テラーノベル
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「……勝手にしろよ。もう、お前のことなんて知らねー」
陸はそう言い捨てると、一度も振り返らずに一人で駅の方へと走り去った。あんなに余裕のなかった陸を見るのは、みんな初めてだった。
「……っ」
優は砂を蹴り、逆の方向へ歩き出す。一歩踏み出すごとに、顔が苦痛に歪む。
「優くん、待って! まだ足が……」
泉が追いかけようとするが、優は鋭い視線でそれを拒絶した。
「……来るな。お前の顔、今は見たくねーんだよ」
その言葉が、泉の胸に深く突き刺さる。
「秘密にしよう」と言ったのは自分なのに。二人のためだと思っていたことが、結局は二人を傷つけてしまった。
瞬と紗良も、かける言葉が見つからないまま立ち尽くしていた。
「……帰ろう。今日は、これ以上無理だよ」
紗良が泉の肩を優しく叩く。
帰り道の電車の中。五人はバラバラに座り、一言も交わさなかった。泉は窓の外を流れる暗い景色を見つめながら、自分の無力さに涙がこぼれそうになるのを必死で耐えていた。
家に帰り、自室のベッドに倒れ込んだ時だった。
机の上で震えるスマホ。画面には「くるみ先輩」の文字。
「……はい、もしもし」
『泉ちゃん? ……何かあった? 声が元気ないけど』
くるみ先輩の、穏やかで全てを見透かしているような声を聞いた瞬間、泉の我慢は限界を迎えた。今日あったこと、陸と優が喧嘩したこと、自分が余計なことをしてしまったこと。溢れ出すように言葉を紡いだ。
「私のせいで……二人が……。私、マネージャー失格です……」
『……泉ちゃん。よく聞いて』
くるみ先輩の声は、厳しく、けれど温かかった。
『陸くんが怒ったのは、足の怪我のせいじゃないわ。……自分が信じられていないと感じたこと、そして、あなたが優くんの「痛みの理解者」になっていたことが、彼には耐えられなかったのよ』
「え……?」
『陸くんはね、太陽でいなきゃいけないと思ってる。でも太陽は、月が影で支え合っているのを見ると、孤独を感じることもあるの。……明日、部室に来なさい。三人で、話し合いましょう』
電話が切れた後、泉は暗い部屋で、先輩の言葉を反芻した。
「痛みの理解者」。
それは、陸が持っている「余裕」とは正反対にあるもの。
その夜、泉は、くるみ先輩から教わった「あるもの」を準備し始めた。
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