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タイトル:『放課後の図書室』
五年三組の教室には、知らない者はいない“犬猿の仲”がいた。
それが、大和(やまと)と陽菜(ひな)だ。
二人は小学校一年生のときから同じクラス。席が隣になればケンカをし、班が一緒になれば意見が衝突。周囲の誰もが「またか……」とため息をつくのが恒例だった。
ある日、図書室の整理当番に二人が選ばれた。担任の先生は「協力することも勉強よ」と笑ったが、クラスは凍りついた。
「さっさと終わらせるわよ、無駄話はナシで」
「お前が無駄話してくるんだろ」
図書室には放課後の静寂が漂っていた。ホコリの積もった棚、少し傾いたラベル。二人は黙々と作業を進めていたが、ある一冊の本で手がぶつかった。
「……これ、読んだことある?」
「あるに決まってる。『夜のカギしっぽ』、名作じゃん」
「……あれ?お前も好きなの?」
その瞬間、何かが変わった。大和と陽菜、同じ物語を読み、同じシーンで泣いたこと、同じセリフを口にしていたことに、気づいてしまったのだ。
それからの二人は不思議とケンカをしなくなった。いや、ケンカはする。けれどそれは、前のように刺々しいものではなく、どこか言葉遊びのような、弾む口論だった。
「犬猿ってさ、本当は似てるからぶつかるんだって。知ってた?」
「……知らなかった。でも、ちょっと納得かも」
図書室の夕日が、二人の背中をあたたかく照らしていた。