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「むぎ、…」
今日は久しぶりにバンド練習。みんなが揃うまで適当にチューニングやら自主練やらをしてメンバーが揃ったら既存の曲を何となく合わせる。やばい、今日は調子が悪い。俺、しずえに悪いことしたかな……。ドラムのいっちゃんこといつきが心配したのか声をかけてくれる。
「どうした? 体調悪い?」
「だいじょーぶだ! ちょっとしずえと喧嘩したかもしんねえ。」
ドラムとベースは音楽の土台となるリズムを奏でなくちゃいけないので息を合わせる必要がある。だから俺の変化にはすぐに気づくし、しかもドラムは誰かが走ってないか見張っているからすぐにわかる。その上兄貴ポジションだからメンバーの不調を見つけてしまえば声をかけずにはいられない。俺だって、一応やんちゃ坊主共の兄貴だから空気を読んだりお世話したりするのは得意だと得ている。俺だって兄貴だから。
「ほんとに大丈夫か? 顔色悪いぞ?」
いっちゃんは心配そうに俺の表情を伺ってくる。脳味噌まで筋肉で侵されてそうな逞しいからだからは考えられないような気遣い上手。見惚れちゃうね。
「体調悪いならやめとこーよ。無理して練習する意味…わりい。」
ギター担当、葵。お前は負けず嫌いで余計なことまで言う末っ子気質だ。だからこそ長男気質のリズム隊には気がつけないことに気づいてくれる。バンド結成数年目で基礎がしっかりしてきた俺たちにとって重宝できる存在だったが、今となってはめんどくさがり屋でアドバイスも言わないからその才能を活かせずにただの一言多いマンになってしまっている。
「葵くんの言うことは無視しといて、ほんとに体調悪いなら、少し休みましょう。むぎちゃんはゆっくりしててください。」
サブギター、柚ちゃん。ほわほわした雰囲気のくせして、割と腹黒だしギター歴長いし。真ん中っ子だから状況の把握、仲介役が上手い。空気を読んでもはや空気になるところが少々悪いところではあるけど… たぶん、俺たちは個人だと売れると思うんだ。相性も、多分いい。でもみんなの性格が手伝って、どこかで一線を引いている。これ以上踏み込んではいけない。見えない壁がそこにあるから、これ以上音楽は良くならない。俺もこれ以上踏み込めずにいるから俺が言えた話でもないんだが。とりあえず、今はどうにもできないのか。もうやれることはないか。このまま、自然に関わりがなくなっていって、…… 嫌だ。楽しかったライブが、忘れられない。だからしずえも、不満なんだ。