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欲 。
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#禪院甚爾
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「なんで……俺が、こんなところで……っ」口から溢れる血が、冷たい床を赤く染めていく。禪院家の崩壊。次期当主として君臨するはずだった直哉は、一人の少女の手によってすべてを奪われ、呪力を持たない母親の手によって背中を刺され、泥と血の中に這いつくばっていた。体温が急速に奪われ、視界がかすんでいく。
(ああ、結局……俺の人生は、何やったんやろな)
あの雨の日、甚爾くんに「虫唾が走る」と捨てられてから、自分の心は死んだも同然だった。あの男を憎み、見返すためだけに、冷酷なエリートの仮面を被って生きてきた。けれど、その最期がこんなにも無様で、惨めな結末だなんて。
(最期まで、あんたに嫌われたまま……俺は死ぬんやな、甚爾くん……)
孤独と絶望が、冷たい泥のように直哉を沈めていく。意識が完全に途絶えようとした、その時だった。
「――いつまでそんな不細工なツラして寝てんだよ、直哉」
ハッとして目を開けると、血生臭い屋敷の床ではなく、どこまでも透き通るような青空が広がる広場だった。見上げると、そこにはあの雨の日と全く変わらない、圧倒的な体躯の甚爾が立っている。
「……甚爾、くん? なんで……あんた、俺のことが嫌いなんやろ……」
直哉の目から、子供のようにもろもろと涙が溢れ出した。死後の世界だとしても、大嫌いなはずの自分が目の前にいることが信じられなかった。けれど、甚爾はそんな直哉の前でゆっくりと腰を落とすと、フッと呆れたように笑った。
「まだあの嘘、信じてやがったのか。本当にお前は、世間知らずのバカなガキだな」
「……え?」
「お前を俺の泥沼に巻き込みたくなかっただけだ。あんな腐った家でも、お前には綺麗で、強い術師のままでいてほしかったんだよ。……悪かったな、酷いこと言って」
甚爾の大きな手が、直哉の頭にポンと乗せられた。あの雨の日、冷たく振り払われたはずの手の温もりが、十数年の時を超えて、直哉の凍りついた心を一瞬で溶かしていく。嫌悪されていたわけではなかった。自分を守るために、あの人はあんなにも残酷な嘘をついて、一人で泥沼へと消えていったのだ。「……ずるいわ、甚爾くん。そんなん、今更言われても……遅すぎるわ……っ」
直哉は甚爾の胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。それは憎しみから解放され、ようやく取り戻した、本当の自分の涙だった。甚爾は何も言わず、ただその小さな背中を、不器用な手で静かに受け止めていた。現世では永久にすれ違い、呪いのような嘘に縛られ続けた二人。けれど、すべての役割を終えた魂の果てで、ようやく嘘の仮面は剥がれ落ちた。もう自分を偽る必要も、誰かを憎む必要もない。二人の影は光の中に溶け合うように重なり、今度こそ置き去りにされることのない、本当の「来世」へと歩み出していくのだった。
コメント
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うぅ…第4話、読み終わりました……。直哉の最期の孤独と、甚爾くんのあの“嘘”の真実が重なって、胸がぎゅっとなりました。あの雨の日からずっと憎しみに生きてきた直哉が、ようやく本当の温もりを知れた瞬間、涙が止まらなかったです。死後の世界でしか辿り着けなかった“繋がり方”、切なくて、でも綺麗で…。お二人の来世が、どうか幸せでありますようにって、心から思いました。素敵なお話をありがとうございます…🥀