テラーノベル
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休日の朝は、平日とはまるで違う空気が流れていた。
青は家を出る前からそわそわしていた。
鏡の前で何度も髪を整え、服を着替えて、また着替えて、結局最初に選んだ服に戻るという一連の流れを三回は繰り返した。
理由はもちろん――
今日は桃との遊園地デートだからだ。
「……よしっ」
玄関の扉を開けた瞬間、胸の奥がぎゅっと鳴った。
駅前の待ち合わせ場所には、すでに桃が立っていた。
人混みの中でもすぐに見つけられるのが悔しいくらい、目立つ。
桃は青に気づくと、軽く手を上げた。
「お、来たな」
その一言だけで、青の心拍数は一気に跳ね上がる。
「ご、ごめん!待った?」
「いや。今来たとこ」
それ、絶対もっと前に来てたやつだ。
でも青はそれ以上言えなくて、ただ嬉しくなってしまう。
並んで歩き出す。
肩が触れそうで触れない距離。
たったそれだけのことなのに、青の頭の中は大騒ぎだった。
(デートだ…デートだ…デートだ……)
電車の中でも、青は落ち着かない。
吊り革につかまる桃の腕が近くて、視線の置き場に困る。
「楽しみ?」
桃が何気なく聞いた。
「うん!!めちゃくちゃ楽しみ!!」
食い気味すぎて、自分でもびっくりした。
桃は小さく笑った。
「そんなにか」
「だ、だって遊園地とか久しぶりだし!」
本当はそれだけじゃないけど、言えるはずもない。
電車が目的地に近づくにつれて、青の胸の鼓動はどんどん速くなっていった。
改札を抜けると、巨大な観覧車が遠くに見えた。
「うわぁ……!」
青は思わず足を止めた。
遊園地の入り口。
色とりどりの旗、流れる音楽、笑い声。
現実なのに、どこか夢みたいだった。
「行くぞ」
桃に手首を軽く引かれる。
それだけで、青の顔は一瞬で赤くなる。
チケットを買って中へ入ると、視界いっぱいに広がる非日常。
ポップコーンの甘い匂い。
遠くで聞こえるジェットコースターの悲鳴。
「まず何乗る?」
桃がパンフレットを広げる。
青は迷わず指をさした。
「これ!!」
絶叫系最大級のジェットコースター。
桃が眉を上げた。
「お前、絶叫系いけるの?」
「いけるよ!たぶん!」
この時の青は、まだ知らなかった。
自分がこれからどれほど叫ぶことになるのかを。
長い列に並び、順番が近づいてくる。
ガタン、ゴトンとレールを登る音が聞こえるたび、青の顔色は少しずつ青ざめていった。
「……高くない?」
「高いな」
「速くない?」
「速いな」
「怖くない?」
「怖いか?」
「……ちょっと」
桃が笑う。
「今さら?」
青は引き返したかった。
でも桃と一緒に並んだこの時間が嬉しくて、逃げると言えなかった。
ついに順番が来る。
安全バーが降りる。
ガチャン
逃げ場、消失。
「桃くん……」
「ん?」
「手、握っていい?」
桃は少し驚いた顔をしたあと、自然に手を差し出した。
「ほら」
その瞬間、青の恐怖は少しだけ和らいだ。
――が。
次の瞬間。
急降下。
「うわああああああああああ!!!!!!」
遊園地中に響き渡るレベルの絶叫。
涙目。全力。全身。
横で桃が大爆笑しているのも見えないくらい必死だった。
降りた頃には、足が完全に震えていた。
「む、無理……死ぬかと思った……」
ベンチに崩れ落ちる青。
桃は笑いをこらえきれない。
「叫びすぎだろ」
「だって怖かった!!」
「声、めちゃくちゃ通ってたぞ」
青は恥ずかしさで顔を覆った。
でも桃はどこか楽しそうだった。
その後も、二人は一日中遊び回った。
クレープを半分こして食べたり。
ゲームコーナーで桃が本気を出して大きなぬいぐるみを取ったり。
観覧車から見える景色に青が感動したり。
そして、お土産ショップ。
青の目が輝いた。
「見て!これ可愛い!」
小さなキャラクターのキーホルダー。
色違いで並んでいる。
青は迷わず二つ手に取った。
「桃くん、これお揃いにしよ!」
桃は一瞬止まった。
けれどすぐに小さく笑う。
「いいぞ」
レジに並ぶ間、青はずっと嬉しそうだった。
袋から取り出し、その場でスマホにつける。
「えへへ…」
子供みたいな笑顔。
桃はそれを見て、少しだけ視線を逸らした。
少し耳が赤く染まっていた。
夕方。
空はまだ明るかった。
予報では、一日中晴れのはずだった。
なのに。
ぽつ。
青の頬に、冷たい滴が落ちた。
「……あれ?」
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
次の瞬間。
ザアーーー
土砂降り。
「うわあッ!?」
一気に降り出した雨に、人々が一斉に走り出す。
二人も屋根の下へ駆け込んだ。
しかし雨は弱まるどころか、どんどん強くなる。
雷まで鳴り始めた。
「やばいな」
桃がスマホを見る。
「電車、止まってる」
「え?」
「バスも運休」
青の頭が真っ白になる。
「帰れない…?」
「この雨じゃ無理だな」
服はすでにびしょ濡れ。
冷たい風に体温が奪われていく。
青がくしゃみをした。
「くしゅんっ」
小さく震えている。
桃の表情が変わった。
「ホテル探すぞ」
二人は雨の中を走った。
しかし――
「満室です」
「本日は予約でいっぱいで」
「申し訳ありません」
どこも空いていない。
青の表情がどんどん不安になる。
その時。
「あ!桃くん!!」
青が指さした先。
ネオンが光る建物。
「ねぇ!あそこのホテル空いてそうじゃない!?」
桃はその看板を見て、固まった。
ラブホテル。
しかし青は知らない。
本当に、何も知らない。
「……」
桃は言葉を失う。
「?、どうしたの?」
青は首をかしげる。
その瞬間、青がまたくしゃみをした。
「くしゅんっ……寒い…」
びしょ濡れのまま震えている。
桃は目を閉じた。
数秒の葛藤。
そして。
「……行くぞ」
桃はその建物へ歩き出した。
青は嬉しそうに駆け寄った。
「よかった!空いてるといいね!」
何も知らないまま。
二人は雨の中、ネオンの光へ向かって歩いていった。
♡×1000.求.
投稿遅くてすみません。。。
頻度落ちたので、♡して呼んでください
喜びます。
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コメント
2件
投稿ありがとうございます!!! これはR18が来る予感...リクして良かったぁ"ぁ"ぁ"っ🥹💗 私だけじゃ1000できないのは申し訳ないんですけど...続き早く欲しいです!待ってます!
最高です!! 青くん純粋すぎるな〜 続きが楽しみです🎶