テラーノベル
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突然スマホが震えたのは、もうすっかり夜が更けた頃だった。ソファに横になっていた仁人は、重たい瞼を持ち上げる。
身体が熱い。
朝からずっと、熱が引かない。頭の奥はぼんやりしているし、少し動くだけでも息が上がる。いつものように抑制剤を飲んで休んでいたけれど、今日はどうにも調子が悪かった。
画面に表示された名前を見て、仁人はゆっくりと上体を起こした。
『仁人、今どこおる?』
短いメッセージ。続けて、もう一通。
『ごめん、俺ヒート来てもた』
仁人の表情が変わった。太智は、普段なら自分の体調についてあまり大げさに騒がない。ヒートの兆候があれば早めに対策を取るし、どうしてもつらいとき以外は、誰かに頼ることも少なかった。
そんな太智が、同じオメガの仲間とはいえわざわざ連絡してきたのだ。
『一人?』
仁人が送ると、返事はすぐに届いた。
『うん』
そして、少し間が空いてから。
『会いたい』
その一文を読んだ瞬間、仁人はスマホを握りしめた。会いたい。自分も、会いたかった。けれど、今の自分も決して万全ではない。
ヒートの兆候はすでに出ていた。身体は熱っぽく、頭はぼんやりしている。自分の匂いを抑えるために対策をしていても、気を抜けば意識がそちらへ引っ張られてしまう。
本当なら、外出は避けた方がいい。
ましてや、同じオメガである太智のもとへ向かうなんて。
それでも。
『俺もヒート来てるかも』
正直に打ち込んだ。しかし、それを1文字ずつ消していく。せっかく勇気を出して連絡してくれたのに、自分も同じ状況だから行けないとは言えなかった。
だってきっと、無理して来てほしいわけではないのだ。優しいあいつなら、つらいなら来なくても大丈夫と言うだろう。
仁人は、返事を待っているであろう太智を想像した。きっと、かなり寂しいのだろう。心細いのだろう。
そして、自分と同じように、誰かにそばにいてほしいと思っている。
仁人はゆっくりと立ち上がった。足元が少しふらつく。それでも、壁に手をついて身体を支え、スマホを握り直した。
『今から行く』
送信してから、もう一度メッセージを打つ。
『でも、ちょっと時間かかるかも』
ふらついた足元を見つめて感じる。自分も相当限界が来ているのだと。正直なところ、今この状態で外に出るのは危険だ。この時間帯は特に、性欲から兎を密かに狙っている狼が目を光らせているのだ。
これからのことについて少し身震いしている中、太智はというと、何を考えているのやらしばらく返事がなかった。やがて届いたのは、たった一言。
『待ってる』
仁人は、その文字をしばらく見つめていた。そして、静かに息を吐いた。
「……待ってて」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
外へ出た瞬間、空気の冷たさに少しだけ頭が冴えた。仁人は襟元を整え、マスクをつけ直した。できるだけの対策はしているつもりだ。けれど、完全に自分の状態を隠せるわけではない。
家までの道を歩きながら、仁人は何度も立ち止まりそうになった。物凄く身体が重い。普段なら何でもない距離なのに、今日はやけに長く感じる。
それでも、太智の家へ向かう道順は頭に入っていた。
何度も訪れた場所だ。玄関を開ければ、太智がいる。そう考えると、少しだけ前に進む足が軽くなったような気がした。しかし、駅に近づくにつれて、周囲の視線が気になり始めた。
すれ違ったアルファが、ふとこちらを振り返る。別のアルファも、仁人のそばを通り過ぎたあと、何かに気づいたように視線を向けた。
