コメント
2件
最高です ニキ右大好きです ニキ弱りながらもツンツンしてんの解釈一致すぎて好きです
全身がじりじりと燃やされているような暑さで目が覚めた。どうやら辺りはまだ暗い。
やけに重い頭をやっとの思いで少しだけ起こして、身体の傍に置いてあるはずのスマホの在処を探す。
寝起きのせいか、スマホを握る手に上手く力が入らなくて、一度スマホを落としかける。
やっとの思いでスマホをぎゅっと握りしめ て見ると、ホーム画面に表示されたのは、3:50の文字と、一件のLINE通知。
ぼーっとする頭でFaceIDを通してLINEの画面を開く。りぃちょからだった。
「大丈夫そ?」
主語も修飾語も何もかもが省かれた、酷く簡素なメッセージに、一瞬、何の事だ?という疑問が浮かび上がった。
が、すぐに思い出した。昨日は少し体調が芳しくなくて、それを理由に自チャンネルのshorts撮影を一本分リスケにしたのだった。
俺は普段そんな事は滅多にしないし、なんなら38度くらいまでなら配信もしちゃうような奴だから、りぃちょも心配になったのだろう。
は、と我に返った。そういえば先程から妙に怠い感じがする。
体温計を取りに行こうと思って、よいしょ、と立ちあがった瞬間、ずきんという鋭い頭痛と、強力な立ちくらみが万年運動不足の身体を襲って、その場にペタンと座り込んでしまった。
脱力感に包まれて、再度起き上がろうと試みる気すら起きない。
自分の病態が歩けない程であるとは自覚してなかったので、少しばかりの焦燥感に駆られる。
このままではまずいと思い、スマホを取りだして、「大丈夫じゃないかも。ヘルプ」と返信した。
3秒も経たないうちに既読がついて、「まじ?家行くからちょっとまってて」と返信が来た。
どれくらいの時間が経っただろうか、朧気な意識の中で、入るよーという声が聞こえた。
その酷く優しい声色に心底安堵して、危うく意識を手放しそうになる。
「えっ、ニキニキ大丈夫!?」
「……だから、大丈夫じゃないんだって…」
普段なら、目をまん丸にして驚くコイツを威勢よく煽るのだが、今回はそれも叶わず。
悔しいが、今はただ、コイツに甘えて助けてもらうことしか出来なかった。
「ほらこれ、ポカリ。飲めそう?」
眉を緩やかな八の字に傾けた表情で、倒れ込む俺に目線を合わせて言う彼がいつもより何十倍も大人に見えた。
対して俺は、赤子のように、こくり、とうなずく事が精一杯。
そんな俺に向かって、「可愛いじゃん」と馬鹿にしたような笑みを浮かべる彼に、なんだか負けてしまったような気持ちになって、悔しく悲しかった。
ペットボトルの蓋が開かず、結局バカガキに開けてもらう。
感謝してよね、と言わんばかりのその表情に一発ビンタを食らわせてやりたい気持ちになるが、ありがと、というのが精一杯だった。
「うわ、素直だ、ずっと体調崩してたらいいんじゃない?そっちのがずっと可愛いよ」
またバカにされた。自分よりバカだと思っている存在にこのような扱いをされる屈辱に何ともいたたまれない気持ちになって、唇を尖らせてみせた。
「なになに、可愛子ぶってんの?あらニキくん可愛いね〜」
さっきから可愛い可愛いと繰り返し言われることにも心底腹が立つ。
少しでも抵抗したくて、声を出そうとしたが、咳き込んでしまった。
そんな俺の背中をさすって、咳も可愛いねーなどとほざく。
これじゃあまるで完敗だ。
悔しくて、しんどくて、辛くて、優しくて、嬉しくて。
ぐっちゃぐちゃの感情に耐えきれなくて、水滴が一粒、頬を伝って零れた。
それを皮切りに段々と視界が滲み、口元がしょっぱさを感じる。
それが悔しくて、それをコイツに見せてしまった事がまた悔しくて悔しくて、堪らない。
止めたいという意思に反して溢れ出るそれを拭いながら、嗚咽をもらす。
弱っているからか、産まれたての赤子をも凌駕するほどの嗚咽と水滴。
段々と呼吸もままならなくなって、意識さえ遠のく。
その姿に、今まで泣いちゃって可愛いね〜などと言いながら俺を抱き抱えていたソイツも、さすがに心配の声を漏らした。
「起きた?」
目を開けると同時に、そう声をかけられた。
どうやら、あの後泣き疲れて寝てしまったようだ。
はぁ、これまた赤子のようではないか。
「ひひ、赤ちゃんみたいで可愛かったよ」
「お前に言われたかねぇよ!」
そう口にしたところで気づく。
声を出せるようになっていることに。
「え、ニキニキ声出せるようになってんじゃん!」
「うわ、ほんとだ」
「あーあ治っちゃった、可愛かったのに」
そうやって小突いてくるこいつに、俺もまた、小突き返した。
「ま、今も可愛いけどね」
そう言ったかと思うと、急に頬にキスをしかけてきた。
ビックリして、相手の唇に圧力をかけ返してしまった。
すると向こうはより強く、濃厚なキスを強いた。
今後おそらく消えないであろう屈辱の思い出に、蓋をするように。