すぐに反応があり、きれい!美味しそう!という声もあればまちこりさん無事で良かった〜などの昨日の配信を見てくれたのであろう声もある。一番最初にコメントをくれた人がどこが一番良かったですか?と聞いてくれたので、明日も少しだけ案内してもらうことになったから明日発表するね!と返してスマホを閉じた。明日寝坊しないように早く寝よう。
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「おはよう」
「オハヨウゴザイマス」
今日も眩しい笑顔に目を細めながら挨拶をする。
「ヨクネレマシタ?」
「うん。ぐっすりでした」
良かったと笑う目の前の人にこちらも微笑まずにはいられない。他愛のない話をしながら出発までの時間を案内してもらった。
美味しいパン屋さん、有名なお土産屋さん、アンティークショップ、そして最後の空港まで。
「I have a message for you.」
人混みの端の方で呼び止められる。
「ハイ」
なんとなく気恥ずかしいような雰囲気にカタコトの返事をしてしまう。
「At first I approached you because I thought you were beautiful.
But I enjoyed talking to you.And I love you.」
アイラブユー
アイドルのライブなどでしか縁がなさそうな言葉に素早く反応できるはずもなくしばらく無言で固まる。
多分、さっき言ってくれた言葉の意味は
「最初は適当に声かけたけど話しているうちに好きになった」
ってことだよね
断ろう。
断る。
だけど、私の悪い部分が囁く。
きっと断ったら悲しい気持ちにさせてしまう。私を好きになってくれた人を、その気持ちを無下にしてしまう。
それに、
私の彼氏は私のことを好きじゃないかもしれない。
もし、私がこの告白を承諾してせんせーと別れたら彼は私のことを大切にしてくれるだろう。
でも私はそれに応えられない。同じ気持ちを返せない。
だめだなぁ。私は。どんなに悩んでもせんせーが好きなんだから。
「Thank you.But… I have a boyfriend in Japan.」
ボーイフレンドは外国では彼氏だったはず。
「イッコ、オネガイアリマス。…Hug me please.」
その泣きそうな笑顔に逆らえなかった。きっともうこの人と合うことはないだろう。
ありがとう。私を好きになってくれて。ひどく無責任だけど、幸せになってほしい。上手く伝えられないこの気持ちを伝えるために私は優しいその人を抱きしめた。
お互いに連絡は繋がなかった。未練を断つため、とかではなく日本語を学びたくて案内してくれた人とそれにあやかった人いう関係を守るとために。けれどもし、もしなにかの奇跡が起こってまたどこかで私とあったら、その時はお互いたくさん話そうと約束をした。
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「いてぇ…」
再び長時間の飛行機による体の悲鳴に耳をふさぎたい気持ちで家への電車に足を早める。
目的の線路を見つけ、そちらに向かおうとしたとき、途端に肩の悲鳴しか聞こえなくなった。
「おーいおいおいおい、他の男とラブラブしたおかげで彼氏様のお顔も忘れちゃったんですか?」
そこには私の腕をがっちりと掴んで笑みを浮かべる好きな人の顔。
「え」
「どうでしたか?彼氏ほっぽって外国で浮気してきた気分は」
「せんせー!?な…、え!?」
「ニキからいつ返ってくるか聞いたわ。なんで俺が知らなくてあいつが知っとるん。ま、いいわ。俺の車駐車場に止めてるから、お嬢さん電車じゃなくてこっちですよ〜」
「まっ…」
ほとんど誘拐のようになりながらせんせーの車に荷物とともに押し込まれあっという間に彼の家に連れて行かれる。連絡を確認すると彼とじゅうはち以外からの全員からお疲れ、がんばれ等の言葉がと来ていて、恨みより先に絶望に心が支配される。じゅうはちからは『せんせーに何かされたら言ってね』とありがたいお言葉が来ていたが、それだってされたあとでは遅いのだ。
「で」
今の構図はテーブルを挟んでお互いに向かい合っている。テーブルの距離こそあるが決して逃げることはできない。
「詳しく説明してもらいましょか」
顔こそ笑っているが声も雰囲気も黒いそれはまるで極道の組長。極道の組長と一般人のBL私の部屋にあったな、なんて自分の部屋に戻りたい気持ちをつのらせていると視線で返事を催促された。
「あ、エト…アーカイブとツイッターで見たと思うんですけど、日本語を勉強してる男の子にイタリアを案内してもらいました…」
「それで?」
「お、終わり…?」
「案内だけで終わったんか?」
本当は違うが、それを話すとさらに話がややこしくなりそうなのでそれは黙っておく。しっかり断ったし、どこにも証拠となるものは残ってないはず。
「はい!」
「はい、嘘ー。告白されたんやろ?」
言い当てられてドキリとする。なぜ知っているのか。
「っされてない!」
