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「……最近、あいつ、よく笑うようになったよな」
初兎。
気づけば、いつも誰かと喋ってる。いや、正確には“りうら”と、だ。
肩に触れられても、嫌そうじゃない。
名前を呼ばれても、すぐに笑って返す。
俺の横にいる時より、ずっと楽しそうで――
なんでか、それが喉に引っかかって、言葉にならなかった。
「……俺のこと、避けてんのか?」
たぶん、違う。避けてるんじゃなくて、諦めてんだ。
あいつ、ずっと俺のこと好きだった。気づいてた。
だけど俺は、“それっぽい態度”を取りながら、逃げてきた。
向き合うのが、怖かった。壊れるのが、嫌だった。
今の関係を守るって、自分に言い訳して。
でも、りうらは違った。
あいつは迷わない。
初兎を好きだって何度も言うし、普通にキスするし、遠慮なんか一個もない。
そして、初兎もそれを――
「……まじかよ」
たまたま見てしまった、あの距離。
りうらが初兎の髪に触れて、耳元で何かを囁いてた。
初兎は顔を真っ赤にしながらも、拒否してなかった。
むしろ、少しだけ――期待してるような、そんな目をしてた。
その夜、初兎を呼び出した。
用もないのに。
でも、もう黙ってられなかった。
「お前、りうらのこと……好きなの?」
「……どうだろ。好きになりかけてた、かも」
「そっか……」
言葉が苦かった。
でも、続けた。
「けど、やっぱり俺、お前じゃなきゃ嫌だ」
「……まろちゃん?」
「初兎。俺、お前のこと好き。ずっと前から。……気づいてたけど、怖くて、言えなかった」
「……」
「でも今、ちゃんと欲しいって思ってる。……他の誰かに奪われるくらいなら、壊れてもいいから、手放したくない」
初兎の目が見開かれたあと、ゆっくり細くなる。
「……遅いよ、ばか」
「うん。ばかだった。……だから今、取り戻させて」
震える手を伸ばして、初兎の手を握る。
「俺と、付き合って」
ほんの数秒の沈黙のあと――初兎が、そっと笑った。
「……うん。僕も、まろちゃんじゃなきゃダメだった」
その言葉に、ようやく胸の奥がほどける。
俺は初兎の手を引いて、そっと抱きしめた。
「もう絶対離さねぇから」
耳元で囁くと、初兎は少し照れた顔で「うん」って言った。
その背中越しに、遠くで立ち止まる人影があったことに――
俺たちは、気づいていなかった。