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|理世《りせ》が譲ってもらったという家は、ところどころに昔の名残がが残っていた。
理世と|悠世《ゆうせい》さんの幼い頃の写真はもちろんのこと、代々の麻王の人々の写真や誰かが趣味で描いた絵など。
――ここは、麻王の家の誰かが使っていたアトリエだったのかも。
たまたま高級住宅地になっただけで、昔は違っていたはずだ。
そんなことを思いながら、一人、アトリエに私はいた。
夕食後、理世は何件か、仕事の連絡をしているのが聞こえてきた。
本当は仕事だったのに、私の引っ越しのせいで予定が狂ったせいだ。
「邪魔にならないよう気をつけなきゃ……」
理世はきにするなって言っても、私は気にする。
それに、『|Fill《フィル》』のこともある。
今日のお昼過ぎに、コーヒーを淹れて持っていくと、理世は私たちが描いたデザイン画を真剣に眺めていた。
――理世は本気で『|Fill《フィル》』を『|Lorelei《ローレライ》』と並ぶブランドにしようとしている。
その真剣な顔を見て、そっと書斎のドアを閉め、私は静かにデザイン画を描く。
オレンジ色の灯りに照らされた夜の庭を眺めながら、クロッキーと鉛筆を手にして、理世とリセを思い浮かべる。
――どちらも私にとって、最高の存在。
気がつけば、浮かんだデザインを延々と描き続けていた。
「|琉永《るな》。電気もつけないで描いていたのか」
集中しすぎて、部屋を明るくするのを忘れていたらしく、理世はアトリエに入るのと同時に、壁を照らすオレンジ色の照明をつけた。
優しいオレンジ色の灯りが、理世の姿を映し出す。
「理世、ありがとう」
「いいけど、頑張りすぎだ」
「頑張ってるのは理世のほう。私は理世と並びたくて頑張ってる」
理世が座るためのクッションを私の隣に置いた。
それを見て、理世は微笑む。
「……そうか。言われるまで気づかなかったな。これが俺の日常で、自分では頑張っている意識はなかった」
理世はトレイにふたつカップをのせ、そのうちのひとつを私に差し出した。
触れたカップは温かく、夜の闇に白い湯気がふわりと漂う。
シナモンスティックが添えられたホットミルクには、ラム酒が入っていた。
シナモンの香りに混じる微かなラム酒の香りが、私の眠気を誘う。
窓の外には月がかかっていたけれど、パリの夜に見た月より、満月に近い月。
――月の満ち欠けするだけの時間なのに、
同じことを考えていたのか、理世は窓の外から、私へ視線を移す。
「琉永のデザイン画を見た。贔屓目なしで、とてもよかった」
「本当!?」
「ああ。男女兼用のデザインというのもいい。ジェンダーレスな服はこれから求められると思う」
「そうなの! 『|Fill《フィル》』のブランドにも合うし、前から作りたいと思っていて。漠然としていたイメージが、モデルのリセを見たらイメージがどんどん膨らんできて、やっと描けたの」
前々から、雑誌でリセを見ていて、考えていたことが、パリでの出会いで、私の頭の中にあったイメージが形になった。
「俺か」
「そう。すごく素敵だった。ランウェイを堂々と歩いていて、すごくかっこいい女性だなって思ったの」
「女性ね」
理世は苦笑したけど、私は心から褒めている。
「服の飾りは取り外しできるようにして、メンズとレディース、どちらにも置けたらいいなって」
「そうだな。これからの『|Fill《フィル》』は、その路線でいくといいかもな。『|Fill《フィル》』のデザイナーはシンプルなデザインを好む人間が多い。ブランドイメージにも合う」
真剣な顔をして、理世は言った。
「まあ、仕事の話は終わりだ」
「え? 終わり?」
「同居初日から仕事の話ばかりじゃね」
「私はまだデザインの話を語り続けたかったのに」
「それは、明日聞くよ。仕事の時間に」
理世がカップに口をつけ、私も冷めないうちに、一口飲む。
ラムとシナモンの香りがするホットミルクは甘くて美味しい。
「これ、なんていう飲み物なの?」
