながら
肌にパウダーをのせる
綺麗な顔立ちでただでさえ綺麗なのに
肌にニキビひとつなくて密かに恨んでおく
「 はい、終わりましたよ 」
「 午後からも仕事、頑張ってくださいね 」
『 へへ、頑張りまぁ〜ス 』
この人は、高校生時代から
何一つとして変わっていないなと
心の中で一つため息をつく
『 あの、 』
『 お願いしても良いですか? 』
背後から心地のよい声がする
普段は着ぐるみで隠れた彼の顔がそこにはあって
幼さが抜けていて
絵画の様に美しい顔だなぁと
自然と顔が緩まる
「 はっ、はい!! 」
いつもより大きい声が出た気がした
profile
桜田 桃
サクラダモモ
メイクアップアーティスト
熊谷の事が中学生以来好き
〜
熊谷みつ夫
クマタニミツオ
子供番組のクマさんの中の人
「 なんで俺たちはぬいぐるみ被ってんのに 」
「 メイクさんに頼まないといけないんでしょう 」
それが彼の顔を整えている時に
初めて発された言葉だった
彼は真顔で面白いことを言うから
少し吹いてしまいそうだった
「 確かにそうですね笑 」
「 でも万が一、熊の頭が取れた時に 」
「 色々と乱れてたら、大変ですよ? 」
『 そんな事起きたら、俺はクビですね 』
少し可笑しそうに笑う彼は
私の心臓をこれでもかと言うほど高鳴らせた
『 … 失礼なんですけど 』
『 どこ出身ですか? 』
「 . . 、へ? 」
一瞬、世界が止まった気がした
もしかしたら私だけがこんなに意識して
彼はなんて事ない質問なのかもしれないけれど
____私の事、覚えてくれてるのかな?
なんて希望を抱く
「 えっーと、福井の方ですね 」
「 何にも無い所です笑 」
鏡越しに彼の瞳と目が合う
穴が開きそうなほど、ずっと見つめられた気がする
「 えっと、どうかされ_____ 」
『 桜田桃? 』
______やっと、名前を呼んでくれた。
言葉には表せない程嬉しくて
空さえも飛べてしまえそうで
世界が君と2人だけになったみたいで
嬉しくて、嬉しくて、堪らない
ほんとに稀だったけど
私の事をフルネーム、呼び捨てで呼ぶのは
君だけだったよ
熊 谷 ク ン 、
______ 桃の花が咲く頃に
start