「おはよー♪」
次の朝、私たちが食堂で朝食をとっていると陽気なジェラードが現れた。
「おはようございます、今お帰りですか?」
「うん、ひと仕事終えてきたよ♪」
「ひと仕事……」
ぼそっとエミリアさんがつぶやいたのは、とりあえずスルーしておこう。
「お疲れ様でした。朝食はどうします?」
「ちょっと疲れたから、もう寝ようと思って。
それでさ、頼んでいた育毛剤はできたかな?」
「はい。1日限定のが2本と、ずっと効果が続くのが1本ですよね。今渡しちゃいますか?」
「うん、お願い。
起きたらまた、昼くらいに出て行くからさ」
「慌ただしいですね。それじゃこれ、お願いします」
合計3本を順番に渡していくと、ジェラードは彼のアイテムボックスにしまっていった。
「確かに預かったよ。
確認だけど、最終的にミスリルを全部出させれば良いんだよね?」
「理想的にはそうですね。
ただ、ミスリルの量は少なくなっても大丈夫ですよ」
全部もらえるに越したことはないけど、全部もらうことは目的じゃないからね。
神器作成に必要な分だけ確保できれば良いのだから――
……って、あれ? 最終的に、どれくらい使うんだろう?
10キロくらいかな? そう考えると、できるだけ欲しくはあるかも……?
「なんのなんの。
ミスリルはお金で買えるけど、この育毛剤はお金じゃ買えないからね。
ミスリルはできるだけ吐き出させてくるよ」
「吐き出させるって……。
でもまぁ、よろしくお願いします」
「まかせてよ! それじゃ僕はもう寝るね。おやすみー」
「「「おやすみなさい」」」
「……というわけで今日の必須項目、ジェラードさんへのアイテムの引き渡しが完了しました」
「あとは遊ぶだけですね!」
「そう言うと身も蓋も無いですけど、そうですね!」
「それでは今日は、何をしましょう?」
「観光と魔法の本探し……くらいですかね。
エミリアさんとルークは、他にやりたいことはあります?」
「うーん、そうですねぇ……。
特には無いですけど、メルタテオスはアクセサリ屋さんがいろいろあるんですよ」
「へぇ? ミラエルツも結構ありましたよね?」
「あっちは材料が豊富っていう理由なんですよね。
こっちは宗教色が強いので、そういう意味でお店がたくさんあるんです」
「ああ、なるほど。
でもアクセサリ屋って、見始めると時間がすごい勢いで経ちますからね……」
ミラエルツでのアクセサリ屋巡りを思い出しながら、申し訳ない気持ちでルークを見る。
「アイナ様、私は大丈夫ですよ。お気になさらず」
「そ、そう?
それじゃ今日は、魔法の本を探すのと、アクセサリ屋巡りでもしてみますか」
「はぁい」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなわけで、私たちはまず本屋を訪れた。
本屋……とはいっても、元の世界の本屋とはずいぶんと違う印象がある。
それなりに広いスペースに、それなりの空間を取って置かれた本たち。
私の知ってる本屋といえば、本は本棚にずらっと並べられて、その手前には平積みされてるイメージ……になるのかな?
「……そういえば、本屋って初めて来たかも」
「「え?」」
「あ、もちろん私の国では何回も行ったことありますけど!」
「そ、そうですよね。
ところで本屋さんも、アイナさんの国とは違う感じですか?」
「はい、本はもっと並んでますね。
あとは漫画の本もたくさんありますし」
「漫画の本が……たくさん、ですか? また高度な娯楽文化をお持ちで……」
「これはエミリアさん、にわかに信じられませんね……」
「え?」
「え? だって絵は写本できないじゃないですか。
そんなものが大量に並んでるなんて……」
「なるほど……?
ちなみに、印刷……みたいのってありましたっけ?」
「印刷はありますけど……。部数が膨大になる聖書とか、そういうものでしか使われませんよ。
あと、当然ながら文字しか印刷できませんし」
「ふむ……。ま、まぁそれはそれとして?
さっそく魔法の本を探しましょー!」
「あ、誤魔化しましたね」
「そうですね。
しかし、ここまでとしておきましょう」
「むむむ……。
でもいつかは、アイナさんの国に行ってみたいです……!」
「……私も是非、お邪魔したいですね」
「――それではエミリア先生、まずはどういう本を買えば良いでしょうか」
「分かりました、先生が丁寧に教えて差し上げましょう!」
「よろしくお願いします!」
「あ、……よろしくお願いします」
ルークの反応は遅れ気味だ。
「まず魔法とは、体内や周囲のマナ――
……これは魔素とか魔力とかとも言われますが、それを一定の法則に従って再構成したものになります」
「ほほう……」
「以上!」
「「えっ」」
「では、次に本の探し方です!」
「あ、続くんですね。良かった」
「魔法を覚えるには、まずはマナを感じるところから始めなければいけません。
しかしこれは、本にするほどのことではないので、そもそも本は無いと思います」
「そうなんですか? すごい簡単なことだから?」
「体感によるところが大きいのと、本にするにはお金が掛かるからでしょうか。
それに、そこら辺の魔法を使える人に聞けば分かることですから」
「なるほど……」
「なので、その辺についてはわたしが直接お教えいたします。
それで、本で勉強するのはそのあとの『一定の法則に従って再構成』する部分になります」
「おお、それっぽいですね。
一定の法則……これは勉強しないと難しそう!」
「はい、こればかりはさすがに。
魔法道具で覚えれば、何となく理解できちゃうそうなんですけどね。
というわけで本としてはこれ……とか、どうでしょう?」
エミリアさんは魔法書のコーナーで、本を2冊選び出した。
「『はじめての魔法~水属性~』」
「『はじめての魔法~土属性~』」
「お二人はここからですね!
といいますか、初級用の本が他には無いみたいですが」
……本を開くと、少し大きめの文字で色々なことが書かれていた。
たまに魔法陣みたいなものが載っているけど、どことなく歪んで描かれている。
まぁ、これは写本だから仕方ないのか。
「そしてアイナさん。
わたしへの授業料として、この本を所望します!」
「別に良いですけど……、え?」
満面の笑みを浮かべるエミリアさんが持っていた本は――
「『はじめての魔法~光属性~』」
「いやいや、エミリアさんはもう使えますよね?」
「何を言うんですか! いえ、使えますけど。
いやいや、そうじゃなくて!
わたしは水属性や土属性の魔法を使えないので、光属性で言うとどの辺になるのかな、という参考資料です」
「な、なるほど……?
分かりました、それではそれも買いましょう」
「わぁい♪ やったー」
その喜びの声を聞いて、参考資料というのは嘘だなとは思ったけど――
……教えてもらうのは確かだし、これくらいは良いよね。
それにしても薄めの本が3冊で、金貨1枚と銀貨25枚。
値段としては、写本のせい……ということもあって、かなりお高いものだ。
……そのうち、印刷技術も広められないものかなぁ。
でも私、そういう知識がまるでないんだよなぁ。
印刷関係の仕事をしていれば、この世界で印刷無双ができたのに……残念!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!