「ホット・バタード・ラム・カウっていう飲み物。初めてだった?」
「初めて飲んだホットミルクだけど、美味しいなって思ったから」
「ホットアルコールだ。琉永はアルコールを飲みすぎるなよ。パリでも俺より飲んでいたし、あれが俺じゃなかったら、どうなってたかわからないぞ」
私はパリでの事件を思い出して、恥ずかしくなった。
「あっ、あれは忘れて!」
「死ぬまで忘れない」
「死ぬまで!?」
今思うと、あんな大胆なことがよくできたものだ。
あの時だからこそ、どうなってもいいと思えたのかもしれない。
脳裏によぎるのは、恐ろしく美しい理世の顔、指――唇。
「なにを思い出してるんだよ」
「えっ、えーと、パリの風景よ! 風景!」
「ふーん」
わかってるくせに、理世は意地悪く笑う。
理世は笑うと、私の目の前に小さな箱を取り出して見せた。
「チョコレート?」
「色気より食い気だな。琉永に渡したら、食べられるかもしれないから、俺が開けよう」
「チョコレートじゃないの?」
理世が箱を空けると、さらに小さなケースがでてきた。
――これって。
笑顔の理世を見つめて、私は胸が一杯になり、なにも言えなくなった。
そのケースがなんなのか、説明されなくてもわかる。
「琉永。手を」
理世は騎士のように、うやうやしい態度で、私の左手に触れる。
そして、私の目をまっすぐ見つめ返す。
「幸せにする。そして、琉永の将来を守ることを誓う」
「私の将来?」
「有名なデザイナーになるんだろ?」
「私、専務夫人にならなくてもいいの!?」
理世が触れてないほうの手を伸ばし、私の頬に触れた。
「俺が好きになったのはデザイナーの琉永だ」
その言葉を聞いて、私は夢を諦めなくていいんだとわかった。
ホテルのロビーで、ぶつかった時もそうだった。
私の作ったワンピースを褒め、絶対に否定しなかった。
――もしかして、それより前から私を認めてくれていたの?
パリでも偶然じゃなくて、私を見つけてそばにいたのだ。
理世は私の手の自分の手を重ね、指を絡める。
「琉永も俺に誓いの言葉を」
理世が欲しい言葉がなんなのか、私はわかっていた。
そして、それは私が言いたい言葉。
「理世が好き。会ったときからずっと――」
「俺もだ」
『これからも』という言葉を待てずに、理世は私の唇にキスを落とす。
目を開け、理世の顔を見ると、その背後には月が見えた。
パリで会った時は、細い月だったのに今は満月に近い月が、空に浮かんでいる。
――月と同じ。私の理世への気持ちが、満ちていく。
私と理世の誓い。
それはまるで、神聖な儀式のようで、月に照らされた静かな世界に二人きり。
結婚指輪をはめた私達は、もう一度キスをした。
――誓いのキスよりも深いキスを。
甘いキスはラムとシナモンの香りがした。
「キスが甘い」
同じことを考えていた理世は、唇を離し、目を細めて微笑む。
月あかりに見える理世の美しい顔は、まるで人ではないみたいに見えて、どこかへ行ってしまわないよう体を抱きしめた。
「|琉永《るな》。焦らなくても大丈夫」
「え……こ、これはそういうのじゃ……」
顔を見ると、悪戯っぽく笑っていて、さっきとまるで違う。
自分が理世にからかわれたのだと、わかった。
――前言撤回。やっぱり理世は人間だ。
私に向ける顔はちゃんと人間としての感情があふれてる。
「琉永」
人間である証拠に、私の体に触れる理世の手から、体温を感じる。
さっき飲んだアルコールのせいか、体が熱くて、床の冷たさが心地いい。
パリの時と同じ暗闇にいるのに、あの時は違う鼓動の速さ。
それは、今日、私が――
「ぜんぶ、俺のものにしていいか?」
――理世のものになるから。
「うん」
髪から、指から、足のつま先まで、理世は私にキスを落とす。
全部、自分のものだと主張して。
唇が首筋をなぞり、ちりっとした痛みと同時に、赤い痕を残す。
理世の肩から、素肌がこぼれ、滑らかな肌に指を滑らせた。
「琉永の肌は綺麗だな」
「理世のほうが……っ!」
胸に唇が触れ、下着を指で引っ掛け、するりと脱がす。
