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ロシアは、ただ歩いていただけだった。

いつもと変わらぬ都市の風景。

アスファルトに響く足音は、無駄に長い脚が生み出す軽やかなリズム。

スーツの上着を脱ぎ、シャツの上からハーネスベルトが露わになった姿に、何人かの通行人が思わず振り返る。

(……視線が鬱陶しいな)

だが、彼は慣れていた。

目立ってしまうことに。圧倒的なスタイルに、冷ややかな目つき。

そのせいで誰にも近づかれず、誰にも近づかない。

この世界で、自分はただの“国”であればいい。そう思っていた。

その時だった。

背後に、人の気配。

──遅すぎた。

「ッ……!?」

乾いた布が、口元に押し当てられる。

「……っ!!ん……!」

鼻腔に、甘ったるい化学の香り。

視界がにじみ、脚がぐらつく。

(……麻酔、いや……これは……)

耳元で、小さく息を吹きかけられる。

「罪な足だね、ロシアくん。あんまり無防備に歩かない方がいいよ」

男の声。低く、舌を巻くような、どこか馴れ馴れしい発音。

(誰……? この声……どこかで……)

しかし、視界はもう暗く染まっていく。

最後に見たのは、白い手袋と、月明かりに光る金色のボタン。


──次に目を覚ました時、

ロシアは、暗い部屋のベッドの上

スパイに狙われたロシア

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