きっと俺にその権利はない__ 。
___________________________________________
冷たい風が吹いてる中、真っ暗な屋上に2人きり。
お互い、何も喋らないまま。
「 … なあ、戻ってこいよ 。」
俺だっておかしいと思う。
俺の都合だけで、青をほったらかしにして__。
きっと俺に、そんな権利はない。
分かっている。
だけど、そんなに俺のことを愛してくれていたってことだけは知らなかったんだ。
死にたくなるほど辛い思いをしていたこと。
俺は見て見ぬ振りをした。
きっと、戻りたくなるから。
___________________________________________
俺は心臓病を患っている。
これは青も、メンバーも知っていることだ。
青が知らないのは、俺の余命があと少ししかないと言うこと。
このことは、青は知らなくていい。
青の中で、俺は浮気をしたただのクズでいればいい。
それで十分。
青が俺を嫌いになって、他の人と幸せになる。
そうした方が、青も幸せになれる。
だけど、そうじゃなかったんだ。
___________________________________________
青は、俺のことをとても愛してくれていて、浮気をしたことで嫌いになることはなかった。
メンバーにも反対された。
「 正直に話せ 」
何度も言われた。
俺だって、何度もそう思った。
青にも話して、青のそばにいる。
きっと俺は安楽死できるだろう。
最愛の青のそばで死ぬことができるのだから。
青は?青はどうなる。
俺が死ぬのを見届けるだけで、青にメリットは1つもない。
自意識過剰かもしれないが、青は俺の後を追うかもしれない。
病んで、まともに生活できないかもしれない。
きっと、そのくらい青は俺のことを愛してくれている。
俺は、青の幸せを願うことが1番で、その幸せに俺が居なくたっていいとさえ思っていた。
だって、事実なのだから。
俺が青のことを幸せにすることはできない。
それが紛れもない事実で、受け止めたくないもの。
本音を言うと、ずっと青といたいし、青を幸せにしたい。
青をずっと抱きしめていたい。
だけど、余命宣告をされた俺はできない。
言ってしまえば、弱虫だと思う。
だから、青に嫌われる。
だから、と言えばおかしいけれど、青が幸せになるにはそうするしかないと思った。
俺だけが辛い思いをすればいいのだ。
___________________________________________
それからは、朝から晩まで病院で過ごして、
まるで浮気しているように思わせた。
病院では点滴を打ったり、検査を受けたりする。
本当は入院するのだけれど、入院だけは避けたかった。
青と同じ空間にいる時間が、青のご飯を食べる時間が、なくなってしまうから。
青が俺のことを嫌いになっても、俺は青を愛しているから。
___________________________________________
「 最近、ご飯食べれていないらしいです。 」
「 それに、何か隠しているって分かっているみたいでしたよ。 」
「 だけど、浮気だとは思っていないみたいです。」
黄から聞いたんだ。
青のこと。
青の話を聞くたび、心が苦しくなって、覚悟しているはずの死を拒んでしまう。
なんで俺なんだよ。俺が何をしたんだよ。
ただ、青と幸せになりたかっただけなのに。
___________________________________________
その生活を始めてから、一ヶ月が経った。
青と話すことが減り、話しかけられることも減った。
だけど、青は毎日ご飯を作ってくれる。
それは、2人分じゃなくて、俺の分だけだけど。
それを見て見ぬ振りをする俺は、すごく最低だと思う。
___________________________________________
それからさらに一ヶ月が経ち、俺が死ぬまで残り一ヶ月となった。
俺は最近思うことがある。
青に悟られているのではないか?
この前の配信で、青が「死」の話をしていた。
普段は暗い話をしない青が、この話をしていることに違和感を覚えたんだ。
___________________________________________
それから1週間後、同じように病院へ行き、帰ろうとした時。
青から電話がかかってきたんだ。
滅多に電話をかけてない青が、電話をかけてきた。
不審に思った俺は、すぐに電話に出た。
風の音と、啜り泣く声。
「 青、どうしたの、どこにいるの? 」
不安でたまらなかった。
青は今から何をしようとしているのだろう。
「 病院の屋上だよ、話したいことがある 」
「 どこの病院の屋上か教えてくれ。 」
少し黙ってから、青は答えた。
「 桃くんのいる病院だよ。 」
正直驚いた。なんで俺が病院にいることを知っているのだろうか。
「 今すぐいく 」
不安や驚きでぐちゃぐちゃになっている気持ちを抑えて、青のいる屋上へ、向かうことにした。
___________________________________________
冷たい風が吹いてる中、真っ暗な屋上に2人きり。
お互い、何も喋らないまま。
「 … なあ、戻ってこいよ 。」
『 どうして? 』
「 俺が悲しむから。」
『…桃くんがいなくなって、僕が悲しまないとでも思ってるの? 』
『桃くんが死んだら、桃くんがいなくなったら、僕耐えれない。 』
やっぱり、分かってたんだ。
青はそんなに馬鹿じゃない。
俺の違和感にも気づけるのだ。
「 俺も、青がいなくなったら耐えれないよ。」
『じゃあなんで勝手にいなくなろうとする の?』
勝手に、なんかじゃないはず。
俺は俺なりに考えて….
違う、勝手だ。
俺が勝手に考えた結果で、青と話し合おうなんてしていなかった。
『 桃くん…? 』
「 青、ごめん、俺… 」
『 いいよ、大丈夫、分かってたし。 』
そう言って微笑む君は、とても美しくて愛しい。
『 ねえ、僕も連れてってよ 』
どうして、そんなことが言えるのだろう。
俺と一緒に行けば、青はメンバーと過ごすことができなくて、青が望んでいることも叶えられない。
「 なんで。ダメだろ、普通に。」
『 さっきも言ったでしょ。僕、桃くんがいなくなったら耐えられない。』
「 青なぁ、命を簡単に捨てるんじゃねえ 」
『 簡単にじゃないよ。相手が桃くんだったから簡単に決めれただけ。』
「 簡単にじゃねえかw 」
『ん〜、あれ?わかんなくなった、まあいいでしょ。』
『僕が、桃くんと一緒にいたいの。命を捨ててでも。』
「 ほんとに?後悔しないの?」
『もちろん。』
___________________________________________
今日が死ぬ日らしい。
寝てしまえば、そのまま永眠。
だから決めたんだ。
青と一緒に飛び降りようって。
『 桃くん、もう行く?』
「 そうだな。ありがとう、青。」
『 へへ、好きだよ、桃くん 』
「 俺は愛してる。いつまでも 」
『 僕も愛してるし。じゃ、逝こっか 』
「 おう。」