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「命……。」
「如月さんが寂しそうにしてたから……出てきてあげただけ。ねえ、聞いてもいい…?私がいなきゃ、そんなに寂しい……?私はずっと1人でいることって普通のことだと思ってた。親がいないことも、家が無いことも全部当たり前のことで、仕方のないこと。だから……如月さんが私を買った理由も、あんな馬鹿げたオークションに参加する気持ちも分からなかった。だけど……それって忘れていただけなんだって分かった気がする。不安でいっぱいになってうずくまる如月さんを見て、私は今まで自分には悲しいなんて気持ちがないと思ってた。ずっと気づかないふりをして閉じ込めてたんだって。私は如月さんといて嬉しい……っていう気持ちになるのかは分からないけど、誰かが傍にいてくれるのは胸が温かくなる。だから……如月さんが私にもそういう気持ちを求めてるんだったら戻ってあげても……いいよ。ずっとこの家にいてあげてもいいよ。」
自分の気持ちとか感覚なんて分からないことだらけ。気づいたって何か起こるわけじゃない。だけど、目の前で誰かが不幸になったり、寂しい気持ちになったりするのを見るのは嫌。
それはきっと自分と同じ目に遭ってほしくないから。
「……誰が寂しいなんて言った?お前は僕が買ったんだから僕の傍にいるのは当たり前だろ。」
「え……!?」
「それに敬語のこともすっかり忘れているようだな。僕に命令をするな。」
「な、なによ!せっかく人が心配してるのにそんな言い方……。」
「こうなったらお仕置きも本格的に考えないとな。恥ずかしいことでもさせるか……。」
「あ、ありがとうぐらい言ってよ!」
「僕は玩具に礼を言う気はない。僕に意見するなんて許さないからな。だけど……今夜の夕食は、お前の好きなものをだしてやらなくも……ない。」
そう言って私の手をとる如月さん。とても力強く温かい。如月さんは口はとっても悪いけど、きっとこれがこの人のほんの少しの優しさ。
「それより咲月が先だな。」
「それって処分ってこと?」
「敬語。」
「……ですか……?」
「処分なんて大それたことはしない。あれでもうちで1番有能な執事だからな。」
そういえば2人ってどういう関係なんだろう……。咲月さんは如月さんのことを大切に思っていて、如月さんも咲月さんのことを大切に思ってる。
「如月さんは……咲月さんのこと…好きですか…?私は…苦手です……。」
「好きっていうか、あいつとは幼馴染みたいなものだ。昔は咲月の家によく招待してもらった。」
仲が良かったんだ。だけど……今は何かが違う気がする。幼馴染ってよく分からないけど、主と執事とは違うことだと思う。
「如月さん、咲月さんって何かあったですか…?如月さんと仲が良かったなら、何で執事なんてやっているですか…?」
「それが……契約だからだ。」
それから如月さんは何も言わなくなった。咲月さんの過去に何かがあったことは分かったけど、それ以上私が踏み込んではいけない気がした。
誰にでも秘密はある。それを勝手に調べるなんて、言いふらすなんて如月さんはきっと許さない。
「……おかえりなさいませ、且功様。それと、命様。」
「咲月、お前の態度に関して文句は言わないが命には謝れ。お前の言葉で命は傷ついた。」
「……申し訳…ありませんでした…。」
「命、何を食べたい?」
「食べたいもの……。」
そもそもこの家にくるまで食事なんて簡単にとれるものじゃなかった。選べるものじゃなかった。食べ物にありつければ幸せで、なければ諦めて寝るだけ。
「どうした?好きなものでもいい、食べてみたいものでもいい。言ってみろ。」
「い、いらない……。」
「は……?」
「食べ物って、当たり前に食べられるものじゃないんだよ。お金と一緒でとても大切なものなの。自分の好き勝手で選んでいいものじゃないし、いきなりそんなこと言われても怖い……。」
「それもお前の貧乏言葉か?」
「貧乏言葉ってなによ!」
「お前がいうことは面白いから記録に残すことにした。残念ながら僕には理解できない言葉だから、貧乏言葉と呼んでいる。」
さっき、如月さんのことを信じた自分が馬鹿みたいに思えてきた。この人はどこか寂しそうで寄り添ってあげたいなんて、思ったけど、結局人のことを見下してて偉そうなことしか言えない人なんだ。
「咲月さんも嫌いだけど、如月さんはもっと嫌い!もう部屋に戻る!」
「おい、待て……。」