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「何よ、あれ」
その様子を影から覗いていたトウカは、目を丸くする。
何よ、あんなの、あんなのただの暴力じゃない。
ハルカは、あんな人じゃない。
あんなことしない。
なにか、何かがおかしい。
「なんだありゃ、救世主様がそんなことするかよ。」
突然の声に後ろを振り返る。
そこには、久しく見ない人魂の姿になったカルヴァリーが、ふよふよと漂っている。
「知らないわ、新しい転生者でしょ。」
「ほーぉ。お前以上のカスなんだな」
「うるさいわね、止めてくるからちょっと待ってて」
「へぇ? “元”友達の為にそこまでするのか?」
カルの言葉を無視して、路地へと歩く。
「気をつけてな」と、後ろから小さく声が聞こえた。
***
路地の奥へ進むと、泣きながら何かを訴えるヒスイを、ハルカが見下ろしているところだった。
その後ろでは、アイラが楽しそうな顔で2人を眺めている。
「ねぇ、そこのお二人さん。」
「さっきから見てたんだけど、あんたら、何してるかわかってる?」
「うん、アイラを守ってるんだ。
それと、仕返しかな。」
ハルカはいつもの笑顔を浮かべて答えた。
その声には抑揚がなく、本当に人形になったようだ。
「ねぇハルカ、本当にヒスイがコイツをいじめたわけ?」
「そうだよ?」
アイラの事を“コイツ”と呼んだことで、少し嫌そうな顔をしたものの、すぐに元の笑顔に戻ってしまう。
「ハルカ、あんたどうしちゃったのよ、おかしいじゃない、こんなのって…」
こんなの、ハルカじゃない。
「ね、あなたの名前は?」
アイラが私に名前を尋ねる。
「トウカ。あんたは関係ない、黙ってて。」
私の名前を聞いたアイラは、大きく目を見開いて固まってしまう。
「ねぇ、ハルカ聞いて。」
しゃがんで、ハルカに視線を合わせる。
濁りきった空色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。
「こんなの、貴方じゃない。」
「そんなことないよ、これが僕。」
「違う。あなたは暴力を使うような事は絶対にしなかった。」
どうか思い出して、あなたを。
転生してきた部外者の私に歩み寄り、友達になってくれた、今日まで共に生きたあなたを。
「ねぇ、覚えてる? 私が初めて貴方にあった日のこと。」
「それが何? 今は関係ないよ。」
「あなたの顔に、思いっきり頭をぶつけたのよね。」
「それから、毎日電話がかかってきたのよ。
『今日は何食べた?』だとか、『心配事はない?』とか。」
「トウカ…。」
「あなたは本当に優しかった。
優しくて、そして単純だった。私を置いて、ヒスイなんかと魔王を倒しに言っちゃったりして。」
ハルカの顔に手を添えて、精一杯微笑んでみせる。こんな笑顔を見せたのは、何ヶ月ぶりだろうか。
「ハルカ、この前の喫茶店でのこと、謝らせて。ずっと、謝りたかったのよ、貴方に。
でも、勇気が出なかった。」
いつの間にか、目には涙が溜まっていて、声もみっともないほど震えていた。
「あの時は、ごめんなさい。また、私と友達になってくれる?」
「トウカ、僕、僕は…」
ハルカが目を見開いて、私を見つめた。
その目には、光が宿っていて、普段通りの彼だった。
隣に居たヒスイも、目を輝かせた。
「僕も、謝らないと。ごめんなさい、あの時君を傷つけて。君のこと、ちゃんと考えてなかったよ。」
「ハルカ…」
「友達になって欲しいって頼むのは、僕の方だ
また、友達になってくれる?」
「何言ってるのよハルカ、私達もう友達よ。」
すると、ハルカの表情がパッと明るくなる。
隣にいるヒスイも、立ち上がって、ハルカに駆け寄ろうとした。