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久しぶりに言うが、逆神六駆は学習する男である。
同じ過ちを2度と繰り返さない確証はないが、前回のミスをしっかりと胸に刻むことのできる男であった。
御滝ダンジョン入口にて、独り待機中の六駆くん。
現時刻は午前8時半を少し回ったところ。
本日のチーム莉子の集合予定時刻は9時。
実に30分も早い到着である。
と思われたのなら、それは誤解だ。
彼は1時間半前からここに立っている。
つまり2時間前には現着していた我らが主人公、逆神六駆。
探索課の事務所に職員がやって来るのが9時なので、施設に入れもしない。
自動販売機でコーヒーを買って、その苦みだけを友としてただ彼は愚直に待っていた。
忠犬ハチ公もかくやと思われる殊勝な態度。
精一杯の反省を示していた。
「お、おやぁ? やっぱり、逆神様じゃありませんか! どうなさったのですか、こんなお時間に!? もしかして新装備ですか!? すぐにご用意を!!」
本田林が出勤。
からの勘違いによる全力疾走。
彼の中では六駆は「やべーチームのやべーヤツ」であるのは変わらないが、今では「御滝ダンジョンの最深部攻略パーティー」の1人。
邪険にできるはずもなく、大粒の汗をかきながら彼が戻ってくるまでの時間はわずか5分にも満たなかったと言う。
お互い、学習する男たち同士。
彼らの本質は実のところ似ているのかもしれない。
「お待たせしました! こちらが、逆神様の新装備でございます!!」
「ええ……」
「御滝市探索課に一任と言うお話でしたので、マントをご用意させて頂きました! 全属性の攻撃を軽減できる代物です! 黒いマントだけでは寂しいので、デザインも加えました!」
「はい、見たら分かります。なんですか、これ」
「地域振興も兼ねようという上司からの指示でして。背中にですね。『御滝市良いところ、チーム莉子最強!』と刺繍を入れさせてもらいました」
六駆は異世界の国々で、時に恥ずかしい伝統の装備を社交辞令で身に付ける事が何度もあった。
それを耐えられたのは、知っている者が確実にいない異世界での話だったから。
割と地元の、何なら実家から4キロしか離れていない御滝ダンジョンでこんなに恥ずかしい装備をさせられるとは思わなかった六駆だが、「いや」と思い直す。
前回の攻略では、若い女の子を危険な目に遭わせてしまった。
これは、その戒めなのだ。
2度とうちの嫁入り前の娘たちを危険にさらさないための、誓いの装備。
「わぁー! 六駆くん、今日ははやーい! お待たせぇ! ぷっ! なにそのマント!! 罰ゲームみたい! あははは!」
「やあ。おはよう! 莉子! 実は刺繍も入ってるんだってさ!」
そしてマントを翻した六駆。
姿を現す『御滝市良いところ! チーム莉子最強!』と描かれた文字。
「え。ヤメてよ。なんでわたしの名前を背中に付けてるの。意味分かんない」
「奇遇だね。僕もさっきまで同じこと考えてた。だけど、もう覚悟は決まったよ!!」
「ヤメてー! そんな覚悟決めないでぇ! わたしにとっての罰ゲームだったぁ! 本田林さん! このマント、発注し直してください!! 早く、速やかに、急いで!!」
「えっ? あの、デザインに関してはサポート課の上司の仕事なのでわたくしも思うところはありますが、高級イドクロアを使い込んだ傑作ですよ!?」
総製作費を聞いて、テンションが下がった莉子。
さらに「発注し直しとなりますと、実費になりますが……」という本田林の言葉を聞いて、莉子さんの優秀な頭脳が損得勘定をはじき出した。
「……そのままでいいです」
「そうだね! 諦めよう! 僕は今日から莉子の名前を背負って戦うよ!!」
その後クララも合流して、リーダーの渋い顔の理由の説明を買って出る六駆だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでは、お二方のご申請頂いた装備も完成しております! ご確認ください!! まずは小坂様のシャドウバードの羽から作ったお召し物!」
「おおおー! 可愛いにゃー! いいじゃん、莉子ちゃん! 赤と黒の色使いとか超カッコいいし、ショートパンツのフリル、すごく女の子っぽいよ!!」
「うんうん! 莉子はよく逆さに吊るされるから、やっぱりショートパンツが良いね!」
褒められると悪い気はしない莉子さん。
テンションが回復して、ご機嫌がアップした。
「そうですかぁ!? 可愛いですか!? わたしもついに、オシャレなガールズ探索員の仲間入りしちゃいましたか!? えへへへ」
「絶対領域で女子力マックスなところとか最高! ちゃんとブーツも防具として機能してるし、さてはずっとデザイン考えてたなぁ?」
「バレちゃいましたか? えへへ、実は中学生の頃から温めていたものでしてー」
「うん! すごく良いね! 赤と言えばリコピンの色! まさに莉子のパーソナルカラー! よっ、このトマト娘!!」
「なんでだろ。六駆くんの褒め言葉はそんなに嬉しくないなぁ」
とりあえず、莉子の新装備は特に問題もなく受け渡し完了。
続いて、クララの発注しておいた弓である。
「椎名様の弓は、このように仕上がっております」
「おおおー! これは良いねー! 軽いし、見た目もカッコいいし! いいにゃー!!」
クララの弓は実際に矢をつがえるものではなく、アームガードのシステムを弓の形に変えたもののため、非常に軽量で持ち運びやすい。
さらに、これまでは弓スキルを使う度に具現化、さらにスキルと源石を2つ消費していた無駄を解消。
六駆の進言で、源石を5つまではめ込めるようにしてある。
これで戦闘の度に相手に合わせた属性の源石を毎回入れ替える手間が省ける。
「いやぁ! お三方とも、よくお似合いで!! これはもう、鬼に金棒でございますねぇ!!」
「クララ先輩のスカートが黄色で、わたしの新装備が赤なので、今度からは鮮やかになりますね! 今までのは灰色で可愛くなかったもん!」
「だねー! これでチーム莉子の花がより可憐になったにゃー!! ところでさ」
「ヤメてください! もう目を逸らすことに決めたんです!!」
「えー。でもさ、六駆くんの背中の刺繍、これもシャドウバードの羽っぽいから、君たち2人はお揃いだよ?」
「そうなんだ! やったね、莉子! ペアルック!!」
「もぉ! 同じ材質ならこっちに寄せてよぉ! なんで我が道を行くの!? 全然ペアじゃないもん! わたしの名前がおじさんの背中でキラキラしてる! ヤダよぉ!!」
莉子は自分の師匠の背中で自己主張する自分の名前を未だに直視できずにいたが、もはやこれも決定事項なので、抗うだけ無駄なのである。
新装備に着替えたら、彼女の気持ちも少しは落ち着いた。
新鮮な気持ちのまま、彼らは再びダンジョンへ。
なお、六駆の背中に宿る「莉子」の文字が、彼女の名前とパーティーの凶悪なまでの強さを探索員業界に轟かせることになるのだが、それはもう少し未来のお話。