「嘘はいかんよ。まちこちゃん」
そのどんどん黒くなっていく笑みになんでかわからないけどバレてしまっていることを察する。けれど後にも引けない。でも前にも進めない。悩んだ結果、回れ右をすることに決めた。
「ごめんなさい、されました!」
「はい、いい子。なんて返したん?」
「日本に、付き合ってる人がいるから無理って言いました」
「それで?」
それで、ハグだけした。言うか言わぬか迷う。でもさっきはバレてしまった。ここも正直に言った方がいい。
「ハグだけしてほしいって言われたので…しました」
「…俺に連絡を返さなかったのは?」
「せんせーが私のこと彼女だと思ってないんじゃないかと思って…」
「は?」
「いじれるやつくらいにしか思ってないんじゃないかって…思ったの。それで私ばっかりせんせーのこと好きなんだって思って、なんかもっと違うこと考えたくなって、旅行でも行ってみるかってなって、みんなからいっぱい連絡きてたのにせんせーからは一通しかきてなくて、勝手に不貞腐れて、無視しちゃった」
すべてのことを吐き出し、いっぺんに言ったためしばらく息を整える。
「…」
無言のせんせーの視線が痛い。真正面から目を見られず頭を垂れていると、前から深いため息が聞こえてきてますます縮こまる。
「俺はまちこが好き。ちゃんと恋愛として。まちこは俺が特別好きでもない女の子と付き合うと思っとるの」
「思って…ないです」
「まー、しゃーないな、俺がまちこに好きだって伝えきれてなかったのが原因か」
何かを企む悪い顔。嫌な予感がする。
「じゃあ、しばらくの間俺にでろでろに甘やかされてな?俺の気が済むまで外出禁止〜」
「外出って、私の家に返してほしいんだけど…」
「いや、いつ逃げるかわからん猫を野放しにはできんなあ」
「逃げないって!それにパジャマとか、私の家にあるし!」
「困ったら通販で買うわ。最近は便利やな〜家から出えへんでも何でもできる」
「ちょっと!」
「また詳しいことは後で聞くわ。とりあえずどいつとも知らん男とハグ?したんやろ?俺はそれじゃ足りんからな」
金持ち故にでかい寝室に連れ込まれ、長時間の飛行機で痛めた体が休まることはなさそうだと察する。もう二度と一人で無断で旅行に行くのはやめようと決心したまちこりーたであった。
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「まちこりに好きってちゃんと伝えてやんなよ?」
「…何や急に」
俺がまちこが急に外国に行ってナンパされて機嫌が悪い時に突然家に来たニキの言葉だった。
「電話で話してたんだけどさ、ボビーが真面目に自分のこと好きだと思ってないらしいの。まちこり」
「いつも好きって言っとるやん」
「ボビー常にじゃん?しかも冗談ぽく。好きだっていう確証がなくて怖いんだって。それでボビーのこと大好きだから他のことして気を紛らわそうとしたっぽい」
「…どうすればいいん」
「しらね。花束でも持ってってあげたら?」
「お前なぁ…」
何だよ、俺が今まで伝えていた好意も嘘かもしれないと思いながら受け取っていたのか。
あんなに公言しているのは外堀を埋めるという意味もあったのに、肝心な本人に届いていなければ意味がない。
「まちこ帰ってくるの2日後やっけ」
「うん」
「多分あいつ時差含めずに言っとるから実質3日後か」
「え、そうなん」
「で直行便やから…」
スマホで彼女が乗ってくるであろう便を検索する。
「これか」
「何、迎えに行くの?」
「あぁ」
「まちこり多分避けると思うけど」
「逃さへんし」
ぱちくり
ニキが一度瞬きをする。
「お、おぉ」
「何やお前キモい」
「まちこりご冥福をお祈りします」
「何でだよ」
「ボビー自分の顔見てきた方がいいよ。」
「いつだってイケメンや」
「それ俺の挨拶」
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「そういえば、私が告白されたって何でわかったの?」
頭にクエスチョンマークをのせながら聞く彼女に真実を言うか一瞬迷う。
「んー、内緒」
「本当に気になるんだけど」
「まちこのことは何でもわかっちゃうからな〜例えば、今アイス食べたいって思ってるってこととか」
「え!せんせーすげー!てことで冷凍庫漁るね!」
「誰もアイス食べていいとはいってへんけど」
「そうお固いこと言いなさんな〜」
ちゃっかりハーゲンダッツを取り出す彼女においおいと反応するが嬉しそうなのでまあよしとする。
彼女のサブ垢の写真から店名や土地の場所を特定しその一つがデートスポットとして有名なことを確認して、あそこまで彼女を問いただしたことは俺の中だけに留めておく。
ニキさんがボビー自分の顔見てきた方がいいよって言ったのはせんせーがまちこりさんを絶対逃さないっていう意志の怖い顔してたからっていう設定です。
コメント
7件
好きすぎます︎💕︎ 天才すぎて尊敬です🤦♀️
うおおおおー!最高に良かったです!!これは何回も読み直したくなります!!!、
めっっちゃ面白かったです!! 嫉妬っていいですねぇ、、