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遠い遠い時の果て……
そこに住まう人は皆、永遠の命を持っていた。
そこに一人、赤い実のなる木の下、生まれながらに死の呪いがかけられた、そんな少女の話。
色付いた町外れで蒼く光る湖畔。そして赤い実のお菓子屋。
ちょっぴり寒くなった今日は妙に誇らしげで、少女は自信作を売りに行く。
「待ってて、今度こそ、美味しいんだから!」
そう言って少女は街へ自信作を売りに行く。
時計塔の見える市で、少女は一人驚いた。
「珍しく賑やかね。ラッキー!」
そして物憂げな街の隅で一人。
「赤い実のパイ、どうですか?自信作なの!」
少女を見て蔑む人達。
みんなと何も変わらないのに、美味しくできたのに…!
今日も声は届かないの?
まるで透明になったみたいね。
そうして誰もが知らぬフリをした。
何故なら、
死んだ世界で唯一人生きていた少女の話。
夜なべでアレンジパイとにっこりスマイル引っ提げ、少女はまだ諦めない。
時計塔の針も空を指して、お腹もなる、そんな時。
ふと、後ろから人が少女を押す。
「あ!」
そして甘い籠は落ちる。
籠から落ちたお菓子を無いもののように踏んでゆく人達。平気な顔してね。
そして少女が惨めにお菓子を拾い集めていると、もう一人の手が伸びてきた。
その手はドロドロになったパイへ伸びてゆき、そのパイを口に入れて、
その声で心は溢れた。まるで輪郭を描いたみたいね。
そうして、彼は手を差し出した。
何故なら、
死んだ世界で唯二人生きていた遠い物語。
街の人は哀れむ。赤い実を食べ、呪われた者を。
永遠に生きられずに死ぬのさ、嗚呼、なんて可哀想な話。
二人は笑う。それでも、笑う。
とっても素敵な呪いね。
例え明日死んでも、『今』が確かで大切になるから。
もう声は届かないのね。まるで透明になったみたいね。
そうして誰もが知らぬフリをした。
何故なら、
『永遠』の呪いは解かれていた。
まるで、二人の方が狂ったみたいだろう?
そうして、いつか、笑うように眠る。
何故なら、二人は放たれているから。
死んだ世界で唯二人だけが幸せだった。
〜林檎売りの泡沫少女〜