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第1章:教室の壁
朝のチャイムが鳴る直前、しずくはそっと教室のドアを開けた。
すでに席についているクラスメイト達が、ちらりと視線を向ける。
けれど誰も何も言わない。
「………おはよう」
小さな声でつぶやく。
返事は、ない。
彼女の机は、いつも一番後ろの窓側。
けれど、今日そこに座れなかった。
机の上には、赤いペンでぐちゃぐちゃに書かれた文字。
「しね」
「きもい」
「こっちくんな」
___まただ。
今日も、教科書が破かれていた。
心臓が痛い。声も出ない。涙も、もう出ない。
■彼女の世界
しずくには、親しい友達はいない。
家では、心配をかけたくなくて、いつも「大丈夫」と笑っていた。
放課後、だれよりも早く校門を出る。
目立たないように、声をかけられないように。
でも、心のどこかで思っていた。
(誰か、気づいて。助けて)
けれど、教室の壁は厚く、高く、誰の声も届かない場所のようだった。
コメント
1件
誤字ってないといいけどなぁ~!w