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「……ねぇ、なっちゃん。今日も外は雨だよ。…君が濡れなくて済むように、神様が降らせてくれたんだね」
みことの声は、いつも硝子細工のように繊細で、優しい。
俺の視界は、今日もみことが用意してくれた真っ白なリネンのベッドの上。窓の外は霧がかっていて、遠くの景色は見えない。
俺は少し体が弱くて、みことがこうして付き切りで看病してくれている。
みことは、俺の髪を梳かし、指先を一本ずつ丁寧に拭き、まるで聖母のように俺を慈しんでくれる。
「……みこと、いつもありがとう。…俺、みことがいなかったら、もう……」
「言わなくていいよ、なっちゃん。……君を愛しているのは、俺の本能だから」
みことは、俺の額にそっと唇を寄せた。
その瞳は、吸い込まれそうなほど深い藍色。
めろめろに甘い、蕩けるような愛の言葉。
俺は、この優しくて儚い世界が、永遠に続けばいいと思っていた。
「はい、お薬の時間だよ。……これを飲めば、またいい夢が見られるから」
みことが差し出したのは、透明な青い液体。
それを飲むと、頭がふわふわして、みことの腕の中が世界で一番安全な場所に思えてくる。
みことは俺を抱き寄せ、耳元で愛の言葉を囁き続ける。
「愛してるよ、なっちゃん。……君は、僕だけのもの。…誰にも触らせないし、見せない。…この部屋が、君のすべてだよ」
「……うん……、俺も、みことだけ……」
意識が混濁する中、俺は幸せを感じていた。
でも、ふとした瞬間に、ノイズが走る。
――俺は、いつからこの部屋にいるんだっけ?
――俺の病気って、一体何なんだっけ?
ある夜、みことが眠りについた後。
俺は、珍しく頭がはっきりしているのを感じた。みことが薬の量を間違えたのか、あるいは俺の体に耐性ができたのか。
俺は、這うようにしてベッドを下りた。
足元がおぼつかない。筋肉が衰えている。
俺は、ずっと開けられることのなかった、クローゼットの奥の扉に手をかけた。
扉の向こうにあったのは、小さな資料室だった。
そこには、俺が知らない「俺」の記録が、びっしりと並んでいた。
『被検体:記憶処理、71回目。失敗。』
『感情の固定化:なつへの依存度98%を維持。』
『身体機能:投薬により一時的な筋弛緩状態を継続。』
俺の心臓が、早鐘を打つ。
病気なんて、嘘だった。
俺は、みことによって「病弱なお姫様」という役割を与えられ、この部屋に閉じ込められていたのだ。
そして、一番奥の古いアルバムを開いたとき。
俺の喉から、声にならない悲鳴が漏れた。
そこには、みことと、健康そうに笑う俺の写真があった。
その写真の裏には、みことの歪んだ字で、こう記されていた。
『4月12日:なっちゃんが、他の奴と結婚すると言った。……許せない。……壊して、一から作り直すことに決めた。……俺だけの、完璧なお姫様に。』
「……ぁーあ、見ちゃったんだね。……せっかく、いい夢見てたのに」
不意に、背後から声がした。
振り返ると、暗闇の中にみことが立っていた。
いつもの優しい、儚げな微笑み。……でも、その手には、あの青い薬の注射器が握られている。
「……みこと、お前……、俺を……っ」
「逃げようとしても無駄だよ、なっちゃん。……外の世界は、君を傷つけるだけ。……俺を捨てて、他の誰かと幸せになろうとした 前の君は、もう死んだんだよ」
みことは、ゆっくりと近づいてくる。
俺は、逃げようとした。……でも、足が動かない。
床に這いつくばる俺を、みことは愛おしそうに抱き上げた。
「大丈夫。……また、忘れるようにしてあげる。……新しい薬は、もっとイイ味がするはずだよ」
注射器の針が、俺の腕に触れる。
「……やめ、て……、みこと……」
「愛してるよ、なっちゃん。……君の記憶が何度消えても、俺は何度でも、君を俺に恋させる。……それが、俺たちの永遠の約束、だよね?」
意識が、急激に冷えていく。
最後に見たみことの瞳は、やっぱり世界で一番優しくて、残酷だった。
次に目覚めたとき。
俺は、真っ白なリネンのベッドの上で、雨の音を聞いていた。
「……おはよう、なっちゃん。……今日も外は雨だよ」
俺は、傍らに座る美しいみことを見て、幸せそうに微笑んだ。
「……みこと。…愛してる」
灰色の水槽の中で、俺たちは今日も、極彩色の偽物の夢を見る
このペア可愛すぎる・・🥹🤍´-