もちろん、全員が仁人の状態に気づいているわけではない。それでも、ヒート中の不安定な身体では、何気ない視線さえ普段より鋭く感じられた。周りでは微かに「あれオメガじゃね?」「匂いヤバ、声掛けようかな」などの声も聞こえ始める。聞こえてないとでも思っているのか、はたまた聞いて欲しいのかは知らないが全部筒抜けだ。
仁人は俯き、歩調を速めた。
「……っ」
視界が揺れる。一度、そっと壁に手をついた。息を整えようとするけれど、胸の奥が落ち着かない。
もう、諦めて帰ってしまおうか。
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。今の自分が太智のところへ行って、何になるのだろう。自分だって、まともに動けない。太智を安心させるどころか、二人そろって具合を悪くしてしまうかもしれない。それでも、スマホを開けば、太智とのやり取りが目に入る。
『会いたい』
あの一文。たったそれだけなのに、仁人はどうしても、太智を一人にしておきたくなかった。
いや。
本当は、自分だって会いたかったのだ。誰かに頼りたいと思っていた。心細いとき、何も説明しなくても自分の状態を分かってくれる相手がいてほしかった。
その相手が太智だった。
だからこそ、無理をしてでも向かおうとしている自分がいる。
「……大丈夫」
仁人は、ゆっくりと歩き出した。
途中で何度か休みながら、ようやく太智の家の近くまでたどり着く。マンションのインターホンを押す。ガチャ、という音の代わりにスマホが震える。画面を見ると『鍵空いてる』と簡素なメッセージが届いていた。
太智の防犯意識を疑いながら建物の入口を抜け、見慣れた廊下を進む。
あと少し。あと少しで、会える。そう思ったとき、ようやく緊張が解けたのか、仁人は大きく息を吐いた。
そして、太智の部屋の前に立った。スマホを取り出す。
『着いたよ』
鍵は空いているらしいので突然開けたって構わないのだろうが念の為送信すると、部屋の向こうから小さな物音がした。
仁人は扉の前で待った。けれど、なかなか開かない。
「……太智?」
返事はない。やっぱりこちらが開けてやろうか、と思っていると、室内から足音が近づいてくる。
ゆっくりと。少し不安定な足取りで。仁人は、思わず扉に手を伸ばした。
その瞬間、扉が開く。太智の匂いが身体中に広がった。普段の明るさの下にある、熱くて湿ったオメガの熱。
「太智——」
名前を呼ぶより先に、影が動いた。
ドン、という音がした。背中が玄関の壁に当たり、荷物が床に落ちる。
太智が仁人に飛びつくように抱きつき、そのまま唇を塞いできた。
「んっ……!」
深く、噛みつくようなキス。もう理性がない。でも、仁人も既に余力はない。
太智の手が仁人の髪を掴み、仁人の手が太智の腰に回る。玄関の狭い空間で、二人の匂いが混ざり合い、空気がとろけた。
「来てくれた…っ、ほんまに……」
「来るでしょ、そりゃ…」
言葉が途切れる。また唇が重なり、舌が絡む。靴も脱ぎきれないまま、太智が仁人のジャケットを剥ぎ、仁人が太智のシャツの裾を引き上げる。
壁に背中を預けたまま、脚が絡む。同じ熱を持った相手の匂いに、互いに沈んでいく。
「…ん、てか、仁人もヒート、?」
「、え」
「やって、この匂い…」
大きな目で訴えかけられれば、隠すこともできない。
「…まあ、」
「なんや、じゃあ遠慮せんでええな」
「太智…?」
そう言ってまた深い口付けをしてきたかと思えば、仁人のスウェットを慣れた手つきで下ろしていく。そのまま双丘に秘められた蕾に手を触れる。
「っん、太智……」
太智の指が仁人の内側に触れたとき、すでに十分に濡れていた。仁人も、太智の熱を確認して、低く息を吐く。
