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「分かったわ。でも、短時間で」
二人はカフェで会った。
由美は以前と変わらない、親しみやすい笑顔を見せていた。
「麻衣、結婚おめでとう。赤ちゃんも生まれるのね」
「ありがとう」
「実は、私も最近いろいろ考えることがあって」
由美が真剣な表情になった。
「玲香さんの事件の後、自分の人生を見直してるの」
麻衣は注意深く聞いた。
「あの事件で、人を信じることの大切さを学んだわ。玲香さんは、最初はいい人に見えていたけど、結局は嘘つきだった」
由美は自分の過去の悪行について直接的には触れなかったが、明らかに後悔しているようだった。
「麻衣、私たち昔みたいに仲良くできるかしら?」
麻衣は長く考えた。由美の本性を知っている以上、完全に信頼することはできない。
しかし、完全に拒絶する必要もないかもしれない。
「ゆっくりとね」
麻衣が答えた。
「今の私は、家族が最優先なの」
由美は理解したようだった。
「そうよね。家族が一番大切よね」
由美との関係は表面的なものに留まった。
時々連絡は取るが、深い交流は避けた。麻衣は過去の傷を乗り越えていたが、同時に用心深さも身につけていた。
妊娠後期に入った麻衣は、健太に支えられながら出産に備えていた。
「男の子かな、女の子かな」
健太が楽しそうに想像していた。
「どちらでも愛しているわ」
麻衣が微笑んだ。
「名前はもう考えてる?」
「希望の『希』という字を使いたいの」麻衣が言った。「この子は私たちの希望だから」
健太は同意した。
「いい名前だね」
陣痛が始まったのは、春の雨の日だった。
健太が慌てて病院に車で送ってくれた。
「大丈夫、ゆっくり呼吸して」
健太が麻衣の手を握った。
難産になったが、医師と看護師の献身的な努力により、赤ちゃんが生まれた。
「元気な女の子ですよ」
医師が報告した。
麻衣は初めて娘を抱いた時、これまで経験したことのない深い愛情を感じた。
「希美」
麻衣が娘の名前を呼んだ。
小さな希美は母親の声に反応するように、小さく微笑んだ。
「君は麻衣にそっくりだ」
健太が感動して言った。
「きっと強い女性になる」
麻衣は娘を見つめながら思った。
この子のために、私は本当に強くなった。復讐のためではなく、愛する人を守るために。
それから5年が過ぎた。
麻衣と健太は幸せな家庭を築いていた。
希美は活発で好奇心旺盛な5歳の女の子に成長していた。
「ママ、今日は公園に行こう!」
希美が元気よく言った。
「いいわね。パパも一緒に行きましょう」
三人で近所の公園に向かった。
桜が満開で、美しい春の日だった。
公園で遊んでいる希美を見ながら、麻衣は過去を振り返った。
あの恐ろしい体験—玲香や雅美、そして由美による裏切り。
何度も殺され、何度もタイムリープを繰り返した日々。
しかし、その苦しみがあったからこそ、今の幸せの価値が分かる。
「麻衣、何を考えてる?」
健太が尋ねた。
「幸せって、当たり前じゃないのね」麻衣が答えた。「だから、毎日感謝したい」
「君らしい考え方だ」
健太が微笑んだ。
希美が走って戻ってきた。
「ママ、お花を摘んだよ!」
小さな手に握られているのは、タンポポの花だった。
「ありがとう、希美」
麻衣が娘を抱き上げた。
その瞬間、麻衣は確信した。
この平凡で美しい日常こそが、自分が本当に求めていたものだった。
復讐は人を強くするかもしれない。
しかし、愛は人をより強く、そしてより美しくする。
タイムリープという奇跡的な力を使って、麻衣は最終的に最も大切な教訓を学んだ。
真の勝利とは、敵を倒すことではない。
愛する人たちと幸せな時間を過ごすことだ。
夕陽が公園を黄金色に染める中、麻衣一家は家路についた。
「明日も一緒に遊ぼうね」
希美が手を振った。
「もちろんよ」
麻衣が答えた。
「ママはずっと、あなたたちと一緒にいるから」
過去の戦いは終わった。
そして、愛に満ちた未来が始まった。
麻衣の長い戦いは、ついに真の意味で完結したのだった。
< 了 >
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