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冬に近づき、少しずつ日が沈む時間が早くなってきたこの季節。
17時半過ぎの、少し薄暗くなった教室に、俺と、もうひとり。
翠/…ちがう、
黄/ん〜〜っ!(頭抱
前回の期末の点数が過去一ひどくて、担任に呼び出されたかと思えば、放課後の特別補習の提案。
内容は、課題で渡されたプリントを一週間で解いて、担任に提出すること。
別に俺ひとりでも良かったのに、担任は「教えるの上手だし、今回のテスト結果もクラスで一番だったすちくんに教えてもらって」なんて言い始めたから、
流石に「一人で平気です」とか言えないし、他に断る理由もなかったから、お願いした。
すちくんとはもともとあんまり話したことないし、なんなら俺と性格反対っぽい。
拒絶されるかなとも思ったけど、すちくんはすんなりおーけーしてくれた。
すちくんは教えるのがほんとに上手で、わかりやすい。
ただ、俺の飲み込みが劇的に遅い。
翠/ここ、忘れてるじゃん
黄/…あ、ほんまや
翠/この2つは別で考えないと
黄/……あ〜、
翠/立式から違うよ
黄/……??
プリント裏表あるっていうのに、30分かけてやっと3問目に突入。
こんなペースでやってたら、一週間じゃ終わらんかも……。
ふと、夜に飲み込まれ始めた外に目を向けた。
ライトアップされたグラウンドで、サッカー部が一生懸命に練習している。
その隣にある別館の二階で、吹奏楽部のぐちゃぐちゃした音色がこっちまで届いている。
校舎の何処かで、楽しそうな話し声が響いている。
翠/…ちょっと、休憩する?
黄/…ぁ、ご、ごめん、
集中力が切れた俺に気がついたのか、そっと声を掛けてくれる。
すちくんは持っていたペンを机において、鞄の中から携帯を取り出した。
黄/(……校則違反、)
相手に気付かれないよう、その顔を盗み見る。
睫毛が長くて、唇は程よい薄さで、さらさらした髪に手を添えているところを切り取ったら、
なんかの映像みたく綺麗だった。
黄/(…モデルさんみたい)
そう思いながら、俺もペンを置いて再び窓の外へと目線をやった。
教室にはなんの音も響かない。
二人しかいないこの広々とした空間と、誰も喋らないこの静寂が、なんだか心地が良かった。
10分くらいたったあと。
すちくんが携帯をしまうのを合図に、俺もプリントに向き直る。
翠/…休憩できた?
黄/うん、
翠/じゃ、早く終わらせちゃおう
翠/…ここから間違ってる
黄/んぇ…、
翠/ここ、反対だよ(指差
いわゆる「萌え袖」状態の袖から、細い指がちょっとだけ伸びる。
すちくんは、手がすっごく綺麗なんだって、今日初めて気づいた。
翠/ここの問題は、さっきの解き方を使えばすぐに出来るよ
黄/……分からんよぉ、、
翠/この式の値を変えればいいだけだよ
すちくんがプリントの端っこに式を書いてくれた。
すちくんは字が綺麗だった。
読みやすくて、俺の字と横に並んでいるのが恥ずかしくなる。
黄/…、できた、(ぼそっ
翠/見せて、(身乗出
翠/……ん、正解
黄/やったあ、っ
すちくんが慣れた手つきではなまるをつけてくれた。
すちくんの書いたはなまるは、先生の書くものと違って、何処か可愛さがあった。
翠/よかったね(笑
翠/いぇい(手出
黄/……??(固
机に肘をついて、すちくんは手のひらを俺に向けた。
俺は何も分からずに、ただ固まるだけ。
翠/…ハイタッチ、だよ(笑
黄/…ぁ、ぅん、、
早くして、とでも言うように、差し出した右手をぱたぱた動かしている。
基礎問題の一問が解けただけでハイタッチできるものなのかは分からないけれど、
言われるがままに俺も手を出して、徐ろにその手を重ねた。
翠/……、(笑
……ぎゅっ、
黄/……へ、、?
お互いの手が触れた、かと思えば、すちくんの指が俺の指の間にゆっくりと入り込む。
当の本人は口元を綻ばせながら、絡まれた手をじっと見つめていた。
なんだか、愛おしいものを見ているような眼差しで。
すちくんの手は少し冷たかった。
でも、俺の指先はどんどん熱くなっている気がして。
どれも、俺にとっては初めて知ることだった。
繋がれた手は、離されぬまま机の上に置かれる。
翠/…それじゃ、次の問題ね、
黄/えっ?
すちくんはなにも気にせず次の問題の説明を始めた。
でも、俺はいまだ繋がれた左手が気になってしょうがない。
そこまで強く握られていなかったから解くこともできたのに、何故かそれができない。
すちくんの解説を聞きながら、ふと時計に目をやると、最終下校時刻まで残り15分を切っていた。
あと、もう少しだけ、このままだ。
結局、時間ギリギリまで教室に残って、そこを出たのは2分前くらい。
外はもうだいぶ暗くなっていて、廊下の電気をつけると窓には少しだけ頬の赤い自分が映っていた。
翠/…鍵、返してくるから、
翠/先帰っていいよ
俺に背を向け、教室の鍵をかけながらそう呟く。
下校時間ギリギリで、職員室に残っている先生たちに「遅い」って怒られるかもしれないから、すちくんなりの優しさなんだろうけど、
元はといえば俺がすちくんに頼んだことだし、俺はまだ一緒にいたいから。
黄/俺も一緒に行く
翠/…そう、
そうして、二人の足音だけが反響する廊下を黙って歩き、職員室に鍵を返した。
案の定、残っていた先生数人にひどく注意されたけど。
課題は最終日、時間ギリギリまでやってなんとか終わらせることができたらしい…。
※終わりまで気力残らなかった…。