コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
日差しが肌を焼く。セミの鳴き声がうるさい。辺りが開けている分都会より涼しいが、それを上回るセミの鳴き声が暑さを助長させる。
「あっつ……」
駅から離れて家に向かって歩く。額から噴き出す汗をぬぐいながら俺はそう呟いた。家から駅までの距離はそう離れてはいないが、この灼熱地獄を歩いていくのは至難だ。こんなことなら自転車置き場に自分の自転車を置いておけばよかった。けどそんなことしたら不法駐輪で捕まるか。
そんなくだらないことを考えていると、俺の目の前に一人の男が歩いてくる。誰だろうか。そう思って俺は視線をあげた。すると俺はそいつと視線が合った。
「え?」
髪型も体格も違う。だけどどこか面影がある。相手も俺と同じことを思ったらしい。彼は俺より先に口を開いた。
「お前……裕也か?」「やっぱり! 陽介かお前!」
忘れもしない仲間の一人。葉山陽介。俺達の仲間の中で俺が一番長い付き合いで、一番信用を置いている人物だ。
「久しぶりだな! 一年ぶりくらいか!」「それくらい経つな。驚いたぜ。まるで別人じゃねぇか」「まあ俺も高校生だしな。色々イメチェンするぜ」「そりゃそうか。元気そうでなによりだよ」
そう俺たちは互いに笑う。顔を合わせると懐かしい記憶が脳裏に浮かぶ。俺たち二人、よく小学生の時から暴れまわってた。
「こっちにはいつまでいるんだよ」「そんな長くいるつもりはねぇよ。せいぜい一週間くらいだろうな」「オッケー。またどっか遊びに行こうぜ」「ああ、約束だぜ。そうだ、他の奴も誘おう。みんな元気にしてっかな」
陽介に会ってから急にほかの仲間が恋しくなってきた。俺の仲間は陽介を含めて五人。六人組のグループだ。男女比は一対一。みんな面白くて楽しい奴らだ。陽介と遊ぶならもちろん他の奴らも誘いたい。
「あ、ああ……。それもいいかもな……」
しかし陽介の反応は微妙だった。薄笑いを浮かべながらなぜか俺から視線を外す。
「何か問題でもあるのか?」「い、いや! そんなもんねぇよ! 全然大丈夫! あいつらも誘っておくぜ!」「お、おう……」
勢いで乗り切ったように見えたが、間違いなく動揺していた。でも一体どこに動揺したのだろうか。仲間を誘う事に何の問題があるのか。
「それじゃ、俺いかなきゃいけないとこあるんだ。また今度な」「ああ……」
そういって彼は俺の横を通り過ぎていった。変な違和感を感じながら俺は彼の背中を見つめる。その彼は振り返って俺を見ることなく、少し早い速度で歩き去った。
(何だったんだ一体……)
そう思っていた時、ポケットの中にしまっておいたスマホから通知音が鳴る。何かと思って開いてみると母親からのメールだった。
『帰る前にスーパーに寄ってきてくれない? あとで買ってきてほしいもの送る』
マジかこのババア。
疲れて帰ってきた俺を労うつもりはさらさらないらしい。俺はそんな非常な母親に呆れながら、スーパーへと向かうことにした。