準備など、ヒートのおかげでとっくに終わっていた。玄関の床に膝をつく形で、太智が仁人の脚を抱える。
熱いものが、熱い場所へ沈んでいく。
「んあぁっ……!」
「はあっ……入った……っ」
根元まで埋まった瞬間、二人の背中が同時に震えた。潤滑剤もゴムもない、生の熱。
オメガの内側は柔らかく、なのにきつく締めつけて、太智の形を舐め取るように脈打つ。
「動くで…」
「…っ、ぅん」
腰が上下する。玄関の薄暗い照明の下で、水音がくちゅくちゅと響く。仁人は太智の肩に顔を埋め、女の子みたいな甘い声を漏らし始めた。
太智は床に手をつけ、奥へ奥へと腰を進めていく。
「んっ……きもち、仁人…ッ、」
「あっ、まって、おかしくなる…っ!太智、太智……」
キスが何度も落ちる。唇が離れるたびに糸が引き、また繋がる。
仁人が達しそうになると、太智が腰を突き上げ、逆に太智が限界に近づくと仁人が締めつける。
「んっ、あッだいち…でる、っく…!」
「はあっ、おれも…っ」
2人が抱きしめあった瞬間、互いに熱が弾ける。仁人の内側が痙攣し、太智の熱を全て絞りとるように締め付ける。玄関の床に、甘い匂いがさらに濃く落ちた。
ヒートに煽られた2人の熱はこんな所では収まらなかった。
玄関では腰を痛めるからとなけなしの理性でリビングまで移動しようとは試みたものの、先程の疲労とヒートの熱のせいでまともに歩けなかった。
ソファの手前で再び抱き合い、床に沈む。今度は仁人が太智を仰向けに倒し、脚を開いて沈めた。
太智の目がとろんとし、腕が仁人の首に回る。
「んあぁっ…〜ッきもちい……♡」
「可愛い」
「ん、仁人もかわええよ♡」
付き合いたてのカップルみたいな会話から本日何度目かのキスを交わしまた熱を感じ合う。
二度目は、一度目より深かった。ヒートの熱が感度を上げ、突かれるたびに太智の声が上ずる。仁人も同じで、太智の締めつけに呼吸が乱れる。
オメガ同士で熱をぶつけ合う形は、かえって執着が強かった。
「はあっ……仁人、名前呼んで…?♡」
「太智……♡太智……っ♡♡」
「っふ、仁人…♡すき、……♡」
段々と気持ちがエスカレートし動きが激しくなったことで床に衣類が散らばる。どちらも服をまともに脱ぎきれていない。
シャツははだけさせたまま、ズボンは片方の足首に残り、何度も腰を打ち付ける。しかし、どちらもその状態を気にしないほど限界だった。
太智が再度達したとき、目尻から涙が零れた。快楽と、ヒートの苦しさが同時に溶けて、理性の残骸が飛ぶ。
「ん、♡まだ…したいっ……♡♡」
「おれも……♡」
熱冷めやらぬままの三度目は、寝室にたどり着くまでの壁に押し付けた状態で始まった。
互いの脚を絡め、浅いピストンを長く続ける。激しくないのに、熱が逃げない。
吐息が耳に入り、匂いが肺を満たし、内側の感触だけが全てになる。ぐちゅぐちゅと響く水音が、空間に淡々と続いていく。仁人の指が太智の前を扱き、太智の指が仁人の手を撫でる。
オメガの身体は正直で、触れた場所すべてがすぐさまに甘い反応を返す。
「んあぁ…♡じんと、イキそう……また…っ♡♡」
「…っだいち、」
三度目の絶頂は、長くて静かだった。互いの中で熱が広がり、腹の奥がひくひくと痙攣する。しかし、ヒートの火はまだ完全には消えない。
ほとんど何も考えず始まった四度目、二人はようやくベッドに辿り着いた。
シーツは乱れたまま、仁人が太智の上に再び跨る。腰を落とす動作が、もう慣れたように滑らかだった。
「んっ……太智の、おっきくなって…ッ♡♡」
「仁人が、締めるからやろ…♡」
「そんなん言われてもッ……勝手に…っあ♡♡」
深く沈めたまま、円を描くように腰を動かす。太智の手が仁人の尻を支え、下から突き上げる。
