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エル・クリスタ軍は|悪竜《ヴァルゴン》を一掃し、橋の上を進軍した。湖を渡り切ったユウリは、目の前に屹立する城を仰ぎ見る。

黒と紫の怪しく忌まわしい城だった。複数の塔が連なっており、全体として三角形を成している。

中央の尖塔ははるか高く、先端は豆粒ほどの大きさだった。窓が至るところにあり、不気味な赤色が蠢いていた。

「お兄ちゃん、あれ──」怯えたような声音のルカが、ユウリの制服の袖を小さく引いた。ユウリはルカの視線の先に顔を向ける。

球体が城の前にあった。色は黒で直径はユウリの身長ほど。よく見ると表面に鱗のようなものが見られ、脈動しているようにも思えた。

「|悪竜《ヴァルゴン》|真球《スフェイラ》。魔城の門番だ。こっちは伝承通りってわけだな。にしてもつくづく、奇妙奇天烈ななりをしてやがるぜ」

シャウアが静かに呟いた。

するとメイサはユウリに向き直った。視線は真剣そのものである。

「さっきと違って敵は一体だ。他の連中、すなわちこの時代の戦士たちに託すべきだな。先ほども話したが、彼らはいわば幻だ。死傷しても痛手ではない」

「そうだよお兄ちゃん。小型|悪竜《ヴァルゴン》とは関係なさそうだし、ここはみんなに戦ってもらっといてこそこそっと門を通り抜けようよ。わたし、お兄ちゃんに危ない思いをしてほしくないよ」

切実な調子でルカも続いた。ユウリは落ち着いて考えを巡らせ、やがて決断した。

「いや、俺はあいつと戦うよ。戦って勝って、堂々と門を通り抜ける」

きっぱりと告げて、四人の仲間に目をやった。皆、驚いたような顔をしていた。

「この時代だけに姿を見せていた小型|悪竜《ヴァルゴン》が出てきたんだ。いったいどうして、|悪竜《ヴァルゴン》|真球《スフェイラ》だっけか、が俺たちの世界にも表れないと言い切れるよ?」

「うん、もっともな意見よね」顎に片手を据えたフィアナが納得した口調で呟いた。

「それにこれは、俺が|護人《ディフェンシア》として成長する絶好のチャンスなんだ。未知の|悪竜《ヴァルゴン》と戦えるなんて機会はそうそうない。

お願いです、メイサ先生。戦わせてください。今よりもっと強くなって、大切な人を守りたいんです」

真摯に告げて、ユウリは頭を下げた。

「そりゃあ勇敢通り越して蛮勇だぜ、ユウリ。入城前の|悪竜《ヴァルゴン》|真球《スフェイラ》戦で、エル・クリスタ軍は戦力の三割を失ったって話だ。いくらユウリが強くても、無謀なことこの上ないっての」

ざっくばらんにシャウアが諫めてくる。

「私も、戦う。ユウリと一緒に|悪竜《ヴァルゴン》|真球《スフェイラ》と戦うわ」フィアナの声が静寂を破った。

はっとしたユウリは顔を上げた。フィアナの澄んだ大きな瞳には、強い決意が宿っていた。

「偽ケイジ先生との戦闘、ユウリが来てくれなきゃ私は負けて死んでいた。あんな情けない思いはもう絶対にしないの。私の目標はみんなを守るために頑張り続けて、天寿を全うして『良い人生だったな』って思って死ぬこと。私もお願いです、メイサ先生。ユウリと二人で戦わせてください」

今度はフィアナが頭を下げた。一秒、二秒。再びユウリたちの間に沈黙が訪れる。

「良いだろう。二人とも存分に戦え」

メイサが力感あふれる口振りで答えた。

「先生──」ユウリは思わず言葉を漏らす。

「そういった狂気と紙一重の心意気を私はおおいに尊重する。先ほどは試しに安全策を勧めてみたが、賢明な選択ばかりでは進歩などないんだよ。人間、時には糞度胸を発揮して、滅茶苦茶をやるべきだ。自分の壁を破るためにはな」

力説を終えたメイサは、くっと口角を上げた。二人を湛え励ますような、強烈な笑顔だった。

「行け、未だ未熟な戦士たち! |悪竜《ヴァルゴン》|真球《スフェイラ》を見事打ち倒して見せろ! 己が運命は自分の力で切り開け!」

メイサの勇壮な鼓舞を受け、「「はい!」」と二人は高らかに応じた。ユウリはふうっと息を吐き、戦闘へと意識を集中させ始めた。

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