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カタッ
「ねぇゆいな、怒ってるの?」
「怒ってなんかないよ」
怒ってはない。けど、なんでイメチェンなんてしたのか…好きな女の子でもできたの?
「嘘だ。」
「怒ってないって」
「じゃあなんでそんなに不機嫌そうなの?」
「それは…」
それは、だって、『そうきくん』だなんて呼ばれてたから。
『釣り合ってない』分かってる。
あやみたいに誰かの人生で輝けるほどの魅力なんて私に持ち合わせてはいない。
「まぁ、いろいろとね。」
「もしかして、俺が眼鏡外したから?」
「それは…少しだけある。」
「そっか…。急すぎたよね。」
「あのさ、実は、俺クラスのやつにゆいなと釣り合ってないって言われて。」
少し悲しそうな顔をしながらそうきは話し始めた。
「ゆいなが俺の眼鏡外した方がかっこいいって言ってくれたじゃん?」
「なら、釣り合うためにって」
「わかってくれる?」
また、私のため。
「わかるよ」
「でもね、そうき、」
「私もそうきに釣り合ってなんかいないよ。」
「地味で暗くて、なんの取り柄もない私と優しくてかっこいいそうきとじゃ天と地の差があるよ。」
私とそうきは違うから。
優しい彼と暗い私。
あぁ、思い出した。
懐かしいこの雰囲気。あの子だ。
あれは今のような暑い小学三年生の夏のある日。
私は祖父の家に帰省していた。
父から暴力を振るわれるなどの虐待で辛くなっていた私を母は連れ出してくれた。
この夏が終わってから父と母は離婚した。
祖父が出てきてくれたみたいで案外あっさりと。
まぁそんなことはどうでも良くて、夏休み、ある日のこと。
私は綺麗なものが好き。祖父の家の近くにはキラキラした海がある。ゴミなんて一つもなくて、すごく綺麗で好き。
いつものように海へ出かけると一人の男の子がぼーっと水平線を眺めている。
何かあるのかと私は、声をかけた。
男の子の名前は一条 奏樹と言った。
そうきくんはこの町では有名な大きな別荘の持ち主の息子だった。
そうきくんは父親と二人でここに来たという。
母親からの精神的虐待に耐えきれなくなったそうだ。
私と似た境遇の男の子。
それから毎日のように二人で沢山のことについて話した。
その男の子はゆいなって私を無邪気に呼ぶ。
その当時の私には分からなかったが、あれを恋というのだろう。
初恋、まさにこういうこと。
一週間ほど滞在していたそうきくんは帰って行った。
車の中から大きく手を振っている彼。また会えるかななんて期待しながら私も小さく手を振り返した。
それから約八年後。気付かぬまま私は住吉奏樹となった彼に出会っていた。
そうきくんは母親が嫌いなことを話してくれた。
だけど今は大好きな父親と離婚して母親とその新しい父親と暮らしている。
そうきは言った、『その男浮気してるから嫌いなんだ』この言葉は本当に今の父親に向けた言葉だったのかな…。
分かんないけど。
同じ委員会になって、またそうきのことが好きになって、それでもって高校二年生になった私。
クーラーの効いた涼しい図書館でも窓辺にいるとジリジリと太陽がやきつけているのがよく分かる。
私の額に一滴汗が垂れた。
そうきはゆっくりと口を開く。
「ゆいな、そんな事言わないで…、」
しんどそうな顔。私だってしんどいのに。
「でも本当のことでしょ?」
そう、本当のこと、私とそうきは釣り合わない。
「違う、釣り合う釣り合わないの話なんかしてないんだよ!」
「分かってるよ、分かってる。」
「でも、私は誰かの人生の主人公にはなれないの、」
あやみたいにキラキラ輝けない、キラキラが好きな私はキラキラしてない。
もし、誰かの人生で輝けたら、どれほど良かったのかな?
「俺がいるじゃん、」
「え?」
「ゆいなの人生ではゆいなが主人公だよ、」
「それから、ゆいなは俺の人生のヒロインだよ!」
あの時みたいに無邪気に笑って、私を呼ぶ君。
「好きだよ、ゆいな」
これは違う、見せたこともない表情で甘い声で囁く君。
言いたいこと沢山あるけど、簡潔に言うならこうでしょ。
「私も、好きだよ、」
「私と付き合って欲しいです。そうきくん?」
「なっ、覚えてたの?」
「さっき思い出した」
「返事は?」
「もちろん、ゆいな!」
あの頃と変わらない君の笑顔で私だけを見ていて。