そして冒頭に至る。
父の履いている革靴の音が周辺によく響いていて、足の震えは強くなった。
もし見つかっても、見つかったということを知らずに気付かないままポックリ逝きたい。これはせめてもの願いだった。
口を手のひらで強く抑えて、溢れ出る息を極限まで出ないようにした。そのまま目を瞑って散乱しているゴミの間に隠れてじっとする。
殺すなら早く殺してくれ、なんて、生に縋ることを諦めながら縮こまっていた。
私だけではなく、きっと父も焦っている。
誰にも見られていない。証拠なんてない自分に有利な状況だったのに、こんな小さなクソガキ一人の存在でその状況が崩されたのだから。
証拠隠滅として、私のことを殺そうとするのもわかる。私だったらそうする。
にしても恐ろしすぎるだろ。
しばらく経つと足音は消えた。
ホッとして、身を隠していたゴミを退ける。
服についた塵を大まかに払い、この先どう過ごすかを考えた。
そして父の居た方角と反対側に行き、路地裏から出ようとしたそのとき。
「ハッ…!みつけたぞ!!」
声のした方を見ると、父が血走った目でこちらを睨んで、口角を釣り上げていた。
片手にはすでに血のついた包丁を持っており、その狂った姿はトラウマ物だった。
待ち伏せされているなんて考えもしなかったため、ひどく動揺したが何とか身体に鞭を打ち、地面を走って逃げた。
ただ、子供と大人ではどちらが有利かなんてわかりきったこと。
一分経つか経たないか、それもわからない速さで私は父に捕まった。
あ、これ死ぬ。
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