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第2話「副会長の影」
生徒会室――。
瑠璃子に呼ばれてから、美咲は放課後の大半をそこで過ごすようになっていた。
山のように積まれた書類に目を通す会長を横で手伝いながら、美咲は驚いていた。
美咲(心の声)
「財閥令嬢って、もっと人に任せるだけかと思ってた……。
会長は全部、自分でやっているんだ」
その横顔は冷たい美貌に見えながらも、芯に強烈な責任感を秘めていた。
その姿に、美咲の心は次第に惹かれていく。
瑠璃子はふと手を止め、美咲に視線を向けた。
瑠璃子
「……桐生さん。あなた、笑うと意外と可愛らしいのね」
美咲
「えっ……! そ、そんなこと……」
頬が赤くなる。
そのとき――。
「会長、失礼します」
低く硬い声が響いた。
副会長の橘芹香が扉を閉め、冷ややかな視線を美咲へと向ける。
芹香
「……新入生に生徒会の仕事を押し付けるなんて、会長らしくありませんね」
瑠璃子
「押し付けてなんかいないわ。彼女が望んでいるの」
芹香
「そう……。でも、昔から会長を支えてきたのは私です。
この学園に、軽々しく庶民を入れるべきじゃありません」
美咲の胸に刺さるその言葉。
瑠璃子は椅子から立ち上がり、芹香に一歩近づいた。
瑠璃子
「芹香。あなたは忠実で、私にとって頼れる副会長よ。
けれど――それと、彼女を迎えることは別問題だわ」
芹香
「……っ!」
瑠璃子は美咲の肩にそっと手を置いた。
その仕草は、庇うようで、所有を示すようでもあった。
瑠璃子
「彼女は“私の選んだ人”。それ以上でも以下でもないわ」
その瞬間、芹香の表情にひびが入る。
笑みを浮かべようとしたが、引きつったまま目を伏せた。
芹香(心の声)
「私が……何年も、会長の隣に立つために努力してきたのに。
どうしてあんな庶民が、たった数日で……」
⸻
夜。
生徒寮の窓辺に立つ芹香。
月明かりが彼女の顔を照らす。
芹香
「いいわ。……桐生美咲。
会長の“選んだ人間”だというなら、その価値が本当にあるのか。
私が証明してみせる……!」
彼女の目に宿るのは、忠誠か、嫉妬か、あるいは破壊衝動か。
薔薇の庭園に、暗い影が伸び始めていた――。