肌が夜の空気に晒されて、熱い指が、赤い痕をなぞる。
私の体を支配していく理世の熱い吐息ひとつに、体が反応し、こそばゆく感じる。
理世がどんな顔をして、私に触れているのか、その顔を見たら――見てはいけなかった。
――怖いくらいに綺麗。
理世を見たら、さっきより体が敏感になり、指で触れられるだけで熱が増す。
「心臓の音、早い」
「だ、だって……理世が色っぽいし……」
「俺のせいか。なら、しょうがないか」
くすりと笑って唇を重ね、唇を割って舌を差し込んだ。
激しいキスに体を悶えさせると、理世はさらに舌を口内をゆっくりと舐めた。
「ん……ふっ……」
パリの夜とは違う。
私に理世を欲しいと言わせるための本気の愛撫。
――こんなの耐えられない。
指は肌をなぞり、敏感な場所のギリギリで止まり、ゆっくりと動いて焦らす。
もどかしさに泣きたくなる。
唇を解放された私の体は、力が入らず、息が乱れて理世に翻弄され続ける。
「り、せ……。そこ、だめ……」
「そこって?」
わかってるくせに、わざと理世は私に聞く。
下着越しから指が、花弁を潰し、往復するたびに淡い快楽が、じりじりと私を追い詰めて涙がこぼれた。
声をこらえているのが、いけないのか、私の唇を理世が舐めた。
「琉永。我慢せずに、お願いしていいんだよ?」
優しい理世の声が、甘く脳に響く。
「お願いって……んっ、ああっ……」
指を深く埋められて、体がのけぞった。
油断していたからか、室内に自分の甘い声が、大きく鳴った。
その声を恥ずかしいと思ったのは、一瞬だけで、指が蕩けた中から、淫靡な水音を繰り返し、私に聴かせた。
「や……あ……。恥ずかしい……」
顔を隠そうとした手をつかまれ、軽く額にキスをされる。
「恥ずかしいことじゃない」
「だ、だって……り、理世が普通でいるのにっ……」
「普通?」
つかんだ手を自分の胸に触れさせた。
理世の心臓の音が速い。
「冷静だと思ってた? 琉永は初めてだから、ひどくしたくない。最初が嫌だと、次は俺に抱かれたくなくなるかもしれない」
「そんなことなっ……あっ、んんっ……」
指が中をひろげ、二本に増やされ、圧迫感が増す。
こわばった体に、理世がキスを落とした。
「話せる余裕があるうちは駄目だな」
「そ、そんな……あっ、やっ、両方はっ……おかしくなるからっ」
中を蠢く指と前の感じる部分を同時に触れられ、頭が真っ白になりそうだった。
もっと気持ちよくなりたいと思う体が、理世の指の感触を追う。
「あ……あっ……」
シャツを握りしめて、快楽に耐えていたはずが、いつの間にか指の動きに合わせて体が揺れた。
目尻からこぼれた涙を理世が唇ですくいあげる。
「大丈夫か? 琉永? 一度、いこうか?」
「あ……んんっ」
下腹部をもてあそぶ指だけで終わらず、唇を塞ぎ、舌を絡め、中を蹂躙する。
どの快楽を追えばいいかわからなくて、限界がやってくる。
「んっ――!」
口が理世の唇で塞がれ、私のくぐもった声が響く。
荒く呼吸する私の耳を、理世がゆっくり舐めて、ささやいた。
「指、抜けないくらいきつい」
「あ……ご、めんなさ……」
ぐっと指が中で曲げられた瞬間、達したばかりの体が跳ねた。
「あっ、またっ……」
楽になれると思っていた私は、次の熱に浮かされて、理世の肩をつかんだ。
中の指が増やされ、苦しいはずなのに、体はすんなりそれを受け入れていた。
もっと欲しい――それがわかるのか、理世は浴びせるようなキスを体に降らせて、激しく指を動かした。
「あっ……やぁっ……んっ……」
唇を噛みしめていないと、淫らな声がとめどなくこぼれ、理性が吹き飛びそうになってしまう。
指をひっかくように、中をかき混ぜられ、泣き声に近い声をあげた。
「ひっ……あっ……あぁ……」
感じすぎて涙がこぼれ、はしたなく喘ぐ私の唇に舌を這わせた。
「や、い、いま、キスされたらっ……んっ……ふぁ」
それも狂わせるような深いキス。
舌をからめとられ、刺激するように吸われて目の前が真っ白になった。
「んっ、んんっ――!」
「二度目。そろそろ俺も限界」
