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鷹槻れん

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「わぁー! おへやひろーい!! おひめさまがすむおしろみたい!!」
スイートルームへ案内されると詩音は瞳を輝かせながら部屋の中を駆け回った。
「本当に、すごいね……」
和葉もまた、普段泊まることなどない豪華な部屋を見渡しながら思わず感嘆の声を漏らす。
一通り部屋を見たところで湊が口を開いた。
「和葉、ひとまずショップへ行って必要な物を揃えよう」
「あ、うん、そうだね。詩音、行くよ」
「どこにいくの?」
「お泊まりに必要な物を買いに行くのよ」
「しおんもなにかほしい!」
無邪気にねだる詩音に和葉は苦笑する。
「そうだね。何か良いものがあったら買おうね」
詩音と出掛ける時は基本、何かあった時の為に着替えや下着は持参しているので詩音の物を買い足す必要はない。
けれど最初から、「買わない」と言ってしまえば詩音が不機嫌になるだろうと考え曖昧に答えたのだ。
ホテル内のショップには衣類や日用品が並んでいたが、どれも一般的な店より高価なものばかり。
そんな中、詩音が一着のワンピースを手に取って和葉に見せに行く。
「ママー! しおん、これほしい!」
そう言って差し出したのは、白とピンクを基調にフリルやリボンがあしらわれた可愛らしいワンピースだった。
「可愛いけど……詩音、それと似たようなの持ってるでしょ? お洋服はまた今度ね」
値札を見ると普段買う服の倍近い値段だったことで、和葉は思わず表情を強ばらせた。
何とか諦めてもらおうと優しく言い聞かせるが、
「やだ! これほしい!」
今日は珍しく詩音が一歩も引こうとしない。
きっと、スイートルームに入ったことで、可愛くてお姫様みたいな服を着たいと思ってしまったのだろう。
(可哀想だけど、ここで許しちゃうと癖になっちゃうし……流石にこんなに高い服は買えないから諦めてもらわないと)
そう心を鬼にして説得しようとした、その時だった。
「可愛いな。きっと詩音ちゃんに似合うよ」
穏やかに微笑んだ湊は詩音からワンピースを受け取ると、躊躇うことなく買い物カゴへ入れてしまった。
「えっ、湊さん!?」
それを見ていた和葉は慌てて湊の腕に手を伸ばした。
「だ、駄目だよ。そんな高いもの……」
「けど、詩音ちゃんが気に入ったんだろ?」
「そうだけど……でも、欲しいって言えば何でも買ってもらえるって思うようになっちゃうから諦めさせないと……」
和葉はここで買ってしまうと欲しがれば買ってもらえると思ってしまうかもしれない詩音を心配して、ここは我慢を覚えさせるべきだと思っていることを湊に伝えると、それを聞いた湊は納得したように頷いた。
「そうか……」
そしてしゃがみ込み詩音と目線を合わせた。
「詩音ちゃん、このワンピース、本当に欲しいのか?」
「うん! ひらひらしてて、おひめさまみたいでかわいいもん! おへやもおしろみたいだから、しおんもおひめさまになりたいの!」
迷いなく頷く詩音に湊は優しく微笑んだ。
「分かった。でも約束して欲しいことがある」
「やくそく?」
「欲しい物がある時は、『欲しいから買って』じゃなくて、ちゃんとママの話を聞くこと。それから、『今日は駄目』って言われたら我慢すること。約束出来る?」
その言葉に詩音は少し考え込んだあとで小さく、「うん」と頷いたので、
「いい返事だ」
と言いながら詩音の頭を優しく撫でる。
「今日は詩音ちゃんがお姫様になれるよう、このワンピースは俺からプレゼントするよ」
「ほんと!?」
ぱっと表情を輝かせた詩音は勢いよく湊に抱きついた。
「おにーちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」
嬉しそうに詩音を抱き締める湊を見ながら和葉は困ったように笑う。
「もう……そんなに甘やかしたら駄目だよ」
「甘やかしてるつもりはないさ。詩音ちゃんが望むことは叶えてやりたいだけだよ」
そう言って微笑む湊の表情は、まるで愛娘を見るかのように優しさで溢れていて、そんな湊にそれ以上強く反対することが出来なかった和葉は、「ありがとう」とだけ伝えたのだった。
コメント
1件
ふわっとした温かさが残るいい回でしたね。湊さんの「約束してほしいこと」の伝え方、すごく好きです。「買って」じゃなくて、ちゃんと話を聞くことと、我慢すること——子どもにルールを教える時ってつい「ダメ」で終わらせがちだけど、彼はその先の納得まで導いてる。詩音が「うん」って頷くところ、成長を感じてちょっとじんときました。和葉が「甘やかしすぎ」って言いながらも、湊の優しさに反論できなかったのも、彼女の中で何かが変わってきてる証拠ですね。この3人の距離感、じわじわ縮まってるのがいい。