仁人の声が甘く裏返り、髪が額に張りつく。
「仁人、ほんまにかわええ…♡♡」
「あっ…!?♡だいち、やだそこッ♡」
静止を試みるも律動は止まらず、仁人の甘い声は空間に溶ける。
「んぅ、♡♡だいち、出して……ナカ…♡♡」
「だめだよ、孕んじゃったらどーすんの…♡」
「だいちならいいもんっ♡♡はやく!♡♡」
太智はその言葉に耐えられず、仁人の最奥で弾けた。仁人は太智の胸に倒れ込み、小さく痙攣を繰り返す。
太智も同じように息を荒げ、仁人の背中を優しく撫でた。
「…ん、だいちも、おれとのあかちゃんつくって♡」
「っは…?」
太智の頭がそれを理解するより先に挿入される。仁人は、快楽の波に乗ってしまえば中々止まれない。喉から出る音のほとんどが吐息のまま腰を押し進める。もう、言葉を紡ぐ余裕はなかった。ただ求め、沈み、擦り、締める。今自分が何をして何を発しているのかすらも曖昧なまま、ヒートの波が何度も何度も二人を押し流していく。
ベッドの軋みと、水音と、名前を呼ぶ声だけが強く夜に残る。
「んあぁっ…?!♡♡…いくいくッ♡だめ、っじんとお♡♡」
達するたびに、少しだけ頭がクリアになる。それでも、直ぐにまた身体が絡んだ。
どれくらい時間が経ったのか、わからない。窓の外が、わずかに白み始めている。
二人はベッドの中央で、汗だくのまま重なっていた。太智の顔は仁人の首筋に埋まり、仁人の腕は太智の腰に回されたまま離れない。
「はっ…はぁ…」
「……ねえ、ちゅーしよ」
余韻の熱がはたらき、何度も唇を重ねる。家に着いてから何度繋がったのだろう。
床に落ちた荷物も、脱ぎ捨てた服だって、そのままになっている。太智が小さく動くと、行為の名残で甘い感触が少しだけ戻る。
仁人は眉を寄せ、それでも離さなかった。
「あとで、抑制剤買いに行こ」
「……うん、てか仁人もヒートやったのに、無理して来させてごめん」
太智が眉を下げる。
「いいよ、俺も会いたかったし」
「……男前♡」
「うるさ」
仁人が顔をしかめる。
「……なあ、仁人」
「ん?」
「お腹すいた」
「……めっちゃ眠そうな顔してるけど」
「眠い。けどお腹減った」
「食欲旺盛かよ」
呆れた声を出しながらも、仁人は太智の頭を撫でる。太智はそれを当然みたいに受け入れて、すりすりと手のひらに頭を寄せた。
「……なあ、二人でお風呂入ろ」
「えー、また急になんだよ」
「えーってなんやねん!一緒に入ろ!!」
「やだよ、どうせまた襲われるもん」
「ひどっ、信頼してや!てか襲わへんし!!」
「無理。襲ったことあるやつの言葉なんか信頼できません」
「もーいじわる!!」
太智はわざとらしく頬を膨らませて、それから、吹き出すようにへへ、と嬉しそうに笑った。もう一度仁人を感じるように抱きしめ直す。
「…好きやで」
「はいはい、俺も」
「はいはいってなんやねん!」
「……はあ、好きだよ」
今度はちゃんと伝えると、太智は満足したように仁人の胸元に顔を埋めた。
「……ん。ほな、もうちょい寝よ」
「風呂入るんじゃなかったのかよ」
「五分だけ」
「絶対五分で起きないじゃん」
「仁人も寝るやろ?」
「……五分だけ」
そういいながら、結局、二人そろって目を閉じた。
何年一緒にいたって、こういうところは変わらない。甘え上手な太智と、文句を言いながら結局なんでも許してしまう仁人。そんな2人が絡めた指先だけは、ずっと変わらず馴染んでいた。
コメント
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同軸リバ大大大好きなので本当に感謝しかないです…!2人ともめちゃくちゃ可愛くて最高でした…!