痺れた体に理世が口づけ、熱い吐息が胸にかかる。
胸の突起を含まれ、下腹部に新しい熱が集まっていく。
「あ、ぅ……」
唇が下腹部へ降りていき、なにをするのだろうとぼうっとしていると、足を抱えられ、大きく両側に脚を広げられた。
「やっ……それっ……」
自分でも見たことのない場所を見られ、舐められる。
こんな恥ずかしいことには耐えられない。
そう思っているのにぬめりを帯びた舌が蜜壁に触れるたび、甘い声をあげて悦んでしまう。
「ひあっ……あぁっ……あ……」
ぴちゃぴちゃと淫猥な音にすら感じて、羞恥心はあっという間に消えた。
「り、せ、これっ……だめっ……!」
声をこらえようとしても加えられる舌の刺激に口を閉じれず、甘い声をあげつづけていた。
それを楽しむように理世は舌だけじゃなく、指で丸い粒を転がし、痛いくらいの快楽を与えてくる。
「ひゃっ……あっ……そ、れ……やぁ!」
転がされるたび、体が反応し、何度も腰が浮き沈みを繰り返した。
舌と同時になぶられる嵐のように押しよせる甘い快楽に体が紅潮し、汗がにじんだ。
理世は私の声が泣き声に近くなるまでそれをやめず、口に粒を含み、歯を立てた。
「ああっ――!」
三度目に達した時、あまりに感じすぎて、意識が吹き飛びかけ、ぐらりと世界が揺れた。
それに理世が気づき、指を止めてくれた。
理世が深い口づけで、体の熱を呼び戻す。
「も、おねがっ……こんなのっ……」
「泣くな」
子供のように泣き出した私の額にキスをすると、熱く硬いものが、濡れきった蜜口に添えられた。
肌が粟立ち、触れただけで体が歓喜するのがわかった。
「あ……ん……」
「もうたまらないって顔をしてるな」
そう言われて理世の顔を見たけど、理世だって熱っぽい目をしている。
それが余計に私を煽る。
押しひろげ、中に入ってくる感触がわかる。
理世の熱く硬い感触を感じて、体を震わせた。
「あ……」
胎内に満たされていく。
すでにどろどろに溶かされていた中を堪能するように理世はゆっくりと腰を動かした。
浅い繋がりは苦しく、その体にねだるようにしがみついた。
「欲しい?」
「ん……」
一生懸命、首を縦に振ると、理世が嬉しそうに笑った気がした。
「わかった」
理世は奥までいれてくれるのかと思ったら、そばのカップを手に取り、口に含んで私の口にいれた。
「んっ!?」
口の中に甘い液体が広がり、それを嚥下するとまた飲ませる。
「は……あ、な、にして……」
「酔わせてる。そのほうが琉永は積極的になるからな」
「もっ、無理……なのにっ……んっ……あっ」
ぐっと腰を引き寄せられて、深くつながる。
その衝撃に呼吸が乱れ、開いた口の端からこぼれた液体を理世の舌がなめとった。
「や、あ……」
「もう熱くてどろどろだ」
つながった部分から、とめどなく蜜がこぼれ、動くたびにぐちゅぐちゅと音がした。
腹の中をかき混ぜられる感覚がたまらず、無意識に腰を揺らすと理世が苦しげな表情を浮かべる。
理世はこらえ、顔をしかめたのがわかった。
「仕返しか」
「は、やく。理世……お願……い」
「琉永。最高に可愛すぎる」
熱っぽい目で理世は私を見下ろし、キスをすると奥まで一気に貫いた。
「……っ! あっ、んんっ」
なにも考えられないくらいの衝撃だった。
「動くぞ?」
「ま、待って、まだっ……おかしくな……」
おかしくなる――そう言おうとしたのに理世は容赦なく体を叩きつけた。
「ああっ!」
一番深いところを突かれた瞬間、目の前がチカチカと点滅し、また達したことに気づいた。
「ひっ……あ、ああっ、あ……」
すでに感じすぎるくらい感じさせられていた私の体は、その激しい動きに何度も達して、意識が落ちそうになるのをなんとかこらえていた。
「琉永、俺にキスをして?
「あ……」
もうなにも考えられず、言われた通りに理世を見て、深くキスをする。
私からのキスはたどたどしく、理世が舌を絡め引きずり出す。
これ以上、繋がれないというくらい私と繋がって、理世は私を求める。
――理世に酔う。
あなたは甘く私を酔わせる。
何度でも。